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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
三章 水の都の勘違い女神
12/101

Q.10 え? 私いつの間に騙されてます?

謎の青髪の少女に迫れ!

~フレイヤの場合~


 ……お兄ちゃん達うまくやってるかなぁ……。ちょっと心配だな……。

 お花の手入れをしながらついそんな事を考えちゃう……。

 わたしのお仕事がうまく行き始めたら今度はみんなが心配になってきちゃった……。

 そんなことを思いながらもお花を切りそろえるていくのはやめないわたしの手。

 だめだめ……! せっかくシロお兄ちゃんとミラお姉ちゃんが探してくれたお仕事なんだから……ちゃんとがんばらなくちゃ……! 

 気持ちを入れかえたところでこのお花屋さんの店長のおじいさんから声がかかる。


「お嬢ちゃん! 次はそこにある鉢植えをこっちまで持ってきてくれないかい? こっちはちょっと手が離せないんだ!」


「……はーいっ!」


 おじいさんにも聞こえるように大きな声で返事。どうやらお店ではたらくには「大きい声を出す」事が大事らしい……。バロおばさんもわたし達が店に行くと元気にむかえ入れてくれたっけ……。

 ここに来てから初めてもらったお仕事はお店の前でお客さんにあいさつをする事だったし……元気じゃないとお客さんも来ないんだって。

 それを聞いた時は不安になったけど……おじいさんとおばあさんが優しく教えてくれたからちょっとは元気になれたんじゃないかな……? たぶん……。 

 

 たのまれた鉢植えを見つけ、こわさないように両手で持ち上げる。

 ……んっ……重い……!

 こわさないように……ゆっくり……ゆっくり……。

 おじいさんの姿が見えるようになると、申し訳無さそうにしたおじいさんが慌てて鉢植えを持ってくれた。


「あはは……ごめんな。重かっただろう? でもよく持ってきてくれたね、ありがとう助かったよ」


「……次は……何をすればいいですか? 楽しいから……もっとはたらきたいです……!」


「うーん、休憩しててって言おうとしたけど……お嬢ちゃんがそう言うなら――」


 おじいさんはそう言うと奥から花束を持ってきてわたしに渡し、言葉を続ける。


「――これをヴェレ通りのグレイデルさんの雑貨屋へ持って行ってくれないかな? あそこは目立つお店だからすぐに分かる筈だ。ちょっと遠いけど……街の人に聞けば道を教えてくれるはずだ。できそうかな?」


 ……一人でお届け物……。すこしこわいけど……やってみせる!

 小さくうなずいて花束とおじいさんが急いで書いたんだろう地図を受け取る。手元の色とりどりの綺麗なお花のいい匂い……。これを作れるおじいさんはきっとすごい人だ……。ちゃんと届けなきゃって思いにさせてくれる。

 うん、がんばろう……っ!! 

 小走りでお店をとびだすわたしをおじいさんが呼び止める。


「裏路地は入らないようにな! あそこは色々と危ないから!!」


 大きな声で元気よく!


「はいっ!!」



 どうしよう……おじいさんに元気よく返事しちゃったけどもう道がわからなくなっちゃった……。

 お兄ちゃん達と来た道までは覚えてたけど……このまち……すごく広い……?

 

 おじいさんに言われたように周りの人たちに道を聞こうと思ったけど…みんな忙しそうで怖い顔してるし……どうしよう……。


 いたっ!!


 あてもなくとぼとぼ歩いていたわたしは、急に前から走ってきた女の人に気づかずにぶつかって転んでしまった。

 ……あ、良かった花束は無事だ……。

 

 じゃなくって……!

 おどろいたからかな……女の人もわたしみたいに地面にお尻をぺったりとくっつけて座っている。辺りには布の袋からこぼれちゃったたくさんのお金が音をたてて散らばって……。


「……あ、あのっ! ごめんなさい! 大丈夫ですか……?」


 わたしのせいで落としちゃったお金をひろい集めながら女の人の顔を見てみる……。

 今日のお空みたいにきれいな青色をした髪の女の人だ……。着ているものは……わたしとおんなじ位よごれちゃってるけど……間違いなく美人さん。

 ……でも、これだけのお金があるのにぼろぼろの服を着ているのはなんでだろう?


