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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
三章 水の都の勘違い女神
13/101

Q.11 彼女は何者?

男女比が更に偏る!

超絶奥手勇者シロ君の明日や如何に!?

「来ないなぁ、二人とも」


「まだお仕事終わってないんでしょ。うぅ。まだ夜は肌寒いなぁ……」


 ラ・ブール中央街、早々に金稼ぎを投げ出した勇者と魔王の二人組はこの街最高級の宿の前に二人で居座っていた。ここだけ見ると肩書が泣きそうだ。


 ミラの歴史的大敗の後、おとなしくこの宿へ向かったはいいがあまりにも早く着きすぎて、今度はミラが空腹も相まって「ひまひまひまひまー!」と駄々をこね始めてしまった。

 そう言われても、ありつく飯も金も無い俺達に許されるのは歩くことくらい。何とかミラを説得し、唯一頷いてくれたラ・ブール観光を決行することになった。初めは乗り気でなく、自信をぺちゃんこにされ現在の境遇の惨めさに終始下を向いていたミラも、最終的には金稼ぎに夢中になって気が付かなかったこの街の美しさをゆっくり眺める事が出来て満足そうだった。大きな街にありがちな闇の部分も見られなかったし、落ち着いて散策できる良い街だったなぁ。


 この街、水の都と呼ばれるだけあって至る所に水路が設けられている。今へたり込んでいる路地の両端にだって水路はあるし、もしかしたらこの下にも地下用水路が流れているのかもしれない。街の喧騒から心を切り離し耳を澄ませるだけで、生き生きとした水の音が絶えず聞こえてくるのだ。

 世界がこんな状況に陥っても「水」自体に影響が無かった事がこの街の活気の要因なのかもしれない。観光がてら寄ったラ・ブール資料館ではむしろ水生の魔獣が減ったことで水質が良くなったとかなんとか。水の「女神」像が街に残されているのもそこまでこの状況を悲観視していない証拠だろう。

 結局は数年で滅びてしまうんだけどなぁ……。

 今が良ければそれで良いのか、賑やかさを象徴する様なそんな少し笑えない街の特徴を知る位にはこの午後の間で街の事に詳しくなったんじゃないだろうか。


 で、現在はセトラとフレイヤを待っている途中。一度は忘れ去る事が出来た空腹も夕方の空腹と同時にやってきて胃袋を刺激してくる。

 美味しい飯、温かい風呂、ふかふかのベッド。すべてがこの建物の中に揃っていると想像すると……もう我慢の限界――、


「あ……フレイヤちゃんじゃない? あの女の子」


 失うところだった理性がミラの独り言の様な一言で戻ってくる。

 深紅の眼が見据える先、律儀に道の端をとてとてと早足で駆け寄ってくるあの影。うっすらと月明かりに照らされてあらわになる、ふわふわと先端にカールがかかった栗色の髪を持つ少女はフレイヤに間違いない。

