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 1人味覚が違う私にみんなで同じ味を楽しむパンケーキは合わないと悟った私は、今週はプリンに挑戦することにした。パンケーキと違って積み重ねる必要はないので、個々人で好きにトッピングできる。

 狙いは上手く当たったようで、甥っ子たちは味や見た目の変化を楽しんでいるようだし、私も何とか完食できそうだった。


「そういえば、エリー。エリーはどんなお菓子を用意してくれるのー?」


 キラキラした3対の目で見つめられても……ごめんよ、可愛い甥っ子さんたち。エリーさんはプリンの攻略に勤しんでいて話を碌に聞いてなかったよ。突然無邪気に水を向けられて困惑中だよ。

 しかし、お菓子? はて、この村にお菓子と呼ばれるような高級な代物はあっただろうか。……パンケーキやプリンは(誰が何と言おうとここでは)お菓子じゃなくて昼食の中の一品だし。


「『無かった日』のお菓子だよ、エリー」


 ああ、無かった日のお菓子か。


 無かった日とは1年の最初の日または最後の日とされる日で、普通は暦には入れない。

 ざっくりと言ってしまえば、ゾンビとか幽霊とか妖精とか女王様とかカボチャとか、とにかく日常とは違う格好に仮装した子供たちが嘘をばら撒きながら村の中を放浪する日だ。面白い嘘を吐いた子にはお菓子が配られ、許されないような嘘を吐いた子には拳骨が配られるという、何とも言えない祭りの日だ。


 配られるお菓子は決して甘いものではなく、さりとて辛いものでもない。素材を生かした味というか、素材の味しかしない。餅っぽいけど餅みたいに美味しくない何かや、煎餅っぽいけど煎餅みたいに美味しくない何かだ。

 昔はそれでもありがたがって手に入れようと頑張っていたが、成人したのでもう貰えないし、もっと美味しいものを作れるようになったのですっかり忘れていた。……しかし、そうか、村では今年からは配る側になるのか。


「あー、ごめーん。(君たちには)拳骨しか用意してないわー」


 とりあえず甥っ子たちには笑顔でそう言っておく。これで下らない嘘を吐く子が3人減ったと思いたい。


 しかし、無かった日のお菓子か。どうしよう、すっかり忘れて何も考えていなかったけど……あれ? もしかして、店の宣伝に使える? だけど、宣伝に相応しいお菓子ってどんなお菓子だろうか。

 とりあえず、突然甘いものを与えるのは危険だろう。私一人のお金と労力では沢山は用意できないし、他の村人が配るお菓子と差ができすぎるのは良くない。むーん、難しいな。



「ところで、ラウリ、エクス、ソランはどんな仮装をするつもりなの?」


 当日までの秘密にされるかなとちらっと思ったけど、そんなことは無かった。


「俺は首長龍だよ、エリー」

「僕は尾長龍だよ、エリー」

「僕は足長龍です、エリー」


 なるほど、龍で揃えるのかー。でもこの世界の龍は確か4種類いる。


「胴長龍はどうするの?」


 胴長龍は前世で言う東洋の龍のような龍である。一番かっこいいと私は思うんだけど。


「胴長龍はちょっと……」

「蛇みたいだからね、ちょっと……」

「何人かに声をかけてみたんですが、なりたい人が見つからないんですよね」


 あー、蛇かー。そういや村では蛇は超絶不人気だったな。


「んじゃ丁度寒い時期だし、それっぽいマフラーでも用意すればいいんじゃないの?」


 3人は互いに目を交わして肯いた。


「流石だね、エリー」

「ありがとう、エリー」

「期待してますよ、エリー」


 なぜか私が編まされることになった気配。まあいいけど。



「あー、遅かったかー」


 昼食の後片付けをしていると、がっくりとした顔で店の中を覗きこむ不審者が1人……っていうか、今の今までその存在をすっかり忘れていたが、元ゴミじゃないか。

 しかし、おかしいな。村には数多いる未亡人の中の誰かと娶せてやってくれと村長に引き渡したはずの元ゴミが、なぜここにいるのか。……ああ、無さ過ぎる筋肉のせいで返品されたのかな。興味が無さ過ぎて気付かなかったが、あの筋肉じゃ鼠の肉1つ取ってこれなかったに違いない。人の形はしているが、魔力の方もかなり微妙なようだ。


 てか、なんでそんな男がこんな辺境の地へとやってきたんだ。ここは王都のような恵まれた場所ではない。乳幼児の死亡率も、森へ入る男たちの死亡率も高い。しかも村人の殆どが王都では奴隷階級とされている獣人だ。親戚やご先祖様の大部分が獣人である私にですら、警戒を解かない村人もいるというのに。なぜそこで、王都のほぼ頂点に位置する王子様を自称する?

