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大内のお殿様

室の中で、まだ名のない未来

作者: 月草
掲載日:2026/04/17

ありがたいことに、前作がぼちぼち読まれたようなので

シリーズ化してみました。

お楽しみいただければと思います。

天文六年十二月。

周防国山口の冬は、張りつめた静けさを伴ってくる。

築山館の一角、南面した一室では、障子越しの淡い光が、白く冷えた畳を照らしていた。

外では、雪に変わりきれない冷たい風が、庭木の枝をわずかに鳴らしている。

その音を聞きながら、俺――大内晴持は、几帳の脇に座していた。


今日の御目通りは、形式としてはごく普通のものだ。

安芸より人質として下向した少年が、取次を通し、正式な段取りを経て、こちらへ訪ねてくる。

日時を定め、礼法に沿って設けられた、初顔合わせの席だった。

(……先走りはしない)

俺は前世の記憶を持って、この時代に生きている。

この先に起きる出来事の一端を、知っているからこそ、

今は余計な手を出さないと、最初から決めていた。


「晴持様、毛利少輔太郎殿、御目通りにございます」

控えの声が、襖越しに届く。

「通せ」

短く答えると、襖が静かに引かれた。

冷えた外気が一瞬だけ室内に入り込み、わずかな香の匂いと混じって消える。

入ってきたのは、一人の少年だった。

年若いが、所作に乱れはない。

畳の縁で止まり、端正に一礼し、定められた位置へ進み、静かに座す。

背筋はまっすぐで、視線は低い。

だが、怯えた様子はない。

(……落ち着いているな)

場の空気を壊さず、自分を過度に押し出さない。

その佇まいだけで、いくつかのことが分かる。

「毛利少輔太郎と申します。

本日は御目通りの儀、恐れ入ります」

声はやや硬い。

長旅と、異郷に身を置く緊張が、まだ抜けきれていないのだろう。

俺は、ゆっくりと一礼を返した。

「大内晴持だ。

遠路、よく下向した」

少輔太郎――のちに隆元と名乗る少年が、顔を上げる。

「義隆公の……養嗣子様ですね」

「そうだ。

今日は堅い用件はない。顔合わせの席として設けた」

そう告げると、彼の肩から、わずかに力が抜けた。

「……左様であれば、ありがたく存じます」

若さが、言葉の端に残る。

火鉢の炭が、かすかに音を立てた。

暖を取りすぎぬよう抑えられた火は、室内にわずかな温もりだけを残している。

「少輔太郎」

名を呼ぶと、彼は即座に姿勢を正した。

衣擦れの音が、静かな室内に小さく響く。

「君は、自分の立場をどう見ている」

少し厳しい問いかもしれない。

だが、ここで確かめておくべきことだ。

少輔太郎はすぐには答えず、短く息を整えた。

外の風が、庭木を揺らす音が、ひときわはっきり聞こえる。

「……人質でございます。

そのうえで、学ぶ立場にあると心得ております」

余計な理想も、言い訳もない。

卑屈でもない。

「それでよい」

俺は頷いた。

「この地は厳しいが、学ぶ場は多い。

学ぶ意志があれば、無駄にはならぬ」

少輔太郎の目が、わずかに開かれた。

「晴持様は……」

控えめに、彼が問い返す。

「差し支えなければ、お歳を伺っても?」

「俺は十三だ」

一瞬、驚いたように目を見開き、

それから少輔太郎は、ふっと息を吐くように笑った。

「……私は十四でございます。

それなら……少し気が楽になります」

「なぜだ?」

「同じほどの年の方が、すでにこの地におられると思うと、

ここを、遠い場所と思わずに済みます」

正直な言葉だった。


(未知数だな)

この少年が、いずれどうなるか。

今は、誰にも断じられない。

俺は、声を少し和らげて言う。

「これから、ここで顔を合わせることも増えよう。

分からぬことがあれば、遠慮せず尋ねよ」

少輔太郎は、少し考えたのち、はっきりと頭を下げた。

「では……

私も、この地で学ばせていただきます」

冬の淡い日差しが、障子越しに室内を満たす。

香と冷気が混じった空気は、静かに澄んでいた。

ここには、まだ英雄も柱もいない。

あるのは、同じ時代に、この館で向き合った二人だけだ。

だが、それで十分だった。

未来は、ここで定まるわけではない。

ここから、選ばれていく。

今はただ、その最初の一歩として、

この御目通りがあればよい――。

本作品は作成にAIを使用しておりますので、ここに明記しておきます。

ご了承ください。

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