「……あ、ありがと! びっくりしちゃった……。あたしこそごめんね? お花……大丈夫だった?」


 ……どうやら明るくていい人そうだ。こわい人じゃなくて良かったぁ。


「あ……はい……っ!」

 

 そうだ……! このお姉さんに道を聞いちゃえばいいんだ!


「あ、あの……わたし道に迷っちゃって……ここってどこか分かりますか……?」


 おじいさんにもらった手書きの地図をお姉さんに見せてみる。どうかな……。 


「ふふん! お姉さんに任せなさい。あたしがどれだけこの街を走りまわったか……この街の地理においてあたしの右に出る者はいないわ!」


「ほ、ほんとうですか……!? ありがとうございます……!!」


「そこの通りをまっすぐ進めば正面に見えるはず。普通に行くより大分早く着くはずよ!」


「わぁ……困っていたんです……。助けてくれて本当にありがとうございます……っ!」


「うっ……! ……うん、気を付けてね~」


 ? なぜだかお姉さんの顔がちょっと引きつったような……。

 ん……まあいいや。きっと雑貨屋さんのグレイデルさんも待っているだろうし、早く届けに行こう。

 最後にお姉さんにお辞儀をして近道の通りにへ入る。

 

 ……この通り……人少ないな……。

 あれだけ賑やかに聞こえてきた声が急に無くなってしまう。

 この通りは建物でさえぎられてあまりお日様も入ってこない……。

 ここって…おじいさんが言ってた「裏路地」なんじゃ……? ここにいる人…なんとなくいやな感じのする人ばかりだし……。

 ……ううん。親切に道を教えてくれたお姉さんをうたがうことはできない……!

 だいじょうぶ……できるだけ目を合わせないように……急ぎ足で……!


「……きゃ……っ!」


 ……なに? 足……引っかかって……。

 っ!

 見上げると何人もの大きな男の人達。お兄ちゃんやお姉ちゃん達とはちがう……気持ち悪い笑いでわたしを見下ろしている。……わざと足を引っかけてきたんだ……! 

 この人達……悪い人だ。

 急いで転がった花束をひろい立ち上がる。

 

「……ご、ごめんなさいっ……わたし……急いでいるから……!」


「まてよぉ~お嬢ちゃんのせいで靴が汚れちゃったんだよなぁ~」


「そんな……っ! わたしはただ歩いてただけで……!」


「あんだぁ~? 俺らが悪いって言うのかよぉ~?」


 いちばん体が大きい男の人が合図すると、まわりの男の人達がわたしを囲むように、逃げられないように集まってくる。

 ……こ、こわいよ……わたし何にも悪いことしてないのに……。


「まだまだちっこいけど随分可愛らしいじゃねぇかよぉ~。お嬢ちゃん俺達と楽しいことしようぜぇ~!」


 大きな手がわたしの体をがっちりととらえて離してくれない……!


「いや!! ……離して……くださいっ!!」


 誰か……たすけてっ!


「――その辺にしなさい! 今やめるなら私も見なかった事にしましょう!!」


 ? こわくて閉じた目を開けるとそこにいたのは…仮面をつけた女の人?だった。

 お話の中ののヒーローみたいな真っ黒いマントで体は隠れているけど……声からしてたぶん女の人。

 誰だかわからないけど……男の人達はあっけに取られていてわたしを見てない。手の力もゆるんでいるし……今ならっ!!

 女の人にお礼を言えないけど……今は逃げるしかない……!

