僕はストーカーじゃありませんから。
初の恋愛小説です。高度な恋愛小説を求める方にはおすすめしません(笑)
『コタツ。その中には、無限の空間が広がっている。普段は普通の机でありながら、冬季限定で毛布を挟むことによって、たちまち「ただの机」から「便利な暖房器具」へと変身する。
さらに、「ただの机」の時にはない、磁石のような力まで発揮するときた。人々にはたらく「出たくない」という力は、万有引力よりも強いと言えるだろう。』
「・・・と、私は思う訳ですよ!」
と、小野寺陽菜は言った。目の前にいる親友である少女に、一本のポッキーを突き出しながら。
「・・・あんたのコタツに対する愛情も、そろそろ変態じみてきたわね。」
そう言いながら、少女は突き出されたポッキーの先端にかぶりついた。
「変態じゃないよ、菜緒ちゃん。ただ、ほかの人よりコタツを愛してるだけだよ。」
「・・・それを俗に変態というのよ。」
菜緒にバッサリと切り捨てられた陽菜は、手にしているおなじみの箱からさらに3本のポッキーを取出し、一気にモシャモシャと食べた。
「もう、菜緒ちゃんはそういうとこ冷たいよねー。」
「あたしが冷たいんじゃなくて、あんたが熱すぎるのよ。・・・まったく、いつからこんなになっちゃったんだか。」
そういってため息をつく菜緒は、いまや陽菜の保護者と化している。いや、飼育係というべきだろうか?
そんな分析をしている僕も、女子から見れば変態なのかもしれない・・・。そう思うと、ある種の自己嫌悪に陥ってしまう。
最初に言っておこう。僕は彼女――――小野寺陽菜に惚れている。入学式の2日ほどあと、初めて会った時から、僕は彼女にゾッコンである。好きになったきっかけ?そんなもの一目ぼれ決まってるだろう!一目見て電撃が走ったんだ!今世紀最大の!
しかし、僕は彼女としゃべったことがない。おそらく、今後ともしゃべることは不可能に近い。僕は数理科、彼女は普通科。学科の違いという壁は、想像以上に厚い。クラスも3年間かぶることはない。
「・・厳しい恋路だなぁ・・・・。」
その小さなつぶやきに、自分でもある種の寒気を感じる。まったく、女子みたいなことを言ってしまった。もっと気を引き締めなければな。僕はメガネを人差し指で整えた。
「なにが厳しいって?」
背後から、明らかに笑いを含んだ声がした。振り向くと、メロンパンと牛乳を持った男が立っている。
「・・・今日もメロンパンか?お前、ホントに好きなんだな。」
「その言葉をそっくり返してやりたいよ。『今日も小野寺陽菜か?お前、ホントに好きなんだなw』ってか?」
そういいながら、彼は僕の前の席にすわり、僕に向かい合う形でメロンパンを咀嚼し始めた。
彼の名は蒼井奏詩。こんな名前でありながら音痴だ。常にメロンパンを欠かせない。自称メロンパンの守護神である。ついでに、僕の親友であり、幼馴染である。
「まさかお前が恋に患う日が来るとは思ってなかったよ。まったく人生は何が起こるか分からないモンだな。」
失敬な事を言ってくるヤツだ。
「お前の無礼な発言は聞き飽きてきたが、最近どうもそのネタが多いような気がするんだが・・・」
「そりゃーお前、自分がどんな人間か分かってんのか?極度の女性恐怖症で、女と視線も合わせられない佐藤くんがだぞ?今や立派なストーカーとか・・・プハッ!ウケずにいられるわけねーじゃん!」
そう、僕は女が嫌いだ。いや、男が好きなわけではない。断じてない。いつからかは思い出せないが、気付いた時には女の子が苦手だった。
神様、僕が彼女と近づける日はくるのでしょうか?ハッ!また女子みたいなことを言ってしまった!とりあえず、きっかけがほしいところだ。何かいい案はあるだろうか・・・。
そんなことを考えながら、デザートのミカンの皮をむいた。僕のデザートはほぼ毎日ミカンだ。「え?なんで?」などと野暮なことは聞かないでほしい。そんなもの好きだからに決まってるだろう。ちなみに、僕はミカンの白いところは取らない派だ。この白いところにこそ、ミカンの美味さと栄養分が詰まっているのだ!と僕は思う。
「ほら、菜緒ちゃん!あの人だって毎日ミカン食べてるじゃん!きっと、私がコタツ好きなのと同じくらいあの人もミカンが好きなんだよ!」
ずっと眺めていた少女が、僕の方を指さして、大きな声で言った。・・・・って、え?
「コラ、他人を巻き込まないの!そこの人ぉ~、この子がごめんなさいね~!」
え?え?(⇐女性苦手)わーい、絶賛パニック中だー・・・・。こんな時に限って・・・。
「あ、大丈夫ですー。ちなみにコイツはミカン大好き人間でーす。」
見かねた奏詩が答えた。地味に僕のことをPRしやがった・・・!
「そうなんだ~。なんだか仲良くなれそうだね!私、小野寺陽菜って言いまーす!よろしくね~!」
うん、前から知ってたよ。だって、いつも君のことを見てたから。・・・・などという気のきいたセリフが出てくるわけもなく。
「う、、うん。」
・・・これが、今の僕の精一杯だ。
そんな僕の態度を見ていられないとでもいうように、休憩終了のチャイムが響く。
彼女はこちらに向かって、ブンブンと手を振り回した。僕は、おそらくひきつっているであろう笑顔を浮かべて、小さく手を振った。去りゆく少女を、ただ見つめる。
あぁ!なんて幸せなんだ!心の中で叫んだ。
「よかったじゃーん、愛しの君とお話しできて~。」
・・・。目の前にいる悪魔の微笑みで、現実に引き戻された気分だ・・・。
あぁ!どうして言いたいことを言えないのだろう!こんなに好きなのに・・・!思うだけなら誰にでもできるもんな・・・。女の子が苦手とか、そういうことじゃなく、彼女の前だと息がつまる。心臓の高鳴りが苦しい。・・・それでも好きなんだ。
僕はどうすればいいのでしょうか、神様。
・・・うん、まずはこの女子っぽいことを心の中で呟くのをやめよう。