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Q.Special 記念式典~おつかれさまのかい~

 もう会えない人たちと会える一夜限りの式典のお話です。

 これで、本当におしまい。


 あとがきに新作の告知があるよ!!

「それじゃーカンパーイ!! みんなお疲れ様ー!!」


 ミラの乾杯の音頭によって会合の幕が開く。

 セトラやフレイヤ、ガブリエルや賢者のみんな。それ以外にも見知った顔、見知らぬ顔、敵や味方が入り混じって賑やかな雰囲気を演出している。

 いったい今がいつなのか、ここが何処なのか頭が上手く回らない。ラグエルとフレイヤが仲良さそうに話していたり、サリエルとウェンが二人で組んで宴会芸をやっていたり、有り得ない光景が広がっている以上きっとこれは夢なのだろう。

 ぼんやりとした頭で、楽しそうだからと良いかとぼんやりとしてそんな状況を眺めていると、


「いやー。シロさんもよくここまで頑張りましたねー」


 金髪の少年がグラスに注がれた果実酒を渡しながら話しかけてきた。

 面識こそないがどこか親近感を感じさせる。そしてなぜかきっと同じような苦労を味わっているのだろうなぁと、勝手に同情。


「僕だったら折れてただろうなーって所でいつも立ち上がるんですもん。驚いちゃいましたよ」

「ライトはメンタル弱いのよ! もっとあたしを見習いなさい!」

「あはは、リリィだって意外と小心者じゃん。何言ってるんだか」

「な、なに言ってるのよ! そんなことないもんっ!!」

「ちょ、痛いって! 禿げちゃうからやめてよ!」


 隣にいためちゃくちゃミラに似た言動をする紅蓮の髪の少女が、少年の頭をわしわしと掴みまわす。

 ああ、さっきの親近感の正体はこれか。他人から見た俺らはもしかしたらこんな感じなのか……?


「まあ、そうですね。色々不思議かもしれませんけど、今この時間は貴方のための時間です。なので思いっきり楽しんじゃってください。ここでしか話せない人もきっといるでしょうから」

「そういうことよお兄さん。――って言ってるそばから、ほら」


 リリィと呼ばれた少女が俺の後ろを指し示す。

 振り返ると、そこには俺が良く知る彼女が立っていた。


「よっ。お久しぶり……で合ってるのかなぁ?」

「アトラ……」


 普段の俺だったらその顔を見て反射的に苦虫でも噛み潰したような顔をしていただろう。しかし少年の言葉が忘れられず、どんな表情すればいいのかわからない。


「あはは、まあそんな緊張しないでよ。えーっと、何から話そうかな。そだ、まずはよくやってくれたよ。シロは本当によく頑張ってくれたと思う。ありがとね」

「……おう。こっちも色々世話になった」

「んー? どしたのどしたの? 今日はやけに素直じゃん!」

「感謝の言葉くらい素直に受け取っておくよ。お前と話せることなんてもう無いと思っていたから」

「……やばい。シロがなんか気持ち悪いよ!?」


 気持ち悪いとは失礼な。これでも本当にアトラには感謝しているんだ。きっと彼女がいなかったら俺はアーレアで農民でもやっていただろう。それはそれで平凡で悪くない人生だったんだろうけど。

 こうして多くの人と出会い、成長する最初のきっかけを与えてくれたのはこいつだったんだから。


「もーしーかーしーてぇー、私への恋心、復活しちゃったりー?」

「そ、そんなつもりないぞ! 第一俺には――」

「あー、こら!」


 噂をするとなんとやら。騒々しい奴らが徒党を組んでやってくる。

 