 後ろで「逃げたぞ!」や「追わせませんよ!」なんて声がしたけど……こわくて……振り向いたらまた転んじゃう気がして……まっすぐ走るのだけで精いっぱいだった。


 どれだけ走っただろう。お日様がわたしを照らしてくれるまで、とにかく走りつづけた。お花を離さないように、転ばないように。もう心臓がばくはつしちゃいそうなくらい、走った。

 ……。

 息をととのえて、落ち着いてようやく聞こえてくる人の声。

 

 こ、こわかったぁ……! もうだめかと思ったぁ……。

 あの女の人はだいじょうぶだったのかな……お礼言えなかったな。


 安心し、手に持った花束を見たことで何でわたしがここにいるのかを思い出す。


「そうだ……配達! あ、あの大きな店かな……!」



「一日お疲れさま! フレイヤちゃん良く働いてくれたわぁ! ぜひこのままうちの子にしちゃいたいくらい!」


「えへへ……ありがとうおばあさん。おじいさんもはたらかせてくれてありがとう!」


「ぜひまた来ると良い。給料ももっとはずむぞ!」


「……うん! そのときは……またよろしくお願いします!!」


 もらった一日分のお給料をしっかりとポケットに入れてお別れのあいさつ。

 一日、いろいろあったけど……すごくまんぞくできるお仕事だったなぁ……。二人ともすごく親切で暖かくて……また来たくなるようなお店。……バロおばさんの雑貨屋と同じだ。


 今日起こったことお兄ちゃん達にじまんできちゃうなぁ……!

 来たときは不安交じりだった足取りも今はなんだか軽く感じるな。


~セトラの場合~ 


 もうっ! 三人して私を使えない子扱いですか! そんなに巫女の一族はバカだと言いたいんですか!

 絶対にあの三人……特にシロ様とミラ様のお二方には今夜の宿で謝ってもらいます!

 床に座らせて……私はベッドに腰を下ろしフレイヤちゃんに抱きつかれながら言うんです。

 ――「ごめんなさい」と「ありがとうございます」はどうしたんですか? と。


 ……その為にはまず稼げるお仕事を見つけないといけませんね。

 あまり巫女だということを公にしたくはないので過去の経歴等が必要無い軽めの仕事、もしくは自分の特技でお金を得たいのですが……。

 街の求人票を見る限りあまりよさげなところがありませんね……。

 稼ぎがよさそうなのは……、

 

 「酒場の接客」。仮にも巫女の身ですのでこういうのはあまり……。

 「花屋のアルバイト」。小さい子でも可! フレイヤちゃんのような可愛い子が居るのなら……いえ! 私がまともに仕事できなくなるのは目に見えているので却下です。

 「大型竜の討伐」。報酬が最も高いのはこれですが、シロ様たちに頼らないと無理そうですね。中型魔獣なら一人で倒したこともありますけど……今は魔獣に襲われること自体珍しいですから武器もそれ用のものを持っていません。ここはきっと魔界に近いのもあって力を持った魔獣が多いから討伐依頼も出されているんですね。100万フロルは魅力的ですが諦めましょう。

 

 ……どうしましょう。まったくもって条件に合うお仕事が無いです。

 これは道端で芸をして稼ぐしかないですかね……。噴水広場のあたりが賑わっていましたし、一度様子を見に行って――、


「ひったくりだ!! くそっ間に合わねえ! 財布を盗られた! 誰かその男を捕まえてくれ!!」


「へ?」


 声のした方へ振り返ると――、ひょろっとしたローブの男性が丁度私の方へ向かって突進してきているじゃないですか!!

 

「あ、あわわ……えーっと! ごめんなさい! 五感拡張(ライズ・オール)!」


 巫女特有の感覚拡張魔法を唱えると、ローブの男性の動きがより鮮明にコマ送りのようにはっきり目に映ります。ポケットの膨らみ、財布はそこですか……! あれではすれ違いざまに直接取るのはほぼ不可能ですね。

 ではまず……向かってくる相手と同じ向きに向き直り、走るため前に伸びた腕をとって……彼の動く力を利用してっ――!


