Q.9 手っ取り早く稼ぐために何をすればいいかは分かってるよな……?
キャラ絵が思ってたより難航中なので先に新章です。
テーマは水と金? あとクズ?
――あははっ! やっぱり女神の仕事最高!!
これだけ幸運なんだもん! 楽しく生きなきゃ損だよね!
……みんな幸せになれればいいのになぁ。
「お、お、お金落としちゃいましたぁー!!」
魔界最寄りの大都市、水の都ラ・ブールに響くセトラの懺悔。
あまりにも間抜けすぎるカミングアウトに街往く人々から多大な視線を頂戴する我ら星を救うパーティの面々。
「……は? いや……は?」
かくいう俺もそんなことがあり得るのかと、まだ思考が追い付いていない。つい二回も聞き返してしまった。
いや……だっておかしいだろ。俺らの全財産を管理していたのはセトラ。つまり彼女の懺悔が真実だとしたら俺等は今日泊まる宿さえ無くなってしまう。そんな現実は認めたくない! だってガロニアの森を出てからかれこれ一週間はまともなベッドに身を預けることを許されなかったんだぞ!?
「ねえ! セトラ顔をそらさないでよ! ほんとなの、ねえ!!」
ミラもかなり切羽詰まった様子でばつが悪そうに俺達の視線から逃げようとするセトラに詰め寄っている。
こいつもこいつで綺麗好きだからここでの髪や肌への休息を絶たれるとどうやら致命的らしい。
「……お姉ちゃん。けーやくいはん……お風呂は最低でも週1回って言ってた……」
意外にもフレイヤがつんと眉を吊り上げてミラにくっついて非難している姿を見せる。まあ年頃の女の子が急に風呂に入れなくなるのは苦痛か。いつの間にそんな契約が交わされていたのかは謎だが……。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!!」
ミラはともかく普段温厚なフレイヤにまで責められ、耐えきれない程の罪悪感に苛まれたのか、とうとう半泣きで土下座を始める人類代表。
ほ、ほら皆見てるから! 可哀想なものを見る目で衆目に晒されてるから!!
「セ、セトラー? 今日の宿はどうするつもりなんだー……?」
取り敢えず、不満の元、真っ先に解決しないといけないであろう案件に取り掛かってみる。
「……ううぅ、このままだと……路宿です……ひっぐ……」
「路宿って何だよ!? 初めて聞いたし俺はこんな固い石畳の上で寝るつもりなんざ更々ねーからな!!」
「うっうえぇええ!!」
「ああっ悪い言いすぎた! 旅の仲間の痛みは皆の痛みだもんな!」
「……お風呂の為にも……あ、セトラお姉ちゃんの為にもがんばるよ?」
ああ! フレイヤの幼心から来る無自覚な悪意がセトラを襲う!
「私は……ぐすっ……おまけなんだね。でも……ありがとう……!」
「この街結構路上でパフォーマンスしたりしてるからそれでお金稼げないなぁ?それがダメだったらアルバイト? もちろんわらわは誰かの下で働くなんてごめんだけど」
「許可とか要らないならそれも良いかもな。それじゃ皆で稼ぐか?」
「ありがとうございますぅ……私、絶対沢山稼ぎますからぁ……」
「うん……頼りにしてるよ」
「……何ですかシロ様! その明らかに期待してない態度はっ!?」
「いやだってお前アトラの子孫じゃん……。ぶっちゃけ……なあ?」
うんうん。アーリエ一族のドジ遺伝はもはやこのパーティでは周知の事実だった。きっと三者三様に、今回の事件もアーリエ一族ならしょうがないと落としどころを探した事だろう。
「そんなひどい! いいですよ。今日中に絶対15000フロルは稼いでやります!午後七時にこの街最高級の宿前で! では!!」
15000って結構な大金だろ? あまり無理すると……。
俺が制止するより早く、勝手に集合場所まで決定し一人大股で周りに出来た人だかりをかき分け――いや、勝手に向こうから避けているなあれは。消えてしまうセトラ。
「とんでもない事になったわね。フレイヤちゃんはどうする? わらわ達と一緒に来る?」
ふるふる、いつもの様に言葉には出さず否定を表す。
「……わたしも一人でお金あつめるよ……!」
「マジで? アルバイトか? 何処で働くんだ?」
フレイヤは数瞬の間首を小さく傾げて考える。何かいい案が思い立ったのか普段は半分しか開いていない見るからに眠そうな目をぱっちりと見ひらき、
「お花屋さん!! ……一度やってみたかったの」
