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「似合っているじゃないか、3人とも」


 とレーネ姉さんが言った。


「ありがとう、姉さん」


 と私は笑顔を返した。


「そうか?」


 とアレスが不思議そうに呟いた。


「なんで俺、こんな格好をしなくちゃいけないんだろう?」


 とトトスが遠い目をして呟いた。

 答えなんて求められていない気がしたけど、疑問形だったので一応答えてあげることにした。


「今日という日が無かった日で学校見学の日だからだよ、トトス」

「つまり、俺たちの耳と尻尾を隠す為だよな?」

「そうそう。私も獣耳と尻尾が無いことを隠す為にこの衣装だよ」


 トトスが長い長い溜息を1つ吐いた。……失礼な、私の力作なのに。



 ここは姉さんの家だ。アレスは雪の妖精、トトスは月の妖精、私は花の妖精の衣装を纏って、衣装の最終確認の為に姉さんとエクスの前に立っている。

 余計なもめごとを回避するためにパッと見では人か獣人か区別できない衣装をと考えていたら、頭にはひらひらのナイトキャップ、体にはふりふりのロング丈のワンピース、レースまみれのペチスカート、ふわふわのポンチョとなぜか大変に乙女な格好になってしまったのだ。が、当初の目的は達成されているし、ふかふかの靴を履けば防寒もばっちりだ。


 馬たちは別行動だ。見た目年齢的に学校には通えないし、人ごみの中を連れて歩くのも不安なので、引き続き卵を産んでくれる鳥の捕獲をお願いしてある。


「じゃ、そろそろ行こっか。姉さん、夕飯までには帰すから」



「で、どこにあるんだ? その、学校ってやつは」


 アレスは初めて村を出たというのに、町の様子よりも学校の方が気になるようである。私は黙って手にしていた地図帳をアレスに渡した。地図の見方が解らないのかそれとも珍しいのか、アレスはくるくる回しながらひっくり返しながら、裏や表や違う頁まで見ている。

 トトスはスカートの裾を足に挟んで歩こうとして失敗している。


「そういえば、アレスはなんで急に町に出る気になったの?」

「ん? ああ。……俺は今、生涯の伴侶を見つける為にここにいる」


 急にきりっとした顔で言うアレス。あー、だから必死にエクスを説得したのか。納得だよ、アレス。村では男はそろそろみんな結婚している歳だしな。でも、えっと、どうしよう。握り拳をぎゅっと作って静かに闘志を高めているところ悪いんだけど、1つ、問題がある。


「あのね、アレス。言いづらいんだけど……君はまだ子供だから結婚は無理」


 言いづらいので後半は早口で言ったのだが聞き取れてしまったようだ。


「……は?」

「え? 俺たちもう大人じゃないの?」


 トトスも吃驚したような顔でこっちを見る。


「この国の成人は18歳からだよ。村の中だけ特別に12歳」


 アレスが自分の姿を見下ろしながら言った。


「これは仮装か」

「うん」

「町の普段着だと思っていた」


 そして分かりやすく落ち込む。


「落ち込んでいる場合じゃないと思うよ、アレス。今すぐには結婚できないにしても、未来の伴侶殿と知り合う切っ掛けはどこに落っこちてるか分かんないんだから、いつでもどこでも格好いい姿を見せてないと。……っと、そろそろ学校だと思うから、地図返して」