 手に持った紙を見ながらきょろきょろしていたが、ミラが手を振っているのを見つけると、少し頬が綻んだ。

 あの紙……相当店主の老夫婦に可愛がられたのだろう。心なしかフレイヤの顔つきが逞しくなっている気もするし、良い職場で働けたみたいで預けたこちらとしても安心だ。


「おう、お帰り。フレイヤ」「おかえりー。お疲れフレイヤちゃん」


「……ちゃんとはたらけたよ! 二人ともすごく優しくしてくれたっ!」


 とても嬉しそうに話すなぁ。フレイヤも嬉しいときはちゃんと喜ぶんだな。メルティ以上に感情を表に出す機会が少ない子だったから、老夫婦に少し嫉妬してしまう。


「そっか。楽しかったか?」


「うんっ……! お兄ちゃん、お姉ちゃん、あの店をさがしてくれてありがとう!」


「フレイヤちゃんが喜んでくれるなら良かったわ!」


 さてと、後は大口を叩いて別れた巫女さんだが……。セトラは何をしてこの一日を過ごしたのだろうか。

 まさか収入0なんて事は無いと祈りたいが。


 しばらく三人で今日の出来事を報告しあって(カジノの一件は暗黙の了解で話題に出なかった)いると聞き覚えがありすぎる声が次第に近づいてくる。


「すいません! お待たせしちゃいましたね」


「おー結構遅かったな。何の仕事してたんだ?」


 軽くジャブ。相手の腹の内を探ろうとけん制を始めるが、


「まあまあ、積もる話は中でしましょー!」


 ひらりと躱され返ってきたのは余裕の笑み。一瞬ミラと目くばせ。どうやら負けたみたいですわ。

 ミラとフレイヤの手を取り、間接的に三人を引きずるように宿へ入っていく。

 見た目である程度予想はしていたけど……内装も、いや内装の方が一回りは豪華だった。


「セトラさん? ……ここ本当に泊まれるのか?」


「あはは……実はここの一泊、一部屋の料金が15000フロルなんですよね」


 あぁ。だからあそこで15000と宣言した訳か。


「しかし! しっかりと稼いできたので遠慮なさらないで下さい!」


 う。たぶん悪気はないのだけれど、その一言は稼ぎ0の俺達には重い一言だぞ。

 ってあれ? 今一部屋って言ったよね? それってつまり……。


・ 


 あれよあれよとやってきてしまった今夜の寝床。

 女の子三人。これだけなら見てて微笑ましい旅の宿だが、そこに追加で場違いな男が一人。 


「その、良いのか? ミラはともかくセトラとフレイヤは……」


「私は前も言ったようにそういうの気にしませんから!」


「……お兄ちゃんといっしょの方が楽しそうだもん」


 嬉しいよ? 嬉しいんだけども!


「あっ! 見てください、料理はここに届けて貰えるそうですよ!」


「なにそれ凄い! まるで魔王城ね!! 千年でここまで進化しているとは……恐れ入ったわ!」 


「わたし……おさかなが食べたいなぁ。いい? セトラお姉ちゃん」


 きゃっきゃ、俺の躊躇いなど意に介さない三人。

 ……うん。情けねー事ばっか考えてないで折角だし楽しむか。


「俺ももう我慢の限界! 頼んでもいいか?」


「はい。今日はゆっくりと疲れを癒して下さい!」



 部屋に運ばれた豪華な料理を四人で囲む。

 そういやこのメンバーでちゃんとした食事をとるのはこれが初めてだな。エルメリアはああなっちゃったし、道中のは食事とは言えない程ぎりぎりの生活だったから……。

 そんな感慨にふける情緒すら持ち合わせていない魔王様は早速温かい料理に手を付けようと、片手にフォーク、もう片手にナイフを手にする。

 俺もお腹が食べ物を求めている。しかし、だ。持たざる者である俺達はその前にしなきゃいけないことがあるんじゃないか? これでも伊達に二人一組生活をしていない。ミラは俺のジト目のみで何を言いたいかを理解してくれた。

 それでは、今晩の食事と寝床を提供してくれたお二人に向かって、


「「セトラさん、フレイヤさん! すみませんでしたぁ!!」」


 今回ばかりは情けないほど完敗だ。


「朝バカにして悪かった。俺達最終的には1フロルも稼げなかったわ……」


「ふふっ。お二人のしけたお顔を見た時からなんとなくそんな気がしてましたよ。気になさらないで結構です」


「だいじょうぶだよ……わたしもいっぱいお金もらったから、だいじょうぶ……!」


 うっ! フレイヤの優しさが辛すぎる。


「あっ、もしかしてお金盗られちゃいましたか?」


 ――プークスクス。

 こいつ……さっきから言葉の節々に棘があるんだけど、アトラと同じで意外と根に持つタイプ?  


「まあ冗談は置いておいて、どうして0フロルになっちゃったんですか? お二人なら何らかの方法で結構稼ぐんじゃないかと予想してたのですけど」


「……一時はそりゃもう稼いだわ。ざっと1000万だったっけ?」


 一瞬可哀想な視線を向けたセトラも、ミラの沈痛な面持ちを見て今の話が真実だと察したようで、


「もしかして……賭け事しちゃったんですか?」


「うん……」


「それで……お二人の事ですからミラ様の幸運を武器に荒稼ぎした後、ミラ様のステータスをも凌ぐ人が現れ負けたと」


「ぐっ……う、うん。青髪の女の子だった」


「ん、やけに察しが良いな」


「いえ、お仕事をしている途中に、ステータスだけなら匹敵しそうな人と出会ったのでもしやと思っただけですけど……」


 そこまで言うと眉をひそめ黙ってしまうセトラ。  

 