微笑ましい光景だ。少女の夢の職業である花屋を決意したフレイヤは普段の二倍はやる気に満ちていた。こんなエネルギッシュなフレイヤは出会った日以来だ。
「じゃあ探すか。多分一軒くらいは拾ってくれるだろ」
こうしてこの水の都ラ・ブールにて俺達の心身の休息を懸けた金稼ぎが始まったのだった。
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~シロ・ミラの場合~
小さな子でも働かせてくれるという、老夫婦が営む花屋にフレイヤを送り届けた後、さあどうしようかと俺達はさっそく壁にぶつかっていた。
広場から少し入った路地裏で怪しさMAXな二人組(成人近い男性&見た目幼女)は、現状を打破すべく現在会議中。
露天商? いやいや金銭感覚もまだ疎かな俺達がそんな鎬を削る世界に足を踏み入れる訳にはいかない。
じゃあアルバイト? 俺はまだやれてもミラが無理。確実にマイナス、損失が出ること間違いなしだ。
「何かいい案出せよー。お前が嫌だっつうからアルバイトできないんだぞ」
「今考えてるっ! そもそも5mしか離れられないならアルバイトもクソも無いでしょ!」
ああ、それは一理あるな。良い言い訳を考え付いたものだ。つい納得させられてしまった。
「さっきも言ったけど路上パフォーマンスとかどう? ほら、あの辺りは結構人が集まってるし……」
指さされる先の広場、詳しく言うと噴水の周囲には複数人のパフォーマンサーがこぞって自らを見世物にして金を稼いでいた。「おひねり」だっけ? あれってそんな稼げるものなのか?
「お前は良いのか? あれ言っちゃ悪いけど見世物だぞ?」
一応後で駄々をこねられても困るので早めに確認はとっておく。いざ始まってから怒り出されても、俺としても見る方としても堪った物じゃないからな。
「いいのよ。むしろわらわが見世物という概念を覆してやるわ!」
「ほう。具体的には?」
「始まってから十分足らずでわらわという芸術品を崇めに向こうからお金を払ってくるようになるはず!」
「言うじゃねえか。演目は? 隠し芸とかするのか?」
「バカね。わらわ達に出来る事なんてあれしかないでしょうが……!」
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「おい、あそこの二人組凄えぞ!!」
「何だありゃ!? あんな距離で……可能なのか?」
「バカ! プロに決まってんだろ」
「プロにしては……二人とも見たことない顔ですよ?」
「でもよ……こんなもん見せられたら金払うしかねえじゃねえか!」
おーおー良いねえ。いい感じにギャラリーが湧いてきた!
俺達が選んだのは――、
「凍てつけ! 円冠を凍らす氷柱!!」
「そんなチャチな魔法効かないわよ! 煉獄の息吹!!」
俺が唱えたのはメルティが遺した本に記されてあった中級氷魔法。
弧を描きつつ大地から隆起した氷柱が、俺とミラを囲いつつも、ミラだけを確実に追い詰めた――と思いきや、今度はミラの爆炎風魔法が炸裂する。俺や客の事なんかお構いなし、全力で魔王級の魔法を連発。今の魔法だって他の演者を吹き飛ばす勢いの熱風を容赦なく地面に叩き付け、たった一発で俺の渾身の氷魔法を無力化させてしまう程の威力だ。
――そんな他愛ない疑似戦闘…なのだが、俺達がそれを5m以内で繰り広げていたのがやたら好評だったらしく見る見るうちにギャラリーは増え、「芸術鑑賞料」とミラの手書きで太く刻まれた箱の中に金が溢れていく。
こりゃ同業の人は客は盗られるわ、自分の芸は妨害されるわで商売上がったりだろう。
次第に店じまいを始め出すパフォーマンサーが増えたからか、客が一気に流れ、俺達とその観客はこの噴水広場を制圧しつつある勢いにまで成長してしまった。血気盛んそうな冒険者の野郎どもはもちろん、戦いからは程遠い世界で暮らしていそうなお淑やかそうなマダム、透き通る空のような青い髪の美少女までもが観戦して、もうミラ手作りの箱は金銀様々な色の硬貨で埋め尽くされ見えない程だ。
だがまだ止めない。誰が見てようが、金がどれだけ貯まろうが。
だって俺もミラも単純にこの戦いを楽しんでいるから。
俺は千年ぶりにライバルと刃を交える事が出来る喜び。ミラは手を多少抜きつつもここまで必死に食らいついてくる奴と戦えるのが愉快、こんな感じだろうか。
まあとにかくだ――、
「たっのしいなぁー!!!」 ――形象炎魔法・絞め殺す大蛇!!
