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量子少女ロッティの青春エンタングル ―― 山村留学で恋も友情も“もつれ”だす!  作者: 葉月やすな
第 9 章 成長が呼び込むフェーズ・トランジション
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第46話 早くみんなに追いつきたい

春の陽ざしが柔道場の窓ガラスに反射していた。

畳の匂い。

洗い立ての道着。

そのすべてが、ロッティの胸を少し高鳴らせる。


ロッティは三年生になった。

柔道部も新しい年度を迎え、そして今日――新入部員が入ってくる。


「一年、田村涼子です! よろしくお願いします!」


明るくよく通る声が柔道場に響く。

小柄なのに芯の強さが伝わる目つき。立ち姿だけで、ただ者ではないとわかる。


魁人がひそひそと耳打ちした。


「涼子って、去年の小学生の県大会で入賞してた子だぞ」


「男子より強いです。僕、いつも負けてました……」


悠が気まずそうに言う。


ロッティは思わず息を呑んだ。


――そんな強い子が入って来たんだ……。


翔が前に出て、穏やかな声で告げる。


「今日からうちの仲間だ。男女三人ずつ、これでチームが揃ったな」


男子は翔・魁人・悠。女子は沙羅・ロッティ・涼子。

自然と笑みが広がる。


――これで、試合に出られる……!


胸がぽっと熱くなった。


 


***




大会に向け、練習が本格化する。


「はい、そこ! 引き手をしっかり!」


久美先生の声が飛ぶ。

柔道場の空気はいつもより熱気を帯びていた。


ロッティは涼子と組んで打ち込みをしていた。


「いきます!」


「う、うん!」


次の瞬間――視界から涼子の姿が消えた。

足がふわりと浮き、視界がぐるりと回転する。


どん、と背中が畳に落ちた。


「先輩、大丈夫ですか!?」


涼子が駆け寄る。


「へ、平気……! いい投げだったよ」


笑ってみせたものの、胸の奥には苦いものが広がっていた。


――先輩らしくカッコよく決めたかったのに。

 本気でやっても、ぜんぜん敵わない……。


だが、涼子の目はまっすぐだった。

技への迷いがなく、純粋に一生懸命なのが伝わる。


「すごいね、涼子」


「ありがとうございます! でもロッティ先輩の受け身、すごくきれいです!」


「えっ……まあ、受け身だけは、いっぱいやらされたから……」


――褒められてる?


ささくれた気持ちが、ほんの少し和らいだ。


「はい、休憩ー! しっかり水分取って!」


久美先生の声が響く。


沙羅がタオル片手に近づいてきた。


「涼子ちゃん、やっぱ強いね」


「うん……さすが県大会入賞……」


「マジで強い。あたし、あんなに投げられたら泣く自信ある」


沙羅が茶化し、ロッティも思わず笑ってしまう。


「でもさ、ロッティだってすごいよ?

 この一年でめちゃ上達したし。もう正直、あたしより強いよ」


「えっ、そんなこと……!」


「ほんとほんと。でも、身長差ついちゃったけどね」


沙羅は自分の手を水平に動かして示す。

ロッティはこの一年でぐんと背が伸びた。


「でも、胸はまだ負けてないけど」


そう言ってロッティの胸をツンツン。


「ひゃっ!」


ロッティの声に翔と魁人たちが「何ごと?」と振り向く。

ロッティは慌てて口を押さえ、真っ赤になった。


沙羅の笑い声が、春の風に乗ってやわらかく響いた。


 


***




練習後。


ロッティは畳の上にへたり込む。


「おい、大丈夫か? 最近、飛ばしすぎだぞ」


翔が顔を覗き込む。


「ううん、平気だよ。大丈夫」


慌てて立ち上がり、笑顔を作る。


「無理して怪我したら意味ないからな」


その真っ直ぐな気遣いが、なぜか胸の奥に染みる。


「うん、気をつける」


翔が「ちゃんと休めよ」と言って背を向けると、

ロッティは思わず声をかけた。


「あの、その……この腕の角度、これで合ってる?」


「え、どこ?」


「ここ。投げるときの――」


翔は軽く笑い、ロッティの腕をとる。


「こうだよ。ほら」


背後からそっと腕を導かれた瞬間、心臓がどくんと跳ねた。


――ちょ、ちょっと近すぎ……。


汗の匂い。近い息づかい。

翔の声が、耳のすぐそばで低く響く。


「そう、それ。力が入りやすい」


「……うん」


翔の手が離れたあとも、指先の感触がしばらく残った。


「じゃ、後は反復だな」


そう言って道場から歩いていく。

ロッティは、その背中を目で追い続けていた。


 


***




夜、柴田家。


焼き魚と味噌汁、久美先生特製のだし巻き卵が食卓に並ぶ。

ロッティと翔が揃って箸を取っていた。


「涼子ちゃん、どう? あの子、強いでしょ」


久美先生が笑いながら聞く。


「はい。すごく強いです」


ロッティは素直に答えた。


「あなたも随分柔道らしくなってきたわ。

最初は投げられるたびに目を白黒させてたのにね」


「そ、そんな……!」


「いや、あれは本当に白黒してたぞ」


翔がからかう。


「もう、翔まで……!」


ロッティは口を尖らせたが、すぐ笑ってしまう。

久美先生はうれしそうに頷いた。


「そうやって笑えるのが大事なのよ。柔道は心の稽古でもあるからね」


ロッティは箸を持ちながら小さく頷く。


翔が湯呑を置いて言った。


「明日も朝練な。寝坊すんなよ」


「うん!」


最近、翔は道場だけでなく家でも自然に話しかけてくれるようになった。

それがロッティにはうれしかった。


窓の外で、春の夜風が木を揺らす。

揺れる影を見ながら、ロッティは胸にそっと手を置いた。


――もっと強くなりたい。早く、みんなに追いつきたい。


新しい一年が、静かに幕を開けた。

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