「お、おわっ!? ぐえっ! ……」


 ありゃ……。少しやり過ぎちゃいましたかね……?

 ミラ様に教わった体術。つい勢い余って投げ飛ばしちゃいました。

 ひったくりの男性は白目を向いて大の字を道路に描いちゃってます。

 まさか……死んでないですよね!? 慌てて駆け寄ると幸いにも息はあるようで一安心。

 どれどれ……不届き物のポケットから財布を取り返し、遅れて駆け付けた持ち主の男性に手渡します。


「おっさんきゅ、助かったぜ。にしてもアンタそんななりなのにすげぇなぁ……!」


「いえいえ、そんな褒められても……魔法使ってますし」


「魔法使っててもあんな動き、うちの奴らでも出来る奴ぁそうはいねぇぜ」


「『うちの奴ら』……?」


「ああ、俺はこの街で自警団やってんだよ。まだ数えるくらいしかいないんだけどな。最近こいつみたいに迷惑起こす奴が多いからよ……今のは情けないことに完全に油断してたわ」


 ……自警団ですか。どうやらこの方はその団長さんらしいですね。

 ……ふむ、これは我ながら妙案かもしれません。

 

「あのー……。一日だけ私を自警団に入れて貰えませんか?」



『セトラ……えっと……コードネームS! 街の東、フィンスター通りにて刃物を持った男が女性を追いかけているらしい。今のが片付き次第至急向かってくれ! こっちは手が離せそうにない!』


「ヴェレ通りの辺りの裏路地ですね!? 了解しました。お任せを!」  


 屋根伝いに街を横断。五感拡張魔法の応用、団長さんからの声が私を現場へ導いてくれます!

 あぁ……憧れてたんですよ! こういうの!

 昔っから厄介ごとに首を突っ込む性分でしたから、この仕事は巫女の次に天職かもです!

 

 自警団の皆さんには信用して貰うために巫女であることを明かしました。皆さん街を守るお仕事をしている方たちですから、いい人ばかりで……なんと今私が着ているマントや仮面も、即興で仕立てて貰いました!

 これでいくら巫女の魔法を使おうが完全に身元がばれちゃうことはなさそうです。安心して街の平和に貢献できます。

 

 さて、見えてきましたね。ヴェレ通りへ繋がる裏路地、フィンスター通り。ここはいわばこの街の闇の部分で、普段は自警団も警察ですらも手を出せないそうですが……今日は特別。悪が蔓延っている現状を私が打破して見せます!


「いやぁああ! 誰か、誰か!!」


 っ!


「いました! 報告通り男性は小ぶりなナイフを所持しています。すみません、緊急と判断しもう拘束しますね!」


『おう、判断は任せた!』


 ――五感拡張(ライズ・オール)!!

 勝負は一瞬です。男性に気付かれもしません! 抵抗されないように死角となる背後上空から建物壁を飛び移って――、


「なっ――!?」


 きっとこの男性からしたら一瞬で世界が真っ暗闇になったことでしょう。

 自警団謹製「ドヴェルグの紐」。同名のおとぎ話に出てくる紐程頑丈ではないですが、まず切れないことで有名らしいこの紐。

 背後からこれでぐるぐる巻きにされてはもう抵抗どころではないでしょう。ちゃんと親指も縛っておきます。ふふ……親指ってがっちり縛られたら結構何もできなくなるんですよねー♪


「んーんー!!」


「ラ・ブール自警団です!」


「あ……あぁ……有難う御座います!!」


「いえいえー♪ 気を付けてお帰りください!」


 足早に駆けて行く女性。無事なようで安心しました。

 裏通りの住民方も物惜しそうに去っていく女性を眺めていますが……私がいるからかそれ以上は手を出しませんね。

 それにしても酷く治安が悪そうな場所です。華やかな街には必ず裏の顔があると良く言いますが……これだけのならず者をつくってしまうならガロニア位の発展が一番なのかも。


『どうなった?』


「あ、はい。1名拘束……女性の方は外傷無し。解放しました! ――!?」


 見渡す路地裏。向こう側がなにやら賑やかだと思ったら――フレイヤちゃんが囲まれてますっ!! 何でこんなところに! じゃなくて……助けないと!