 何故かますます落ち込んでしまったアレスから地図を受け取る。


「ふむ。この角を左に曲がって3軒目……あれか」


 そこにあったのは、廃墟と廃屋と普通の家を足して3で割った感じの建物だった。



 町を歩く。何度か見た日干し煉瓦の町だ。これが幾つ目の町だったかなんて今は考えたくない。

 後ろから付いてくる2人の目が死んでいる。可愛らしい妖精の格好をしているのに、目が死んでいる。おそらく私の目も死にかけだろう。


「ここがこの町の学校かー」


 どう見ても普通の家である。庭に洗濯物が見える。でもこのパターンは慣れた。むしろマシな方だ。


「すいませーん、見学をしたいんですけどー。誰かいませんかー?」

「なんじゃ、騒がしいのー」


 奥から誰かやって来た。


「なんじゃ、菓子をねだりに来た子供か。表に菓子は無くなったと書いてあったじゃろう」


 頭も髭も耳も尻尾も、全身真っ白のお爺さんだ。


「いや、気付かなかったし、気付いても読めないんですけど。てか、読めないから学びたいんですけど。学校見学したいんですけど」

「そうか。すまんが、うちはもうやっておらんのじゃよ」

「はあ、ここもですか」

「なんじゃ、もういくつか回ったのか?」

「ええ。廃校になっているところが多くて、やっているところでも、何と言うか、うちは獣人と人とが両方いるので……まあ、断られちゃいました」


 暴言も吐かれたよ。


「あと残っているのは都市と王都だけなんですが、絶望的ですよね? もういっそ学校でなくていいんで、お爺さん、教えてくれませんかね? お菓子なら私が出しますんで」

「ふむ。そういう話なら、上がってもらおうかの」



 お爺さんの家は和風である。完璧ではないが、和風である。アジアンテイストである。履き物を脱いで上がったところに畳っぽい茣蓙か何かが敷いてあって、座卓のようなテーブルがあって、クッションがいくつか置いてある。あと、部屋の隅にそっと置かれた行燈の趣味が良すぎて心が震える。この先生、もしや前世は日本人か?

 この家で食べるなら、あれが合うかな。


「はい、どうぞ」


 亜空間から紙で包んだどら焼きを取り出し、アレスとトトスに手渡す。アレスとトトスは渡されたそれをなかなか食べずに、興味津々で見ている。お爺さんも見ている。飲み物は甘さ控えめのホットミルクだ。


 いやー、どら焼きの生地をベーキングパウダー無しでふっくら仕上げるのは大変だったよ、主に筋肉的な意味で。魔法を使えば楽じゃんって思ったんだけど、なぜか泡を一粒一粒作っていく作業になったんだよね……あれは逆にきつかった。

 あと、ミルクを絞るのにも苦労した。何かものすごい速度で走るんだよね、この世界の牛って。しかも二足歩行で、金髪を振り乱しながら、叫びながら。振り落とされないように絞るのが大変だったよ。


「で、いつから教えてくれますかね? お爺さん。いえ、先生」

「なんじゃ、儂にはくれんのか、その菓子」


 先生と呼ぶことにしたお爺さんがぼけっとした顔で私の顔を見てくる。


「え? だって今日は、大人が子供にお菓子を配る日ですよね? 先生」

「その前提は子供が配っとる時点で崩壊しとる」

「まあそうですね。じゃあお1つ差し上げましょうか。はい」

「おお、ありがたい。できれば飲み物の方も貰えるとありがたいんじゃが」


 お爺さんに小首を傾げて可愛く強請られても可愛くない。いや、これでも猫好きなら可愛いと思うんだろうか? 左右の目の色が違うから多分猫の獣人だと思うんだけど、この先生。


「図々しいですね、先生。ですが先生が……もしかしたら10人程に増えるかもしれない生徒たちに勉強を教えてくれると約束してくれるのなら、こちらをお渡ししましょう」


 脳裏に浮かぶのは、ラウリ、エクス、ソラン、あーちゃん、しーちゃん、くーちゃん、姉さんの7つの顔だ。……ラウリ、エクス、ソランの顔はちょっと怪しいが。


「ここはもう学校ではないと言うておるのに、10人じゃと?」


 テーブルの上に牛乳を瓶ごと1本取り出し、その横にゆっくりと芋羊羹を三重に重ねてみる。一応包装はしてあるのだが、芋だか砂糖だかの甘い甘い匂いとバターの芳醇な香りがじんわりと部屋中に広がっていく。自分で出しておいてなんだが、若干、辛いものがある。

 私にとって芋羊羹とは、匂いだけで甘すぎて頭痛に苦しめられると同時に、食べたいという欲求と唾液も出てくるという面倒くさい食べ物なのだ。アレスとトトスからの視線も痛い。早く受け取っていただきたいものである。


「はい。ここがもう学校ではないのなら、年齢を理由に諦める必要が無くなりますから」

「人に図々しいと言っておきながら、そっちも随分と図々しいの」


 だって、先生が図々しいなら生徒も図々しくなるべきでしょう。


「勿論、授業料もお支払いしたいと思っていますよ。今はまだ稼いでいるのは私1人と言っても過言じゃない状況なので、大分勉強していただかないと払えないですが」

「ふむ。毎回菓子も差し入れてくれると言うのであれば、考えないことも無いの」

「お菓子ですか。こちらも考えないでもないですがその前に、月1人当たりお幾らいくらいお支払すれば宜しいんでしょうかね、先生。あと、授業計画の詳細も教えてください」



 先生との話し合いが終わったのはまだ昼前だった。姉さんの家にいた時間や先生との話し合いの時間も込み込みでもかかった時間はおそらく2時間もない。やっぱり魔法って便利だなと改めて思った。

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