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第52話 誰かの新しい“光”となって

出発の朝。

柴田家の前には、小さな人だかりができていた。

クラスメートや先生、そして「たかとお」の人たち。


冷たい風に桜の蕾が揺れ、遠くの山の残雪が陽に溶けて淡く光っていた。


「ロッティ、本当に行っちゃうんだね」


ひかりの声は震えていた。

ロッティは優しく微笑み、春の空を見上げる。


「ありがとう、水守。ここは、わたしを“わたし”にしてくれた場所だから」


翔が少し照れくさそうに視線をそらす。


「……また戻ってこいよ」


ロッティは明るく頷いた。


「もちろん。水守は、わたしの“心の重心”だから」


久美先生がそっと肩に手を置く。


「また、いつでもいらっしゃい」


タクシーが停まり、トランクに荷物が積まれていく。

みんなの笑顔と涙を胸に、ロッティは水守村を後にした。




***




マサチューセッツ州・ケンブリッジ。

久しぶりの自宅のリビングに、午後の光が柔らかく差し込んでいた。


「Lottie! You're finally home! Tonight, we're having steak!」

《ロッティ! ついに帰ってきたな! 今夜はステーキでお祝いだ!》


「Thank you, Dad. It’ll give me energy for tomorrow’s move.」

《ありがとう、パパ。明日の“引っ越し”のエネルギーになるわ》


「Move? What?」

《引っ越し? なんだって?》


「I'll live in the dorm. I want to broaden my horizons.」

《寄宿舎に入るの。もっと世界を広げたいから》


「I didn’t know that! You can do research here! We've got Internet!」

《初耳だぞ! 研究なんて家でできるだろ! ネットもあるし!》


「No, Dad. I need to be independent — not dependent on you.」

《違うの、パパ。私は“甘え”から自立したいんだ》


「Don't say that… You can rely on me more, you know.」

《そんなこと言わずに、もっとパパを頼ってくれていいんだぞ》


そこへ母エリザベスが、やわらかく笑いながら口を挟んだ。


「Mike, let her go. She kept her promise — she stood up again.

Now it’s our turn to listen to her.」

《マイク、行かせてあげて。ロッティは約束を守ったわ。

 自分で立ち上がって、自分の道を選んだ。今度は私たちが聞く番よ》


「…Fine. At least she’s staying in America.」

《……まあ、アメリカにいるだけマシか》


ロッティはくすっと笑う。


「I might study in Japan again.」

《また日本に留学するかもしれないけどね》


「Hey, don’t you dare!」

《やめてくれよ、それは!》


ロッティは胸に手を当てた。


「Dad, it’s okay even if we’re apart. We’re like quantum entanglement.」

《離れていても大丈夫だよ、パパ。私たちは“量子もつれ”みたいな関係だから》


「What does quantum entanglement even mean?」

《量子もつれって何なんだ》


「It means we understand each other!」

《通じ合ってるってこと!》


そう言うと、ロッティはマイケルとエリザベスに飛びついた。




***




三年後。

M.I.T.の研究室。


机にはノートパソコンと論文の山。

ホワイトボードにはびっしりと数式が並んでいる。


スマートフォンが震えた。

画面には「Hikari Takato」の名前。


「Hello, Lottie! I was accepted into Harvard University!」

《ハロー、ロッティ! 私、ハーバードに合格したよ!》


ロッティの顔が一気に輝く。


「See you soon in America.」

《すぐにアメリカで会おうね》


胸が高鳴る。


「Congratulations, Hikari! I'm looking forward to meeting you!」

《おめでとう、ひかり! 会えるの、すっごく楽しみ!!》


スマホをそっと置き、窓の外を見る。

春の光が、ケンブリッジの街に優しく降りそそいでいる。


「Photons are raining down here, just like they did in Mizumori.」

《ここにも光子フォトンが降り注いでる。あの日の水守みたいに》


その声は、柔らかな光に乗って静かに広がっていく。


光は国境も時間も越えて――

今も誰かの道を照らしている。


(完)

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