「過去の女に現を抜かすな!! 一体誰が許可したのよ!!」

「そうです。幾らご先祖様でもやっていいこととダメなことありますよ?」

「……。ずるい。わたしも。ぎゅー……」

「もぉー。おにいちゃん困ってるよ。こういうときくらい仲良くしようよぉー」


 それぞれ、アトラとの間に割って入り、彼女にジト目で詰め寄り、俺の腕にピタリとひっ付き、そんな三人を諫める。

 別の時間軸で縁を結んだ四人の少女たちが多種多様なアプローチで気を引いてきた。


「やだなぁー。シロを取るつもりはないから! あ、初恋の相手であることには違いないけどね!!」


 ぶちん。ああ……数名の怒りが臨界点に到達してしまった。 

 面倒くさいことになる前に退散してしまおう。アトラに言いたかったことは言えたんだし。



「やあ、久しぶり」


 背後で聞こえる爆発音から出来るだけ離れるべく足早に歩いていると、いけ好かない天使に呼び止められる。


「ラグエル。どうした? 用がないなら引き留めないでほしいんだが」

「いやいや、そう邪険にしないでくれよ。話し相手フレイヤを君にとられちゃったからね、ヒマなんだ」


 ふざけたことを。散々いたぶった相手に何を話すことがあるっていうんだ。


「こちらとしては泡沫の夢だとしてもできればフレイヤには近づいてほしくないものだけれどな」

「だからそう僕たちを嫌わないでくれ。こんな事を言うとキミは怒るかもしれないけれど、人間には敬意を払っているんだよ?」

「はぁ……?」

「アハハ、やっぱり怒ったね! ああいや、怒らせたいわけじゃない。ただこんな場だからこそ、キミたち人間には『ありがとう』と、そう言いたかった」


 ありがとうだと? ラグエルとは本気の殺し合いをした間柄だ。少なくともそんなことを言われる筋合いはないのだが。


「キミたちは僕たち天使に様々なことを教えてくれた。例えそれが憎悪の中で生まれた感情でもその変化はとても興味深いものだったんだ」


 ――僕は本気でぶつかり合える楽しさを。

 ――ラミエルは仲間という存在の心地よさ。

 ――サリエルは覚悟は人を強くするという事実の強大さ。

 ――ウリエルは自身の驕りを突き付けられ。

 ――ミカエルは人間の不完全さによる可能性を学び。

 ――ガブリエルは無償の愛を知った。


「そしてオマケにキミはメタトロンの命を救ってくれたよね。だから『ありがとう』だ。あの世界ではお互いに殺しあうしかなかった。けれどその中でこんな機械人形同然な僕たちに色々なことを教えてくれていたんだよ。たぶん、キミたちは気付かなかったと思うけれどさ」

「あまり、素直には喜べないな」

「ああ、それでいい。僕たちは敵同士で、僕はキミとあの魔族のチビッ子に殺された。その事実は覆らないからね」

「話は、それだけか?」

「それだけだ。ちゃんと聞いてくれて嬉しかったよ」


 嬉しいという感情。それは本来天使が持ち合わせないものだ。似たような振る舞いこそできるが、実際に喜ぶという感情を知らない彼らのそれは、人の真似事でしかなかった。

 ただ、魔界でのあの決戦。最後の瞬間、ラグエルは俺と同じ感情を有していたという事だろう。互いの今後を大きく左右する一戦だったにもかかわらず、決着の瞬間は図らずとも心が躍った。


「……。こっちも、あの瞬間は心から楽しかったぜ。ありがとよ」

「アハハ、どういたしましてだ」



 ラグエルは一通り言いたいことを言い終えると、「じゃあ次はナンパの楽しさでも学びに行くかな!」なんて言いながらふらりと人ごみの中へと去っていった。

 ……もう何も言うまい。この夢はやっぱりどこかおかしいと割り切ることにした。

 さて、次は誰だ?