 ……厄介ごとの臭いしかしない。巻き込まれたくない。係わりたくない。


 入口の扉をガタガタとやっているようだが、残念だな、それは開かない。何せこの店の営業時間は、朝の9時から11時までのたった2時間しかない。しかも営業日は、前世でいうところの火曜日と金曜日の週にたった2日。

 読めないだろうが入口のドアにも日本語でちゃんとそう書いてあるし、お得意様は甥っ子3人組しか今のところいないので、今のところその営業時間でも何の問題も無いのだ。


 しかし、ガタガタが煩くて集中できない。甥っ子たちも気になるみたいで、ちらちらと視線をそっちに向けている。あ、ちょっと手抜きになってごめんなさいだけど、売り物ではない甥っ子たちのマフラーでも作るかな。

 そういえば、この世界の羊はかなり強力な紫色の電撃を撃ってくる。あれには吃驚したよ。焦がさないように、殺さないように、毛を刈るのが大変だったよ。



「よいしょっと」


 袋から取り出しただけでふぁさーっと勢いよくテーブルの上に広がる一枚のふっかふかの絨毯状の毛。よく見ると毛もうっすら紫色なんだねー。毛先はうっすら金色だし、なんだかちょっとお上品だよねー。

 王都では信じられないくらいお高く売れると気づいて試しに取って来たものなんだけど、しかしこれ、ここからどうやって毛糸にするんだろう? 細くて長い毛と毛がしっかりと絡み合ってて、もういっそ鋏でマフラーの形にじょきじょき切るだけでもいい感じのマフラーにできそうな気がするんだけど。


「え? おい、これ……」

「あれこれ、もしかして……」

「エリー、まさかこれ……」


 今日の課題である算数の問題から目を上げて、驚愕に目を開く甥っ子3人組。


「ん? 君たちのマフラーにするつもりの、羊の毛だけど?」


 てかこれ、何もせずにこのままで毛布の代わりにできそうだな。ふかふかだし軽いしあったかいし、王都でこのままで売りに出せそう……っていうか、売られていたな。

 お手軽に商品ゲットはありがたいな。何頭か生け捕りにして庭で飼うのもありかもしれない。ちょっと凶暴だけど、馬たちと同じで躾をすれば大丈夫な気がする。


 考え事に夢中になっていた私には、その後に続いた甥っ子たちの声が聞こえなかった。


「なあ、あれって羊? 羊という分類に入れていいのか?」

「うーん、確かに毛は取れるけど……」

「でもまあ、馬は馬であれだし……」

「そうですね、馬と同じで、エリーの前でだけはあれは羊ということにしておけばいいんじゃないでしょうか?」

「そうだな、エリーだし」

「うんうん、エリーだから仕方がない」



 どこでどんな心境の変化があったのかは知らないが、気が付けばマフラーはやっぱり要らない、無かった日の衣装は全部自分たちで用意すると甥っ子たちにしつこく自己主張されていた。

 ふむ、自立への第一歩というやつなのかな。少し寂しい気はするけれども、村では前世よりも王都よりもずっと早く成年を迎える訳だし、きっといつまでも幼い子供扱いは良くない。


 ああでも社会勉強の一環として、甥っ子たちを無かった日に王都へ行こうと誘うのはどうだろう?

 王都では獣人は皆等しく奴隷階級として虐げられる存在だが、子供であれば仮装するのが常識の、無かった日だけは獣人の子供でも虐げられずに王都を闊歩できる可能性が高い。王都では私もまだ仮装する側の年齢だから、甥っ子たちと一緒に衣装を用意することに……うん、どこにも無理も矛盾も無い気がする。

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