『ごくろう――』


「すみません! 追加の案件です! あの数……ちょっときついかも。可能なら増援をお願いしたいです!」


『任せろ。すぐに手配するぜ。場所は同様にフィンスター通りだな?』


「はい!」


 もう一度空から奇襲を掛ける時間は――ないですね。フレイヤちゃんを安全に逃がすためにも注意を引き付けるのが正解でしょうか。

 では……正々堂々!


「――その辺にしなさい! 今やめるなら私も見なかった事にしましょう!!」


 さあ! フレイヤちゃん今の内に逃げてください!

 私の作戦がフレイヤちゃんにも通じたかは定かではないですが、大柄な男性の拘束が緩んだと判断した彼女は素早く私たちに背を向け駆けて行きます。

 怖くて声も出なかったのでしょう。すれ違う彼女の顔は何か物言いたそうでしたが、それ以上の危機を感じ振り返ることもせず、その後はヴェレ通りに向かって一直線でした。

 

「逃げたぞ!」

 

 ならず者さん達は私なんぞに目もくれず、せっかく手に入れた獲物が惜しいのかフレイヤちゃんにご執心の様子。

 でも残念です。フレイヤちゃんは貴方達のモノじゃないんですよね。


「追わせませんよ!」


 私のものなんですよ!

 百歩譲ってシロ様レベルの心の持ち主ならまだしも、貴方達のような最低な筋肉ダルマに渡すのはあまりに惜しい天使なんですから!


「はぁ? じゃあ代わりにお前で我慢してやるよぉ~!」


 ふふ、ざっと4人ですか……。やはり少し厳しいですかね。

 私自身あまり強くないですし。感覚拡張でどこまで凌ぎつつ拘束できるか……。

 まあ、可愛いフレイヤちゃんの為です。一人たりとも逃がしはしませんよ!


「うらああぁ!」


 右から一人、踏み込みの音からして拳ですね。真ん中のボス格の大男はナイフを取り出して……おそらく次で刺しに来ます。

 一人はその隙に後ろに回り込んで…これも次で頭狙いの回し蹴りかな?

 よし! まずは……半歩後ろに下がって右から迫りくるパンチを交わすと同時に!

 

「こいつ……避け――うおっ!」


 前のめりの姿勢をさらに崩すため足を引っかけます。これで左の一人も少しの間動けません。

 次――背後から上段の蹴りと大男のナイフ!

 なるべく流血はさせたくないので……まずしゃがんで蹴りを回避。その場で立ち上がりつつ180度回転。

 すぐさま私を刺そうと伸ばした大男の手を取り、先刻のひったくりの男性の時と同じ要領で背負い投げ!

 緩んだ手の平からナイフを拝借、同時に上に投げておきます。


「ちょっボス!? げぶっ!! ……」


 蹴りの男性に叩き付けられ、その勢いで跳ね上がった大男をすぐさま「紐」で拘束です! こういうのはボス格を潰してしまうのが効率的だとなんかの本で読みました。

 

