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量子少女ロッティの青春エンタングル ―― 山村留学で恋も友情も“もつれ”だす!  作者: 葉月やすな
第 7 章 迷いの中にあるポイント・オブ・グラビティ
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第38話 にぎやかになりそうね

旅館「たかとう」。

エリザベスたちの泊まる部屋には、朝の光が障子越しにやわらかく差し込んでいた。


ロッティは真剣な表情で、母・エリザベスを見つめる。


「……Mom, I've decided.」

《……ママ。わたし、決めたわ》


エリザベスがゆっくりとロッティを見返した。


「Yes?」


ロッティは息を吸い込み、はっきりと言った。


「I want to stay here and compete in next year's tournament.」

《ここに残って、来年の混合戦に出たい》


一瞬、空気が止まった。

父のマイケルはスプーンを落とし、カラン、と音が響く。


「What happened, Lottie?」

《どうしたんだ、ロッティ》


「Lottie… is that your conclusion?」

《ロッティ……それがあなたの答えなの?》


エリザベスの声はいつも通り穏やかだったが、瞳は真剣にロッティの心を測ろうとしていた。


ロッティは強く頷いた。


「Yes. Yamamura's project is important too.」

《うん。博士のプロジェクトも大事だけど》


「But right now, there's something else I want to do.」

《でも……今は、それよりもやりたいことがあるの》


「I want to fight together again.」

《もう一度――みんなで戦いたい》


エリザベスはしばらくロッティを見つめ、それから柔らかく微笑んだ。


「If you really think so, I won't stop you.」

《あなたが本気でそう思うなら、私は止めないわ》


ロッティの目が丸くなる。


「Thank you, Mom!」

《ありがこう、ママ!》


「Of course. We believe in you.」

《もちろん。私たちはあなたを信じてる》


「Because I think the place you chose is the place where you can grow the most.」

《あなたが選んだ場所が、いちばん成長できる場所だと信じてるから》


マイケルはまだ口をぽかんと開けたままだったが、

エリザベスが「博士への連絡はしておくわね」と言うと、ようやく理解したように頷いた。


ロッティは立ち上がり、二人にぎゅっと抱きつく。


「Thank you, Mom! Thank you, Dad!」

《ありがこう、ママ! ありがとう、パパ》


エリザベスはその頭を優しく撫でた。




***




ロッティは「たかとう」を飛び出した。

朝の風が頬を撫で、胸の奥が熱くなる。


――早く伝えなきゃ。


道場の戸を勢いよく開けた。


「翔っ!」


練習が止まり、全員がロッティを見る。


翔がタオルで首を拭いながら、驚いたように言う。


「……ロッティ? どうした」


ロッティは息を切らしながら、翔をまっすぐ見つめた。


「翔、わたし、来年の混合戦に出たい! みんなと一緒に!」


しん、と空気が固まる。


魁人が「はあ?」と眉を上げ、翔は困ったように後頭部をかいた。


「混合戦って……出たいなら個人戦でも女子団体でも――」


「ちがうの!」


ロッティは一歩踏み出す。


「混合じゃなきゃ意味がないの。あのとき、みんなで戦った感じ……もう一度やりたいの!」


その目は真剣そのものだった。


翔は何か言いかけ、口を閉じる。


沈黙を破ったのは、魁人の吹き出すような笑い声だった。


「ははっ、今度はロッティが“団体病”かよ」


「だんたいびょう?」

ロッティが首をかしげ、翔も「なんだそれ」と顔をしかめる。


魁人は腕を組んでニヤニヤとする。


「お前もかかってただろ、翔。団体戦のあの高揚感が忘れられなくなる病気だよ」


翔はバツが悪そうにそっぽを向いた。


「この前はお前のわがままにみんなで付き合ったろ?

今度はロッティの番だ。ちゃんと話、聞いてやれよ」


翔はしばらく黙った。

そしてロッティの目を真っすぐ見て言った。


「……やるなら、本気で勝ちにいくぞ。中途半端な気持ちじゃダメだ」


ロッティは強く頷いた。


「分かってる。ちゃんと、柔道部に入る」


その言葉に、翔の口元がほんの少しゆるむ。


「……なら、やってやるよ」


「やった! また一緒にできる!」


沙羅が飛び上がって喜ぶ。


久美先生はその様子を見て、目を細めた。


「まったく……またにぎやかになりそうね」


ロッティの胸の中に、熱いものが広がっていった。




***




数日後――。


旅館「たかとう」の玄関先。


エリザベスとマイケルがスーツケースを持ち、送迎車を待っている。

柴田家全員が見送りに来ていた。


エリザベスは翔を見ると、いたずらっぽく笑った。


「He's the one who caused the extension, right?」

《この子が……留学延長の原因ね?》


ロッティは顔を真っ赤にして両手を振る。


「No! That's not it!」

《ち、ちがう! そうじゃない!》


マイケルがぎょっとして振り返る。


「What!? “Cause”? What does that mean!?」

《な、なんだって? “原因”? どういう意味だい!?》


エリザベスは楽しそうに追い打ちをかけた。


「Isn't it nice to extend your study abroad for your boyfriend?」

《ボーイフレンドのために留学延長だなんて、素敵な話じゃない》


「Boyfriend!?」

《ボーイフレンド?》


マイケルの声が裏返る。


ロッティは耳まで真っ赤にして叫ぶ。


「Oh, Mom! That's why it's not true!!」

《もう、ママったら! だから違うってば!!》


エリザベスはおかしそうに笑った。


やがてタクシーが到着する。

エリザベスがロッティを抱きしめた。


「Good luck, Charlotte.」

《頑張るのよ、シャーロット》


「Yeah. I'll do my best, Mom.」

《うん。頑張るよ、ママ》


ロッティは小さく笑う。


――わたしの“心の重心”は、ここにある。

  もう一度、みんなで戦うために。


ロッティは遠ざかるタクシーを見送った。


夏休みの終わり。

風に混ざる気配は、すでに秋の色を帯びていた。

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