 どうせ懐かしい顔ぶれが――。


「おーっす! はは、全然変わってねえなあヘズ、いいや今はシロだったか?」

「ヴィント……ヴィントなのか!?」


 思いがけない再会。アトラがいるから当然と言えば当然だけど、まさか会えるとは思ってなかったため、少し興奮してしまう。 


「おー、そうだ。お前の大親友のヴィント様だ。初代賢者組は皆いるぜ」

「暫くぶりですわね。わたくしのこと覚えてます?」 

「もちろんだ、シャイラ! うわぁ、すんごい懐かしいな!」

「僕もいるよ!! 元気だった? シロ!」

「あまりはしゃぐと体に良くないよ。ほどほどにな」


 シャイラに続いてノインとノワールが姿を見せる。

 彼らの姿は最終決戦の時のまま。記憶の中のままの姿だった。 


「ってことは……」

「どーん!! えへへー、久しぶりお兄ちゃん!!」

「ぐへっ! ったく、メルティ。久しぶりだな」


 勢いよく飛びついてきたのは、小さな俺の魔法の師匠。


「会いたかったよぉー! もう離さないからね!!」

「ああ、俺も会いたかったよ。元気みたいで良かった」

「わたしはね!? 悔しいんだよう! どうしてわたしの子孫がお兄ちゃんと結ばれてるのぉー? ずるいずるい!!」

「って、うわ、酒臭いぞメルティ!」

 

 いつもよりテンションが高いとは思ったが、どうやらそれは酒の力を借りたかららしい。次々と言葉を繰り出し、ずいずいと迫ってくる。

 うう……吐息が近くて酒気がこちらまで漂ってくる。


「えへー、リヴィアさんがあまーいジュースがあるよって飲ませてくれたらねー、お酒だったー!」

「リヴィアてめえ!!」


 にへらっと笑うメルティが指さす先、もはや立っていられず椅子に抱き着くリヴィアが手振りだけで返事をする。あいつはあいつでもうダメそうだ。やっぱりダメダメな大人なのはリヴィアもクアも変わらないなあ。


「でもね、嬉しかったよ。わたし達が頑張ったかいがあったんだなあって、お兄ちゃんが頑張ってるところ見てて思ったの。教えた魔法クラフトワークもね、最初は作りたくなかったんだぁー……」

「作りたくなかった?」


 酔っ払い特有の感情の起伏の激しさの中、ぽつりと気になる言葉を漏らすメルティ。


「うん。だって強い力を持っちゃったら、お兄ちゃんがどんどん危険に近づいちゃうから。アトラお姉ちゃんに頼まれたときはすっごぉー……く悩んだんだ」

「…………」

「こんな事なら、魔法を学ぶんじゃなかったとも思った」

「そんな事――」

「でもね、お兄ちゃんが頑張ってる姿を見て、それは間違いだったって気付いたよ。ちょっとでも私の力が役に立ったなら嬉しいって。魔法しか能の無いわたしだけど、それで好きな人を護れてよかった、よぉー……」


 矢継ぎ早にそう告げると、限界だったのだろう腕の中でメルティは寝息を立て始めた。


「あーあ、完全に酔い潰れちゃったな。『お兄ちゃんと一杯お話しするんだー』って張り切ってたんだぜ、メルティアちゃん」

「そっか……。そりゃ、残念だったな」

「まあ今彼女が言ったのがオレたちの総意だ。オレたちの力が役立ててよかった。子孫を守ってくれてありがとな、シロ」

「そんな、俺だけの手柄じゃないよ。お前たちの子孫も力を貸してくれたんだから」

「それでもだ。あいつらを導いてくれたのはお前だぜ。ちょっとくらい誇ったってバチは当たらねえさ」


 やめろよ。あまり優しくされると泣いちゃうだろうが。

 ちぇ、生前はそんな気のきいたセリフ言ってくれなかったくせに。 


「じゃ、オレらはあそこで暴れてる巫女サマを宥めてくるからよ」

「おう。……その、なんだ。死人に言うのもなんだが、元気でな! メルティにはありがとうと、何度も助けてもらったと伝えてやってくれ」 

「任されたぜ。そんじゃな。あ、子孫によろしく言っといてくれ!」


 去っていく彼らの背中。もう住む世界が違う俺と彼ら。

 これで本当にお別れなのだろうと直感する。そう思うとやっぱり悲しい。未練はなかったはずなのに。過去とは決別できたと信じていたのに。


「あのな! お前らとの旅、めっちゃ楽しかった! 絶対に忘れないから!!」

「おうよ、忘れたらそん時はぶん殴りに行くから覚悟しとけ!! じゃあなシロ!!」


 思わず、叫んでいた。ヴィントも会場中に響くような大声で返してくれる。

 例え、もう二度と会えないとしても。彼らとの友情と旅の軌跡は忘れない。



 宴もたけなわ。

 初代賢者組との話の後に呼び止められた、テラさんとノルンたちの王族会議で精魂尽き果てたか、それとも単にこの何でもありな式典の終わりが近いのか、意識が徐々にぼんやりとしていく。