 くるくると8回転目に入ったナイフをキャッチ。ちょうど良いのでこれで紐を切ります。

 どうでしょう。これで相当な強キャラ感出てたら後が楽なんですけどね。


 ……下敷きになった蹴りの人は……白目ですし拘束するまでもないですね。

 残りは二人。萎縮して引いてくれれば助かるのですが。


「ぐ……こ、このアマ……とんでもなく強え……!! ボスがあっさりとのされちまった!」


「まったくもって攻撃が当たんねえ……まるで後ろに目がついて……いや! 上から見下ろしているような動きだぞ……」


「さあ……まだ続けます? 今ぼこぼこにして捕まるにしても、この大男から芋づる式に捕まるにしても時間の問題だとは思いますが」


「ご、ごめんなさい!!」


 自ら手を差し出してくれるなんて物分かりが良いチンピラさん達で助かりますね。

 いやー何とかなるもんです。ナイフを取り出されたときは安全に捕まえる為の選択肢が二通り位しかなくて焦りましたけど。


『今現場に到着した。もう少し待ってろ!』


「あ、すみません終わっちゃいました!」



 一応今日の分の働きで報酬を支払って貰えるそうなんですが……良いんですかね? ここまでで私が治めた暴動は十件。小さなトラブルを含めると三十は越しちゃいそうです。

 このままいくと契約の六時までにとんでもない数を解決してしまいます。

 他の方々がボランティアで参加しているかお給料を貰っているかは分かりませんが……前者であることを祈るばかりです。


 と、そんな順風満帆すぎる故の悩みを抱きながらラ・ブールを巡回中。

 お昼時で多くの人はご飯を食べているからでしょうか、極端に異常の報告が少なくなりました。やはり食欲には勝てないんですねぇ……。

 かくいう私もお腹空いてきましたし、適当な所でお昼ご飯を――あ、私今お金持ってないんでした。

 自警団のアジトに戻ればもしかしたらお昼が貰えるかもしれませんが……無理を言って働かせて貰っている身としては気まずいものがありますよ。

 うぅ。一度意識してしまったらもう我慢できません。街中どこを歩いても良い匂いが立ち込めてきて……。

 

 人通りの少ない通りに来てとうとう足が止まってしまいます。ここは……あまり裕福なエリアではないのでしょうか。私の眼には住宅街に見えるここは、お昼時だと言うのに美味しそうな匂いがしてきません。

 良かったのやら良くないのやら。きゅうきゅう言いだしたお腹と相まって、せつない気持ちになってきて……。

 あぁ……ぽかぽかとした陽気がとても温かくてつい柱に背を預け座ってしまいました。目を閉じて耳を澄ませると水の都と言われる由縁の音がさわさわと鼓膜を揺らしてくれます。

 なんだか……ねむ……。



 ん……。誰か……私の肩を叩いてる……?

 あれ、仮面……なんで外されてるんですかぁー……?

 寝てた場所と違いますし……あの住宅街の奥ぅ?


 あ……。すごく綺麗な女の子……。水の治癒魔法でしょうか……? 何か唱えて……。

 まぶしい真昼の太陽に照らされて、まるで……女神みたいな……。


 はっ! いけない! つい眠ってました!

 脳みそが覚醒し、勢いよく飛び起きると周囲から歓声が上がります。

 真っ青な髪の女神さま?の様な女の子に膝枕されていた私。それを取り囲むようにしてここの住民の方たち?が座っています。

 え? 何で? どうしてこんな事になっているんでしょう?

 色々な非日常的光景を見てきた私ですけど、流石にこの状況には疑問符が途絶えません。

 確か……お腹が空いて寝ちゃったはずなんですけど……。

 

「えーっと……これは……?」


 取りあえず何でも知っていそうな神々しいお顔をしていらっしゃる女神さまらしき女の子に尋ねてみます。パッと見歳は同じくらいですけど……私と比べるのもおこがましいほどの美人さんですね……。


「ふふ……貴女……死にそうだったのよ? もう少し遅かったら大変だったかも」


「ええ!? そ、そうなんですか!? それは……お助けいただいてどうも有り難うございます?」


「いいのよお礼なんて。そうね……もしお礼をしてくれると言うのなら、そのマントをあたし達にくれないかな? この地域の人……まともに生活できない人も多くて困ってるの。少しでも夜暖かいように……ね?」


