きっかけはささいなこと
切欠なんて本当にささいな事だった。
石川とはたまたま席が近い同じクラスの女子で、たまたま男友達とトランプで遊んでる時に一緒に遊び、それからは良く話すようになった仲の良い女友達みたいな認識。
「堀川君ここだよ!」
中央公園の広場ど真ん中で石川はこっちを見て手を振る。
確かに待ち合わせは中央公園とは伝えたけど、ど真ん中とは伝えてない。
「えーと、これで後来てないの誰?」
石川は隣に居る浴衣姿の西村さんに尋ねる。
西村さん夏休み入る直前位から、俺の友達の横山と付き合い始めたと横山本人から聞いた。
「えーと、中山君と田口さんと……掛水さんかな」
西村さんは隣の横山にだよね?とたずねながら見上げる。
発端は横山が西村さんと祭りに行こうと誘ったら、2人っきりは恥ずかしいから、友達も交えてって話になり、何故か俺が巻き込まれた。
誘った男子と女子の人数の関係で1人足りないから、誰か女子1人誘えないか?と言われて俺が石川に声を掛けた。
正直あまり話した事のない女子と一緒に居るよりは楽だと思ったからだ。
集まった女子5人のうち3人が浴衣、残り2名のうち1名はミニスカートを履いてとかでグループデートを意識した格好の中で、石川1人ジーパンにTシャツと色気も何もない格好。
髪の毛もショートだから、むしろ男の子にも見えなくない。
だから意識する事もなく何時も通り学校で話すように会話をする。
話をするうちに全員集まり、祭り会場に移動となる。
総勢10人で移動とか結構面倒臭い。
「うわぁ……こんなに凄い人数の祭りとか初めて」
「え?そうなの?」
「うん、私の家の近くじゃここまで大きいのはしてないから」
はぐれたら合流出来るかなーとか石川はブツブツ呟やく。
そういえば家は学校から1時間ほど離れた田舎だとか言ってたな。
「まあ人数居るし、誰かに引っ付いてたら早々はぐれないと思うよ?」
だよねーって返事をしながら、回りの屋台をキョロキョロ見ている。
どうやら屋台の数の多さも珍しいみたいだ。
「あそこの牛串美味しいんだって」
開催20年以上、出展してる屋台は祭り会場近辺の出展店舗が中心で、祭り限定メニューを出してたりするので、噂とかで何処其処は何々が美味しいという噂が出回る。
そういう噂を当てにしながら、食べ物屋台の物を買って皆で分けたりしながら食べ歩く。
意外に楽しい。
30分おきに上がる時報代わりの花火を見る。
アナウンスで流れる協賛の名前を聞きながら、年々協賛会社減ってるから相変わらず不況なのかなー?って話をしたりする。
正直自分達には何が不況とかはいまいち判らない。
そんな話をしてるうちに、横山と西村さんと石川が居ない事に気がついた
「あれ?あいつら何処に行ったんだ?」
あたりを見回して遥か後ろの方で横山っぽいやつの頭がチラチラ見える。
ここはまだ人の流れの途中だから何時までも立ち止まってると邪魔なので、皆にこの先にある祭りではぐれた人達と合流場所として作ってある広場を指定して、俺は横山達を呼びに向かった。
「何やってんの?」
西村さんが横山の腕に捕まりながら、足の様子を見てる
「んー……下駄で少し擦れて痛めたみたいだから、絆創膏貼ってたんだ、お迎えありがとう堀川君」
「あ、石川さん絆創膏ありがとう」
西村さんがお礼を言い横山がそのまま手を繋ぐ。
「皆この先の広場で待ってるから行こう」
先を歩く西村さんと横山の後ろに並んでついていく。
流石に目の前で手を繋ぎながら2人の世界で会話をされるとイラっとする。
てか2人っきりの世界作るなら最初から恥ずかしいとか言わずに2人で行けよと心の中で毒づいてたら
かくんっ
とシャツが後ろから引っ張られた。
え?って振り返ると石川が俺のシャツを引っ張ってる手が見えた。
「ごめん、皆で居たときはそうでもなかったんだけど、さっきから人ごみに流されてはぐれそうで、つい掴んじゃった」
名前呼んでたんだけど聞こえてなかったみたいだし……と言いながら石川は俺のシャツから慌てて手を放す。
シャツを掴んでた手それだけで俺は、石川に惚れてしまった。
「堀川?」
いきなり意識してしまった感情に少し惚けた俺を石川が見上げる。
「あ、いいよシャツそのまま引っ張ってて、また流されてはぐれたら困るし」
それに意識してしまったら恥ずかしくて手とか繋げれない。
「そう?ありがとう」
普段ならシャツとか引っ張られたら伸びるから嫌になるのに、後ろからのその掴まれてる感覚に心が躍った。
意識してしまったらもうダメだ。
今まで罰ゲームで平気でデコピンとか出来てたのに、背中とか平気で叩けてたのに石川に少しでも触るのに勇気がいる。
俺次からどうやって石川と話せばいいんだろうか……。
今までどうやって会話してたかも思い出せない。
広場で皆と合流して、最後に記念撮影をして、また2学期にと挨拶をして別れた。
正直もう石川とどんな話をしたのかさえ覚えてない。
とりあえず、夏休みで良かった、これが普通の日だったら、俺明日から挙動不審になれる自身がある!
とか自分で突っ込みを入れながら、夏休みの間にこの感情と向き合って落ち着けるようにしようと決めた。
シャツの裾を引っ張る話を書いたらこうなった