表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/52

第8話 プロジェクトがない

放課後。


帰り支度をする翔に、ロッティはそっと近づいた。


「Sho... walk together? 」

《翔、一緒に帰る?》


翔は目線をそらしながら短く答えた。


「部活あるから」


「ブカツ……?」


それきり翔は教室を出ていった。

ロッティはその背中を静かに見送った。


すぐに沙羅が現れる。


「翔、つめたいな〜! いいよ、私が教えてあげる。翔の“ブ・カ・ツ”!」


ひかりが割り込む。


「ロッティ、柔道部より生活部の方が楽しいよ。見学してみる?」


「セイカツブ?」


「“なんでも部”って呼ばれてるの。いろいろやるよ」


「No! Judo! You join judo! 」

沙羅が必死に訴える。


「女子、私ひとりなんだよ! ロッティ、入ってー!」


そこへ陽太が飛び込んできた。


「ロッティは足速そうだし、陸上部がいいって!」


「なんで?」


「なんとなく! 雰囲気!」


「根拠ないし」


ひかりが冷静に突っ込む。


「勧誘したいなら理由言わなきゃ」


「そうそう。ロッティ、困っちゃうよ」


結局、三人はそれぞれの部活を案内することになった。


***


柔道場。


畳の上では、翔が無言で稽古していた。

額の汗、集中した視線、技の鋭さ。


ロッティは息をのんだ。


「It’s so impressive... Is this really judo? 」

《すごい……これが柔道?》


沙羅が小声で言う。


「翔の相手は田島魁人。強いよ」


魁人を見つめる沙羅の瞳がキラッと輝く。


――Her eyes… are emitting organic light.

  《彼女の目、有機発光してる!》


ロッティは観測した。

瞳孔の収縮、反射光、頬の温度の変化。


――If observation affects the state, then my gaze is interference too.

 《観測が状態を変えるなら、わたしの視線も“干渉”》


「やだロッティ、そんな見ると恥ずかしいよ」


観測された沙羅の笑顔は、もう一段明るく輝いた。

ロッティは、人の感情が織りなす未知の“量子場”の入り口に立っている気がした。


***


運動場。


狭いグラウンドを何人かが走っている。


陽太が胸を張る。


「ロッティも走ろうぜ! 気持ちいいよ!」


「いや、ロッティが速いかまだ分かんないし」


ひかりが冷静に返す。


「雰囲気で勧誘するのやめなよ」


「じゃ、走らない種目なら!」


「もう、ロッティと一緒にいたいだけでしょ」


沙羅に指摘され、陽太はばつが悪そうに肩をすくめた。


***


生活部。


家庭科室には折り紙、色紙、笑い声。

秋祭りの飾りづくりで賑やかだった。


「生活部はね、お菓子作りから盆踊り、田植えボランティアまで、なんでもやるよ」


ひかりが説明する。


ロッティはその光景を見て、ふと疑問をこぼす。


「Where’s the lab? The project room? 」

《研究室は? プロジェクトルームは?》


「……ラボ?」


ロッティは翻訳画面を見せた。


『研究室』


ひかりが戸惑って答える。


「理科室……のことかな?」


全員で理科室へ向かった。


***


理科室。


扉を開けると、ひんやりした空気。

黒い作業机、ガスバーナー、ビーカー。


ロッティは眉をひそめた。


――No vacuum chamber. No spectrometer. No laser optics.

  《真空チャンバーなし。分光計なし。レーザー光学もない》


「Where’s the electron microscope? The laser oscillator? 」

《電子顕微鏡は? レーザー発振器は?》


「え、えれくとろん……?」

「おしれーたー……?」


陽太が戸棚から古い光学顕微鏡を取り出す。


「これか?」


ロッティは絶句した。


「No! That’s just an optical microscope! 」

《違う! ただの光学顕微鏡!》


両手で頭を抱える。


――This can’t be the lab.

  《ここは研究室じゃない》


胸の奥で、何かが崩れた。


ロッティはひかりたちに詰め寄る。


「Where should I study? 」

《私はどこで研究するの?》


ひかりたちは顔を見合わせた。


「ロッティが研究する場所?」

「校長先生が何か言ってるのかな……」

「とりあえず、校長先生に聞いてみたら?」


ひかりが翻訳アプリで示す。


『Maybe ask the principal. 』

《校長先生に聞いてみて》


その機械音を振り切るように、ロッティは廊下へ走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