「さいっっこうぅー!!!」 ――世界を飲み込む大洪水!!
大・爆・発!!
今までは戦闘と言ったらいかに攻撃を喰らわずに一撃必殺を決めるかの一点に集中するしかなかった。それ以外のスタイルを知らなかった俺としては、自分で考えつつも半分は直感に任せて魔法を選ぶこの戦闘スタイルは非常に心躍るものがあったのだ。それが例え疑似戦闘だとしても、十分に。
つまるところ。
魔法使うのたのっしぃいいい!!!
「まだまだぁ! 召喚魔法・無名剣!!」
「まだまだぁ! 夜霧の殺人者!!」
噴水広場には俺達が狂喜乱舞し高らかに笑う声と、それを見、湧く観戦者の歓声の二つ意外にはもう言葉も、小難しい感情も何も必要なかった。
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「ふ、ふふふ……0フロルから一気に30000フロル……!!」
「セトラには悪いけど……あいつの目標の倍稼いじゃったな」
それも二時間足らずで。正直ここまで集まるとは思わなかった。そろそろ疲れたからやめようとミラに提案し、一度辞めようとしたが観客がそれを許してくれない。アンコールという奴だろうか。金を払うから早く続けろと言わんばかりに、箱があった場所に積まれて標高を増していく黄金の山。
……それを三回繰り返し、魔力が底を尽きたところでようやく解放してもらえた。
ちなみにさっきの疑似戦闘で得られた経験値はおよそぷにスライム三万匹分。初心者冒険家なら二時間でぷにスライム三万匹の経験値は涎が出るほどの効率だが……俺達にとっては雀の涙ほどの経験値だ。
ミラの次のレベルまでこれを何回だ? 百万……いやもっと多くか……? 想像するだけでやる気もおきなくなる回数をこなさなければ彼女のレベルは上がらない。俺は桁が一つ少ないくらい必要だろうが、それでも十分嫌気がさす。
やはりエルメリアからの課題、「天使を倒す力を得る」の達成は厳しい。メルティの遺した魔導書で魔法面は強化されたが……それでもミラに付いて行くのがやっとな程度。天使戦では覚えていたら五回に一回くらいは命が助かる程度が関の山だろう。もちろん魔法がてんでダメだった俺が上位魔導士クラスの魔法を二時間ぶっ通しで使えるようになったんだから、あの魔導書にはとんでもない価値があるんだけど。
「何ぼけっとしてるの! まさか……ここで終わるなんて思って無いでしょうね……?」
考え事で上の空状態だった意識がミラの一声によって引き戻される。
吊り上がった口元……また何か企んで――!?
「お前……まさか……! やるつもりか……!」
「もっちろん。わらわを誰だと思っているの? こと博打においてわらわの前に出る者はいないわ!」
カジノ……それは会議中に真っ先にミラの口から出た提案。「幸運」が異様に高い魔王のステータスを利用したイカサマすれすれの金稼ぎ。恐らく魔界に近いとはいっても今は和平を結んでいるためミラを超える「幸運」の持ち主、冒険者系の血気盛んな人物はいないだろうと踏んでの事だった。資金の問題で却下したが……今手元の30000フロルを全ベットしたら……。
いける。我がパーティの明るい(主に資金面で)未来が見える……!
