青空のクロス
モーグルのエアー。
白を基調とするウエアの選手が青空の中で舞った。スキー板をきれいな十文字にクロスさせて。
= 青空のクロス = Aju
少し無理をしちゃった。
エアーのトリックの中にロデオの回転だけでなく、どうしてもクロスを入れたかったから。
着地が乱れて得点が伸びず。それでも銅メダルを貰えたのは嬉しいし、申し訳ないような気さえする。
わたしはこのオリンピックには出られないはずだった。
それはわたしの国が隣の国に侵略戦争を仕掛けているから。
それでも、IOCはわたしを個人資格で参加させることを認めてくれた。それはたぶん、わたしが金メダル候補の実力を持っていると言われていたからだと思う。
個人資格だから、開会式の入場行進には参加できなかった。
それでも競技に参加できるだけ、わたしは幸せ者だと思う。
侵略されている方の国の選手で、亡くなった同朋アスリートの顔をプリントしたヘルメットで競技に出ようとして失格になった人がいたと聞いた。
いくら選手は競技にのみ集中せよと言われても、追悼さえ許されないのはおかしいような気もするけど‥‥。わたしはそれについて何も言えないし何も表明できない。言えば、国のあの独裁者が許さないから。
個人資格とはいえ、わたしはその国の人間だから。
それは政治的発言になってしまうから。
だからわたしはどうしても青空の中で十字架を作りたかった。90度の綺麗なクロスを。
せめてもの祈りと懺悔を込めて。
わたしは閉会式を待たずに空港に向かった。
この国の空は晴れている。空港から飛んでゆく飛行機の航跡が、白い尾を引いて青空に伸びてゆく。
あの国の青空にも白い尾を引く雲が伸びていっているのだろう。今、この瞬間にも‥‥。わたしの国からのミサイルの航跡が。
わたしは、侵略国家の人間であることが恥ずかしかった。
しかし、そんなことはたとえ思っていても微かでも表情に出すわけにはいかない。
このままこの地から亡命することも頭をよぎった。
けれど、わたしがそんなことをしたら‥‥国の家族はどうなる? どんな目にあわされる?
個人資格とはいえ、メダルを取ったアスリートが亡命したとなれば独裁者のメンツは丸つぶれになるだろう。
わたしはどんな表情も見せず、飛行機に乗った。
わたしの国に帰る飛行機に。
きっと国に帰れば、宮殿に呼び出されるだろう。
メダルを取ったことを褒賞するために。あの独裁者と並んで笑顔で写真に写ることを求められるだろう。
応じないという選択肢はない。
もしかしたら勲章を授けられるかもしれない。
その勲章が、せっかくの銅メダルも一緒に汚してしまうことになるだろう。そう思っても、その感情はおくびにも出すわけにはいかない。
いっそのこと、着地に失敗してそのまま転んでしまえばよかった。メダルなんか取らなければよかった‥‥。
競技の最中に、どうしてそれを思いつかなかったんだろう。
わたしは国に帰る飛行機に乗った。
それ以外の選択肢が、わたしにはないように思えるから。
飛行機は、青空に向かって飛び立った。
了
このお話は一部現実の出来事からヒントを得てはいますが、全てフィクションです。
このところ、オリンピックネタばかり書いています。(^^;)
しいな ここみ様の『瞬発力企画』に参加した作品です。(お題は『青空』)
お題が出されてから24時間後が締め切りというキッツイ企画です。
朝から遠方に仕事に行き、夜遅く帰ったときにはすでにお題の発表から13時間半経っていました。
翌日早朝の仕事のことを考えると「1時間が限度」と思ったのですが、1時間半かかりました。(^^;)
そしてやっぱり‥‥爆笑ものの誤字がありました。(^◇^;)
ここに掲載したものは修正したものです。(笑)