 酔い潰れて爆睡しているウェンとルミエール、クアの横に座り、丸机に突っ伏すと瞼が重くなってきた。


「うへへー。カワイ子ちゃんがいっぱいだぁー」

 

 くだらない寝言を延々喋るウェンに、ルミエールが聞いていたらどうするんだと突っ込む元気さえもない。

 そんな途切れそうな意識の中、狭くなる視界に俺の元へ近づいてくる誰かの影を捉えた。

 ミラたちでもない。ライトたちでもない。

 半獣の女の子を隣に連れた十代半ばの少女だった。


「あとは私たちが引継ぎます。お疲れさまでした、先輩」

「君……たちは……?」

「あはは、きっとあと少しですべて忘れちゃうんです。名乗っても仕方がないですよ」


 明るく快活な声……どこかで聞いたことがあるかもしれない。それはどこだったか、どの世界での出来事だったか。

  

「先輩たちが繋いだ世界です。まあ悪いようにはしませんよ。だから、安心して……」


 ――おやすみなさい。

 ――そして、もう一度。お疲れさまでした。



「――はっ!? ここはっ!?」

「なーに寝ぼけてるのよ。ヘンな夢でも見た?」


 隣にはいつものようにミラがいた。

 あたりを見回すとここが我が家の寝室であることがわかる。まぶしい朝日がシーツを白く輝かせ、柔らかな太陽のにおいを振りまいている。

 戻ってこられたことに安堵する。……戻るって……どこから?


「や……わからない。思い出せない。思い出そうとすると頭が痛むんだ」


 頭がズキズキと痛む。ぽっかりと重要な部分だけ抜き取られたような、でもその記憶が無くても困ることはないだろうとも思う。……いや、脳が悲鳴を上げている以上むしろ無理に思い出さない方が吉なのかもしれない。とんでもない悪夢だったら嫌だし。


「ふーん? まあ何でもいいけど。後でちゃんと診てあげるからとりあえず朝食片しちゃって」

「お? お前にしては優しいな。ついにデレ期が訪れたか」

「全部終わって穏やかな今、一番怖いのは病気やケガなだけよ。さ、下らないこと言ってないでご飯食べてくる!」


 穏やか……か。

 長く戦いに身を置いていた俺としては不釣り合いな言葉だ。

 ……いつかまた、ミラの隣で剣を振るうときが来るのだろうか。 

 願わくば来ないでほしいとも思う。つかみ取った平穏は、彼女との暮らしは、俺にとって何よりも掛け替えがないから。

 

「もう! 難しいこと考えるな! あんたが今やるべきことは、『愛する妻のために早く朝ご飯を食べてしまう事』なの!」

「……。ああ、そうだな」

 

 この平穏が例え一瞬のものでも。  

 ミラの言う通り難しいことを考えず受け入れることにしよう。

 今が幸せなことに違いはないのだから。


 ――いつか訪れるかもしれないその時、立ち上がる気力を養うために。

 お疲れさまでした。

 スペシャルなオマケ会でした。

 普段話ができる人とじゃなくて、もう死んでしまった人、会えない人メインで書かせていただきました。シロにとって言いたいことが言えなかった人も多いからね。このお話は彼へのご褒美です。


 さてさて、同時に投降した新作の告知です。

 待ってくれた人がいたらありがとう&お待たせです。

 

 ウィッチーズトラべログ ~花標の少女の冒険譚~

 ↓

 https://ncode.syosetu.com/n1413em/


 シロたちが救った世界のかなり後のお話。

 一作目の交換転生シリーズと物語の時期がほぼ同じです。(具体的にはライトたちが10歳時点)

 気になった人は見てくださいね!


 ではでは、これにてかなり引っ張ったこのシリーズとも本当にお別れです。

 本当にありがとうございました!!


 ブックマークありがとうございます!

 感想や評価もお待ちしてるので、ぜひ!

 twitter → @ragi_hu514

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