「行くぞ! 手っ取り早く稼いじゃおうじゃねえか……」
「シロは見てるだけだけどね」
「……うるさい。俺がやったら負けるのが目に見えてるのは、他でもない俺自身が良く分かってんだよ!」
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フレイヤの働き先を探すときについでに見つけていたのだろうか、すんなりとカジノへはミラのエスコートにより辿り着けてしまう。
大都市らしく地下まである超巨大カジノ。テーブルについて何やらカードゲーム?をしている人も、どこかしら気品を漂わせている。まあどこかしこからも金色や銀色が目に刺さってたまったものじゃない。ミラは見た目からして言わずもがな、俺のような平和な村出身の青二才が来る所では無いのは一目瞭然だろう。当然他人から見ても。
ここまでの規模のカジノがこの街にあるとは……考えようによっちゃこれも幸運の為せる業なのか?
だとしたらこいつが唯一不幸なのは俺と出会ってこうして離れられなくなってしまう事だったり――、
「もう! 豪華なところだからってぼけっとしないで! ったく、一日何回意識を手放したら気が済むんだか……早く行くの!」
「え? ああ」
急に手を取られ呆気にとられる。っていやいや、女の子向けの童話のヒロインじゃあるまいし……。
案の定、ボロ布を身に纏った少年と可愛らしいがどこか小汚い幼女の組み合わせは周囲の視線を大量に集めた。一般客からはわかるがカードを配ったりしている店員?側からも奇異の視線を浴びると何だかいたたまれない気持ちに。
さらにその視線の主たちがただ者ではなさそうな、格好に見合うだけの場数を踏んできた感を醸し出していて急に不安になってくる。
ミラはというとそんな俺とは真逆。まるで「早く貴様らをぎゃふんと言わせたい」と顔で語っているようなもので、普段の三割増しで自身満々の邪悪な笑顔を振りまいていた。わぁ、ミラ様頼もしぃー。
……実は二人ともカジノ内のゲームの正確なルールを知らない。自信満々なミラでさえ知らない。
そんな俺達でも一通りフロアを見渡すと3種類のゲームに分かれているのがわかる。
まず「カード」を使用する系のゲーム。カジノ側は審判役で客と客が闘っているのだろうか? これはさらに細かく分けると二、三種あるのはわかるんだけどな。あれを見ただけで正確なルールまではわからない。
次に「スロット」と呼ばれる箱状の機械を相手にするゲーム。唯一人と関わっておらず、見た目簡単なので俺でも出来そうだ。
後は……あの丸い台を回して玉?で勝敗を決めているゲーム。「ルーレット」? 複数人を相手にしているが、あれもやっていることは単純だからちょっとプレイすればやり方は自ずと分かるだろう。
「やるんだったら『スロット』か『ルーレット』じゃないか?」
「ううん。少なくとも『スロット』は論外よ。あれは対人じゃなくて対機械だから純粋な人との『運』の差で勝敗が決まる『カード』か『ルーレット』どちらかね」
なるほど。俺とミラの間の意見の違いは「幸運」の差が如実に表れている事を示しているな。
「きーめた。『カード』よ。その中でも『ポーカー』?ってやつをやるわ」
「おい……大丈夫なんだろうな? その様子じゃ初めてやるんだろ?」
「余裕よ。あそこのを引けばいいんでしょ?」
指さす先の壁には「ポーカー」の簡易ルール表。五十三枚のカードを使用し、始めに配られる五枚から一度だけカードを交換して指定された「役」を作るゲームのようだ。その中でもミラの人差し指は一点を指さしていた。役一覧の上位グループ。
「ロイヤルストレートフラッシュ」。その確率24/2869685。
「ファイブカード」。その確率13/2869685。へぇ……。あの役は他とは違ったカードが入ってるんだな……「ジョーカー」か。何だか不気味なピエロだ。
いや、でもいくら幸運高くてもこれは無理だろ。何回プレイしたら出せるんだ?
その圧倒的な数字を前に、益々ミラの勝ち筋が薄くなっていく気がしてならない。下手したらあの人たち「フォーカード」辺りまでなら出しちゃいそうだし。
「さあ、このカジノにいる奴ら、全員潰しちゃいましょうか!」
俺がその数字に呆気に取られている間にちゃっかりと全フロルをチップに交換し、席に着きカードを受け取り始めてしまうミラ。
同じ席についているのはどれも手練れそうな五人。
……本当に大丈夫か?