 んー、このマントは自警団の方が私の為に作ってくれた品なんですけど……。困りましたね。


「マントは……渡せません」


 あれ? 気のせい……ですよね。こんな全てを包み込む笑顔が一瞬曇った気がしたんですけど……。命の恩人に失礼ですよね、私。


「ですので代わりと言っては何ですけど……今渡せるものは渡しますね」


 とは言ってもあまり手持ちは少ないんですけど。

 飲み薬用の空き瓶が3本、火水光の簡易魔法符2枚ずつ、後は――エルメリアで手に入れたナイフが1本。この位ですね。後は自警団のアジトに置いて来ちゃいましたし……。

 

「こんなにいいの!? あ、ありがとう!」


 どうやら喜んでもらえたみたいです。出来ればエルメリアの、バロおばさんの雑貨屋で買った万能ナイフは使い勝手も良かったし、思い入れもある品なので手放したくはないですけど……命を助けて貰ったお礼としてこの人達に大事に使ってもらえるならそれでもいいですかね……?

 

「あのー……仮面は返してもらえるとありがたいんですけど」


「ああこれね。はいどーぞ」


「ありがとうございます! その……命を助けて頂いたのもありがとうございました!」


「いいのいいの! これがあたしの仕事みたいなものだから!」


 ――もう行き倒れないようにねー!

 

 何度も何度も女神さまにお礼を言って、住宅街を後にします。

 それにしても、何だか夢の様な体験だったなぁ。神々しい雰囲気と相まって……ここだけ絵本の中みたいな、現実から切り離されたような、そんな時間でした。

 にしても私死にかけてたんですね。あの安らかさは死の前兆だったのかと思うと背筋が凍りそうです。次からは携帯食を手放さないようにしましょう……!



「一日ごくろうさま。君はラ・ブールの救世主だぜ。本当は毎日居て欲しいってのが本音だけどよ……旅、続けるんだろ?」


「はい。この街の前に世界を救わないといけませんから……」


「だな。巫女様がセトラみたいな善い奴で安心した。この街は俺らが何とかするからよ、世界は任せたぜ」


「はいっ! 絶対この街に帰ってきます。団長さん、それまで街をよろしく頼みますね! 皆も……衣装まで作って下さってありがとうございました。これは……ここに置いていきますね」


「え? 捨てていいの?」


 服を作ってくれた同い年の女の子、コードネームEちゃんがおどけた声で聞いてきます。

 

「だ、駄目ですよぉ!! もう一回着ますから、ちゃんと取っておいて下さいねっ! では……そろそろ」


 たった一日だけ、メンバーも数える程しかいない小さな自警団ですが、皆さん暖かく迎えてくれて、感謝してもしきれません。

 全て終わったらここで働くのも――いえまだ先のお話ですね。


「ん……これ、今日の報酬だ。今日のセトラの働きを考えると若干少ないかもしれんが……受け取ってくれ」


 渡されただけでおおよその価値が分かるほどの重量の麻袋。これ……本当に貰っちゃっていいんですかね?

 気まずそうな雰囲気が伝わっちゃったのか、団長さんはあえてそれ以上何も言ってくれません。


「それじゃあ、また」

 

 ふふ……さよならを言わないところが団長さんですね。では私も。


「『また』です! お疲れ様でした!」


 自警団秘密のアジト。またここに来れたらいいなぁ。

 三人も今頃それぞれの働き先でそんなことを思っているんでしょうか? シロ様ミラ様ペアはともかく、フレイヤちゃんにはこんな気持ち、知って貰いたいですね。


 さてと! 目標金額以上のお金も集まりましたし、待ち合わせの宿へ向かいましょう!

 路頭に迷っている可能性もありますからね!


 ……お二人をぎゃふんと言わせるためにも! 

セトラは一応そこらの一般人よりは強いという良い見本の回でした。

相手が天使とかじゃなくて普通の盗賊とかだったら戦闘にも参加できたんですけどね、相手が悪いね。

ミラだったらきっとR-18ですね。内臓が飛び散る描写にあふれそう。


ご意見ご感想お待ちしております! 見て貰えるだけで有り難いのですが、コメント貰えるともっとやる気が出ます! よろしくです!


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更新とか色々つぶやくかも…?

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