「? どうした?」


「あの女神を体現したようなお方が賭博をするかと思うと疑問がですね」


 ……女神? セトラが出会ったのがどんな人物か知らないから何とも言えないが、あの女の子は女神って形容が当てはまるほど神々しくはなかったような。むしろあの最後の笑みが印象的過ぎてどちらかというと道化師の様なイメージが先立っている。


「あんなのが女神? わらわの1000万フロルを持って行ったのに?」


「そういわれましても……私が自警団の仕事中に倒れてしまったところを助けて頂いたんですよぉ!」


 へぇ、セトラは自警団で働いてたのか。警察に加え、自警団まであるならこの街の平和さにも頷ける。相当精力的に活動しているんだろうな。

 

「青いかみの女の人なら……わたしも会ったよ」


 唐突に、ここまで魚をほお張りながら聴く側にのみ徹していたフレイヤが会話に割って入る。


「えぇ!? フレイヤちゃんまで?」


「わたしがお花の配達をしてた時……ヴェレ通りへの近道を教えてくれたんだ」


「だからあの時あんなところに――」


「……どうかしたの? セトラお姉ちゃん?」


「――い、いえ、なんでも! 続けて?」 


「……? えっと……うろうろしてたらぶつかっちゃったんだけど……あ、そういえばお金をいっぱい持ってたよ」


「いくらくらいだったか分かるか?」


「うん。……でもお話に出てきたくらいたくさんではなかったよ。小さな袋にいっぱいってかんじだった」


 なら違う? たとえ同一人物だとしても俺らに会う前か?

 ここまで容姿の情報が一致していると気になるが、いくらなんでも人格や行動目的にばらつきがありすぎる。

 あれ? 何だこの既視感――、

 !!

 

「痛った……! クソ、また・・か!」


 襲い掛かる頭痛。それは、封じられた記憶に対して「鍵」が発動した合図。

 思い起こした記憶は、水の賢者リヴィアの記憶。

 何というか……気まぐれな奴だった。多少行き過ぎた気分屋の彼女の扱いは、リーダーとしての資格だけが取り柄のアトラでも手を焼いたほどだった。後はそう、異常なほどの幸運。急に居なくなったと思えば伝説級の装飾品を見つけてきたりと、とにかく捉え所の無い奴だったなぁ。


 ってことは……マジか。あの子賢者の子孫なの?

 一足先に察したセトラが嬉しそうに顔を和らげる。 


「賢者の記憶ですか!? と言うことは……」


「みたいだ。それならミラのステータスに肉薄したのも頷けるか。てっきりイカサマか天使様かと思ってたが……これはラッキーだな」


「全然ラッキーじゃない! あれと一緒に旅するってこと!?」


 セトラと真逆の反応を示す元魔王。

 俺としては良く分からないが、きっと一度の敗北が、王族としてプライドが許せないのだろう。露骨なほど彼女を旅の仲間に加えるのに難色を示している。


「でもよ……前のアトラの情報には『賢者を集めろ』ってあったぞ? 我慢するしかないだろ」


「ぐ……ぐぐ。……なら再戦よ! 再戦して打ちのめしてからじゃないと仲間にしない!」


 えぇ……。何その縛り。なぜ自分でハードルを上げるのだろう。自分より強い奴がいると気に食わないのだろうか。

 そしてそれにつき合わされ、再び敗北し手頃な勇者にキレ始める未来が見えるのは俺だけだろうか。


「まぁまぁミラ様。落ち着いて下さい。まずは彼女を見つけなくてはいけません」


「だな。フレイヤが天使に狙われてたのを考えると早めに接触しておきたいし、明日あたり早速探しに行こう」


「……おー」


「では、明日の目的も決まりましたし今日やることは終わりですね! 後は食べて寝ましょう!」


「……おー」「やった! いただきます!」


 天を向いていたミラの眉は、もう虹のように綺麗なカーブを描くまで落ち着いている。

 余程腹が減っていたんだな。それは分かるけど、わかるけど魔王としてどうなんだ。この旅が始まってからミラのカリスマが大幅下落している気がしてならない。


「ミラ……お前ちょろいってよく言われない?」


「えへへー残念! 城ではかわいいって言われてたー」


 あ、そう。



 さて、宿恒例、当面の課題である入浴だったが今回は前回のように苦労をしなくて済みそうだ。

 

 と言うのも、なんと! 部屋に一つ浴槽がついているらしいのだ! 

