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第24話 笑顔のかたちをした孤独

新年度の午後。

ロッティは二年生になった。

窓の外では、まだ春の風がどこか冷たかった。


ひかりとロッティは、水守バザーの準備のため、少し早めに家庭科室へ向かっていた。


「ねえ、ひかり。水守バザーって何するの?」


「村の野菜とか、お菓子とかを売るんだよ。隣の青蘭市からも人が来るんだ」


「わたしたちも出すの?」


「もちろん。手作りお菓子とか、手芸品とかね」


「クッキーも出す?」


「もち!」


「じゃあ、わたしも頑張ろっと」


「もう、またクッキー理論出た!」


「イエス」


ふたりは笑い合いながら家庭科室に入った。

部屋には、粉のような陽ざしが静かに舞っていた。


「あれ、ロッカーの鍵持ってる?」


「ロッティが持ってきたんじゃ?」


「ううん、ひかりが持ってると思って……あれがないと道具出せないよ」


「もう、私、取ってくる!」


そう言って、ひかりは軽く手を振り、職員室へ走っていった。


ロッティが一人になると、机の上に置かれた黒いノートが目に入った。

少し古びた、見覚えのないノートだった。


「Lost item?」

《忘れ物?》


ロッティは何気なく手に取り、ページをめくった。


――そこには、鉛筆で描かれたマンガ。

タイトルは『破壊神デストロイヤーアルパ』。


線は少し荒い。

けれど、紙の上で叫び出すような力を放っていた。


――黒い空の下、校舎の屋上に立つ少女・アルパ。


頭の中でざわめく声――「気持ち悪い」「近づくな」。


マンガの中の少女は耳をふさぎ、目を閉じる。

そして、静寂を創り出す。


「A world without voices... so peaceful, yet so lonely.」

《声のない世界……穏やかだけど、さびしい》


ロッティは、ページをめくる手を止められなかった。


超能力者であるがゆえに差別され、孤立する少女。

その姿は、かつて“ギフテッド”として「変なヤツ」と言われていた自分と重なる。


母の手によって超能力者にされたアルパ。

研究所から差し向けられる敵を倒し、自分を追いつめた世界を破壊していく。


その怒りは、あまりにもリアルだった。


――そして、最後のページ。


壊れた世界の真ん中で、少女は空を見上げて笑っていた。

その笑顔は、どうしても冷たく見えた。


「Why... why smile like that?」

《どうして、そんな笑い方を……?》




***




――ガタッ。


後ろの椅子が鳴る音に振り返ると、クラスメートの中原真琴が立っていた。


その肩が、小さく震えている。


ロッティは慌ててノートを閉じ、机に戻した。


「こ、これ、忘れ物かと思って……」


「嘘。中、見たでしょ」


沈黙。

ロッティは息をのんだあと、正直に言った。


「……ごめん。でも、すごく上手。おもしろかった」


真琴の眉がわずかに動いた。


「でも、最後は……違うと思った」


「勝手に読んで、いきなり批評?」


「ごめん」


ロッティはもう一度、深く頭を下げた。


「世界を全部壊すのは、違うと思う」


「イジメてたヤツはいなくなって当然でしょ」


「でも、主人公はまたひとりになるよ」


真琴の表情がこわばる。


「……あんたに何がわかるの?」


その言葉は刃のように突き刺さった。

ロッティは思わず一歩、後ずさる。


「わたしも……昔、ひとりだった。みんなと違って、“変”って言われて。

イジメた人は、今でも許せない。でも、復讐なんてしたくない」


自分でも驚くほど、言葉が自然にあふれていた。


「わたしは見てほしかっただけ。戦うんじゃなくて、わかってほしかった」


真琴は唇をかみしめ、ノートを抱きしめる。

涙がこぼれそうに揺れていた。


「……ほっといて。こんなの、あたしが勝手に描いてるだけだから!」


バリッ。


ページが引き裂かれる音が響く。


ロッティは何も言えなかった。

真琴は顔を上げないまま、破ったページを床に叩きつけて走り去っていく。


――Why did she cry? Did I say something wrong?

 《どうして泣いたの……? わたし、なにか間違えた?》


ロッティは落ちたページに目を落とす。


そこには、笑うアルパの絵。

でも、その目が――泣いていた。


――Loneliness wears a smile too.

 《笑顔のかたちをした孤独もあるんだ……》

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