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第44話 やっぱり世界は広い

走って「たかとお」に着いたころ、外では雪がちらつき始めていた。

旅館の灯りは点いているのに、どこか沈んだ空気が漂っている。


玄関を開けると、真理子さんが心配そうに顔を上げた。

大介さんも険しい表情のままだ。


「ロッティちゃん……ひかり、学校に行ってないの」


「……はい。聞きました」


「昨日、何か言ってなかった?」


ロッティは唇をかんだ。

胸が痛いほど脈打つ。


「……『家出したい』って。でも、冗談だと思ってて……すみません」


もっと話を聞いていれば――と、悔しさが胸に突き刺さる。


「そんな……」


真理子さんが肩を震わせる。

大介さんは拳を固く握ったまま、うつむいていた。


そのうち、クラスメートたちが次々に駆けつけてきた。

真琴、陽太、美央、魁人、沙羅――みんなが白い息を吐きながら立っている。


「みんな、学校に戻りなさい」


すでに来ていた真田教頭が、強い口調で言った。


「俺たちにも探させてください!」


翔が必死に訴える。

沙羅たちも「お願いします」と声をそろえる。


真田教頭はしばらく迷ったようだったが、「無茶はしないように」と前置きしつつ状況を説明した。


「バス会社に連絡しましたが、乗った記録はありません」

「自転車も家にある」

「つまり、まだ遠くへは行っていないと思われます」


「よし、分担して探そう」と言い、みんなは散っていった。


ロッティもスマホを握りしめ、村中を歩き回った。

田んぼ、神社、学校裏の坂道――どこにもひかりの姿はない。


「もう、ひかりのやつ……どこに隠れてるんだよ」


翔が苛立ちを隠せないのがわかる。


「こうなったら役場の放送で呼びかけるしかない」


大介さんの声は震えていた。


「でも、それじゃひかりが帰りづらく……」


「そんなこと言ってる場合か! もし事故でもあったら――!」


真理子さんの顔から血の気がすっと引いた。


雪はだんだん強くなっていく。

息は白く、手はかじかんだ。


昼を回ったころ、ロッティのスマホが震えた。


――ひかりからだ。


画面には、雪をかぶった山頂でピースするひかり。

その写真に添えられた短い言葉。


『やっぱり世界は広い!』


水神岳みなかみだけだ!」


翔が叫ぶ。


「行こう!」


沙羅が言い、魁人が消防団の父の車に飛び乗る。

他のみんなも久美先生と教頭の車に乗り込んだ。


 


***




幾重にも曲がりくねった峠道を上り、水神岳の登山口にたどり着く。

すでに消防団の人たちも集まっていた。


「この先は歩きです!

 雪道は危険です。ここから先は我々だけで行きます!」


誰かが強く言う。


「俺も行きます!」


翔が食い下がるが、久美先生が首を振った。


吹きつける雪の中、みんなの息は白くなる。

足元には薄く雪が積もり始めていた。


――ひかり。お願い、無事でいて。


「ここにいたら風邪ひくわ。とりあえず車に入りましょう」


久美先生の言葉で、みんなは車に戻って待機することになった。


「ロッティ、携帯はつながらないのか?」


「うん、何度か掛けてみたけどダメだった」


「雪で電波が死んでるのかな……」


陽太のつぶやきが、不安をさらに広げる。


「もしかして、遭難とか――」


「バカ言うな! 絶対帰ってくる!」


翔は怒鳴ったが、握った拳は震えていた。


まんじりともできないまま、時間だけが過ぎていく。


 


***




突然、久美先生のスマホが鳴った。


「はい……えっ、見つかった!? はい、ありがとうございます!」


通話を切ると同時に振り返って叫んだ。


「みんな! 見つかったって! 無事よ!」


「やったー!」


ロッティは沙羅と抱き合い、涙があふれた。


しばらくして、木立の向こうに人影が見えてくる。

消防団に囲まれながら、ひかりが雪を蹴って下りてきた。


「ひかりっ!」


大介さんが叫び、駆け寄る。


「心配かけやがって!」


パシッ――山に響く平手の音。


ロッティが息をのむ。

真理子さんが「やめて!」と抱きしめる。


ひかりは頬を押さえながら、父をまっすぐ見つめ返した。


「……私、やっぱり外の世界が見たい」


雪の中、その声は驚くほどはっきりしていた。


「お願い、行かせて」


大介さんの手が震える。

そのとき、後ろから貞蔵ていぞうさんがゆっくり歩み寄った。


「大介。行かせてやれ」


静かだが芯のある声だった。


「親が子を縛っても、幸せにはできん」


大介さんは拳を握り、しばらく沈黙したあと――

低い声で言った。


「……好きにしろ。

 だが、一度出たなら途中で帰ってくるな」


ひかりの目から涙がこぼれた。


「ありがとう……お父さん」


ロッティはその姿を見つめながら、胸の奥が熱くなった。


――外の世界に出ることは、逃げることじゃない。前に進むこと。


雪は静かに降り続けていた。

その中で、ひかりは少し大人の顔をしていた。

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