 

 流石はミラの服200着分の部屋。景色もさることながら、それ相応の設備だ。

 これなら壁越しに5mを維持できる。エルメリアを出た時はフレイヤが加わったことで入浴の難易度が跳ね上がったことに戦々恐々したが、これで一安心。ミラのような見た目ロリっ娘とは違って本物であられるからな。危険度も跳ね上がる。

 

 それで今は女子陣が入浴中。

 何も三人で入る事無いんじゃないかと指摘したらセトラに二分ほど説教を喰らった。やはり女の子は分からん。

 ……壁越しに聞こえる楽しそうな声々は聞こえないフリ。かといって壁から離れる訳にもいかない。

 落ち着け。何も聞こえない。セトラやフレイヤの身体的特徴なんて聞こえない!


(わぁ! ガロニアの宿でも思ったけどセトラ意外と胸大きいよね!)

(……すごい。……すごい!)

(そうですかねー? きっとミラ様もフレイヤちゃんも大きくなりますよ!)


 ぶっ!!

 跳ね上がる心拍数。意思とは裏腹に研ぎ澄まされていく聴覚。

 だ、駄目だ。こっちの壁はダメだ!! 薄すぎる!

 首だけ回転させて、この部屋と隣の部屋を隔てる壁の方へ耳をそらす。

 こっちなら大丈夫なは、ず――、


(ああっ! そうよジョージ! もっとぉ! もっと激しく!!)

(君と結ばれてよかったよマリア! ああ、この夜を踊り明かそう!!)


 ――!?!?

 な、なななんですと!? この薄壁一枚を隔てた先で夫ジョージとその妻マリアは何を繰り広げているんだ……っ! やけに情熱的な音楽と共に二人の扇情的な呼吸音が絶えず聞こえてくるし!

 完全に予想外の精神攻撃に思考を一瞬で白紙にされる。 

 もうなにも考えられない!

 頭が熱を帯びてぼーっとしてきて、脳が溶けそうだ。

 情報を遮断するため壁から離れ、震える手でいかにも高級そうな毛布をつかみ身をくるむ。あ、すっげー手触りいいぞこの毛布!

 それと同時に風呂場では絶叫が反響した。

 あっ……ごめんミラ。

 俺の方も腹痛、頭痛と様々な箇所が悲鳴を上げ始める。

 そして頭痛続きの脳みそがついにバカになって壊れたのか、風呂場で悶えているであろうミラを意識し始めると今度は彼女の吐息が荒く聞こえてくるようで。

 これは……もう……むり。



「あれ? 毛布にくるまっちゃってどうしたのシロ? ってか急に離れないでよ! すごく痛かったんだから!」


「うぇあ!? み、ミラ!? あ……その……色々悪かった。少し……放っておいてくれないか?」


 湯上りのミラの視線に罪悪感を覚え、つ無意識の内につい目をそらしてしまう。


「えーなにそれ変なの。お風呂には入っておいてよね? いつも臭いんだから」


 あー……確かに千年前から一度も体を洗ってないっけ。ガロニアで無理してでも入っておくんだった。

 入りたいのは山々だが、気分的に下がりきっていてこのふかふかなベッドから離れたくもなくなってきた。 


「おー……後でな」


 

 ふぅ……。

 一晩ぐっすり寝たら頭のもやもやもすっきりと晴れた。

 ……昨日ミラであんなことを考えてしまった自分を殺したい。

 

 そんな邪なことを思い返したせいで複雑な心模様とは対照的に、太陽が昇り始めたこの大空は青く、この水の都に覆いかぶさっている。

 清々しい風も適度に吹いて良い天気だ。

 それじゃあ、うん。気を取り直して、

 

「……行くか、水の賢者の子孫を探しに!」


ここまで読んでいただき、お疲れさま&ありがとうございました!

おまけは今回のどうでもいい小話と全く関係のない小話。


小話

夫の名はジョージ。妻の名はマリア。

シロ一行の隣部屋に宿泊していた一般夫婦。

大会が近いのでダンスの練習をしていました。たぶんラテン系。

シロ君はそんな知識を持っていないのでとても混乱したそうです。


関係ない話

神が敵と言うことで、本来敵になりえないポジションの立ち位置の人を敵に回せるこの世界は結構お気に入りです。チートもってやってくる奴らが出てくるのはもう少し先のお話。


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https://twitter.com/ragi_hu514

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