「え? 『アンティ』を払え? ああ、参加料ね。まあいいわ」
「……待て待て。それ参加料だよな? 参加料が俺たちの二時間の努力の三分の一ってどういうことだ?」
「あーもううるさいわね。あんまり口出ししてると黒服のお兄さんたちに連れていかれるわよ?」
っ! 慌てて口を押さえ引っ込む。
つい黙ってしまったけど、これ、負けたらやばいレベルの賭けを始めてるんじゃ……。
ほかの客がチップを前に出したりして、ミラの番が回ってくる。
「ん……『ベット』……? ああ、ここから金額を競り上げていくのね。で、私の番と、じゃあ『レイズ』。手持ち全額で」
すーっと目の前のチップを全部、賭けの場に持って行く。
「はあ!?」
じー。俺の大声かつ素っ頓狂な叫び声に、ミラだけでなく黒服のお兄さん達まで怪訝そうな視線を投げかけてくる。
今からでもこの大馬鹿を無理やり連れて帰れないだろうか?
うわあ……おじ様おば様方……目をギラギラさせてるよ。
彼らにとってミラは差し詰め絶好のカモなのだろう。いかにも初心者そうな服装と振る舞い。「ちょっと強そうなカードが来て勝てると思っている子供」きっとそう思われているに違いない。
ここでは女子供だからと容赦はしてくれそうもない。金に目が眩んだ亡者共の巣窟。いかに稼ぐか、それしか考えてない人間の汚い部分の集合体と言ったところだろうか。かくいう俺達も同様の理由でここにいるのだからあまり人様の事を言える立場ではないが……。
「コールだ!」「わたくしは更にレイズですわ!!」
良く分からない専門用語の応酬。まあその顔付きを見れば「勝負する」という意思は十分に感じ取れるから問題ないが……血走った眼でそう叫ぶ大人たちはちょっと怖いぞ。
ちなみに他の人達がしていたカード交換をミラはしなかった。
……俺の不安だけが募っていく。
テーブルに乗った色とりどり、大量のチップを前にミラは恍惚の表情をその可愛らしい顔に浮かべる。
「あは。わらわが買ったらこれ全部貰えるのね?」
「あっはっは! お嬢ちゃんが勝てたらな!」
いかにも勝利を確信した笑みを見せるミラの右隣りの恰幅の良い初老の紳士。
「では、カードのご開示をお願いします」
それを制すようにあくまでも冷静に裁定役に徹するカジノ側の……ディーラーと呼ばれるお兄さん。
ディーラーに言われるがまま次々とカードが開かれていく。
フルハウス。さっきの表ではそこそこの強さを誇っていた役、ストレート。これもそこそこな役だっけ?。
紳士の役は……四枚同じカードが揃ったフォーカード。
ちょっとミラさーん? これやばいよ……やばいよね?
紳士に勝てる役は三つ。「ストレートフラッシュ」、「ロイヤルストレートフラッシュ」、そして「ファイブカード」。
そんな絶体絶命のピンチでもなお邪悪な微笑みを崩さないミラちゃん。あの子、ルール分かってるんですかね……?
「ミラ様。カードのご開示を」
ゆっくりと一枚ずつ捲られていくカード。
スぺードの10……J、Q、K……え? マジで?
一気に台がざわめく。これには歴戦の猛者たちも焦りを隠せないようで、脂汗が噴き出ている。
最後の一枚は――。
「ごちそうさま♡」
――スペードのA。
「ミ、ミラ様ロイヤルストレートフラッシュでございます……!」
もうカジノは大沸き。他のゲームをプレイしていた客も自分のことそっちのけで台に押し寄せる。中にはミラの幸運にあやかろうと勝手に手に触れ吹っ飛ばされる客まで出始めた。
ディーラーの必至な制止によって半暴動は沈静化するが、カジノ内の熱気はまだ冷めやらない。
当然このゲームはミラの勝利。
たった十分足らずで合計150000フロルを懐に収めてしまう。カジノ……怖え。
「ほら、他に愚かにもわらわにかかってくる文字通りの『愚民』はいないのー? ちなみに何回でもわらわは全額BETするよ?」
持ち前の幸運を武器に煽る煽る。すると、次も勝てる訳がない、あれはマグレだと思ってしまうミラが言う通りの「愚民」がわらわらと集まり――、
――あっという間に俺達の、いやミラの所持金は1000万フロルを突破してしまった。
流石にここまで来てミラのバカヅキがまぐれだと思う輩は多くはなく、カジノは今や賭博の場でなく幸運の神、もとい悪魔であるミラを讃え、崇める地へと変貌していた。
「さてと……もうチャレンジャーもいないみたいだし帰ろっか、シロ」
「おう……! いや、はい。帰りましょうミラ様」
「ちょっと! なんでシロまで敬語なの? やめてよぉ……!」
なんてやり取りをしていると、ミラとディーラーしかいないテーブルに座ってくる愚か者が一人。
青い髪の美少女。あれ……? この子広場にいたような?
