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量子少女ロッティの青春エンタングル ―― 山村留学で恋も友情も“もつれ”だす!  作者: 葉月やすな
第 7 章 迷いの中にあるポイント・オブ・グラビティ
34/47

第34話 そろそろ終わり

夏休みの終わりが近づいていた。

日差しはまだ厳しいのに、空の色だけがどこか秋めいている。


調理実習室では、ロッティたち生活部のメンバーが文化祭の準備をしていた。

水守中学の文化祭は村民合同で行われ、家庭科部では調理実習室を小さなカフェに見立ててお茶を振る舞うのが恒例だった。


「翔、今日もダラダラ?」


ひかりがクッキーを袋に詰めながら聞いた。


「たぶん。家を出るときも寝てたし、昨日は遅くまで魁人とゲームしてたみたい」


ロッティはくすっと笑う。


「まったく、いつまで“抜け殻モード”なんだか」


そう言いながら、ひかりはオーブンのタイマーを止めた。


「わたしのせいで、翔が混合団体戦に出られなくなったから……」


「え? なにそれ」


ひかりは目を丸くする。


「それで、ふてくされてるとでも思ったの?」


「だって……」


「ちがうよ。抜け殻なのは個人戦のせいだってば」


「個人戦?」


「そう。試合終わった瞬間、“やりきったぜー!”って叫んでたし」


――確かに、とロッティは思った。


翔と魁人は、あの後の個人戦で入賞した。

でも、それは団体戦に出られなかった悔しさを、個人戦に全部ぶつけた結果だったのかもしれない。


そう思うと、一瞬だけ見えた翔の悔しそうな横顔が、胸の奥でまだ小さく疼いていた。


「それに、翔はそんなことで人を責めたりしないよ」


ひかりは、ロッティの気持ちを見透かすように言った。




***




「ひかりは、翔のこと、よくわかってるね」


ぽつりと口からこぼれる。


「うん。まあ、昔からの付き合いだし」


ひかりは笑いながら、焼き上がったクッキーを皿に移す。

その声には、少し誇らしげな響きがあった。


「小学三年のとき、あいつと沙羅と魁人と一緒に柔道を始めたんだ」


「そんな前から?」


「ほら、久美先生、小学校にも教えに行ってるでしょ。そこで」


「そうなんだ」


「でも、人数が少なかったから、男子も女子も一緒に練習しなきゃならなかったの」


「うちの柔道部と同じだ」


「翔は昔から女子が苦手で、全然練習できなくてさ」


「あははっ。それもあんまり変わってない」


「でも、私とは普通に練習できた。だから、人数が足りないときは、いつも私と組んでたんだよ」


ロッティは、少しだけ胸がざわついた。


「それが、小学校の卒業間近だったかな。急に練習を避けられるようになってさ」


ひかりの笑い方が、ほんのわずかに変わる。


「理由も言わないで。それで嫌われたと思って、中学では柔道をやめたの」


ロッティは静かに聞いていた。


「でも今思えば――恥ずかしくなったんだと思う」


「恥ずかしい?」


「私も女子だってことに、急に気づいたんじゃないかな。あははっ」


ひかりは照れたように肩をすくめた。


「だから、別に私がやめる必要なんてなかったんだよね」


「やめたこと、後悔してるの?」


「してないよ。家庭科部も楽しいし。それに、続けてても男子にはもうかなわないし……昔みたいに楽しくできなかったと思う」


笑っているのに、ひかりの目の奥だけが少し寂しそうだった。


――あのとき。「翔と家で練習した」と言ったら、ひかりが驚いていた理由。

ロッティはようやく、それを理解した気がした。




***




ひかりがクッキーを差し出しながら言う。


「でも最近、翔、ロッティとは普通に練習できてるよね。ちょっとは成長したのかも」


その笑顔を見た瞬間、胸の奥がわずかにざわめく。


「でも、相変わらず家では無視されてるけどね」


――どうしてだろう。胸の奥が、少し痛い。


ひかりは気持ちを切り替えるように立ち上がった。


「さて、次は飾りつけね。翔たちにも手伝わせよっか」


「えっ、翔も?」


「うん。どうせ今ヒマだし。力だけは余ってるはずだよ」


軽い冗談の中に、翔への信頼がにじんでいた。


ロッティは頷き、紙や絵具を準備する。

窓からの光が机の上で揺れた。


――翔とひかり。


その間にある「何か」を、ロッティはまだ言葉にできなかった。

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