その整った顔立ちとは対照的に彼女の服装は薄汚れていた。ぼろっちい布の服。とてもこんな場所に招かれる者の着る服ではない!と俺でさえ言ってしまえる惨めさ。
ミラは薄汚い相手ではなく、そんな女の子だったからか、一瞬同情の視線を投げかけたが彼女が本気だと知るとすぐに勝負師の顔に戻ってしまう。
「……」
お互いに無言でアンティを支払い、手札が配られる。もうミラは同情の視線を投げかける事は無かった。
宣言通り、
「1000万フロル、全額賭けるわ」
少女の方も同様にチップを場に賭けていく、
「500万フロルまでしか賭けられないの。それでも勝負して貰えるかな?」
会場がどよめく。ミラも大概だがこんな少女が500万も持っていることに、だ。
その貧困にあえいでいそうな服装からは想像もできない大金。
そしてそのはっきりと通る透明感を含んだ一言でミラの目つきが変わる。こいつは弱者ではない、と。
「良いわよ。ディーラーさんも、良いわよね?」
周囲の熱い視線に気圧されNOとは言えないディーラーのお兄さん。
「……ええ、双方の同意があるなら良しとしましょう」
「どーも」
当然のごとくカード交換はなし。それは少女も同じだった。
……やってくるミラのカード開示ターン。
ミラが揃えたのは10、J、Q、K、A。本日二度目のロイヤルストレートフラッシュだった。
この大勝負を前に、誰もがミラの勝利を確信していた。もちろん俺も。
しかしミラは笑わない。むしろ勝負はここからだと言わんばかりに眉をひそめる。
「えっと……失礼お名前は?」
「……クア」
「ではクア様。 カードのご開示を」
クアと呼ばれた少女は、初めて笑った。最初に開いたカード、イレギュラーなあのピエロと同じ不気味な笑顔で。
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十数分後。俺達は始めの路地裏で絶望に打ちひしがれていた。
「マジか。再び0フロルかよ……」
「……あり得ない。わらわが『幸運』とはいえ天使以外のやつにステータスで負けてるなんて……。あの女一体……イカサマ? でも見抜けなかった――」
――ぶつぶつ。路地裏のさらに隅っこでこんなになる原因となった少女に八つ当たりを始めだすミラ。
あの女の子が揃えたのはジョーカーと四種の七のカード。「ファイブカード」と呼ばれる最高の役。それを交換なしで、一発目で出したのだ。
単純な幸運だとしたら、13/2869685を引ける幸運ということになる。ミラでさえ、約十回の試行で到達する事が出来なかった領域。
「……なぁミラ。あの女の子広場にもいなかったか?」
俺も確かに覚えている訳じゃないが、あの青い髪は印象的だった気が……。
まさか付けられてたなんて事は無いだろうが……。
「知らないわよあんな女……。はぁ……お腹減って怒るのも疲れてきちゃった……」
ミラの一言で頭をぐるぐるしていた疑問がおいしそうなご馳走に居場所を奪われる。
ぐぐぅ~。
同時に鳴る二人のお腹からの要求。
あてもなく、なんとなく宿へと向かった足が異様に重く感じたのは、きっとミラも同じことだろう。
※一番大事な冒頭のやつ忘れてました。修正。
お疲れ様でしたー!
感想、ご意見その他いろいろお待ちしてます!!
Twitter→https://twitter.com/ragi_hu514
シロ&ミラのラフ絵ならありますよー!
見てもらえると場面が想像しやすいかもです!




