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第14話 テスト頑張る

真田教頭は「自習を続けなさい」と言い、教壇の椅子に腰を下ろした。

持っていた本を開き、ちらりとクラスを見渡す。


ロッティは社会の教科書を広げ、指で漢字をなぞりながら小声で英語に訳していく。


「んー……この“近代化”って、どう読みますか?」


隣のひかりが顔を上げる。


「“キンダイカ”って読むんだよ」


ロッティは翻訳アプリに入力し、ぱっと笑顔になる。


「Modernization… Oh, I see.」


「じゃあ、“廃藩置県”は?」


「“ハイハンチケン”」


「“ハイハイチケン”…? Yes yes one? 何ですか、これ?」


アプリの誤訳にロッティは目を丸くし、沙羅が吹き出した。


「やだ、“はい、はい、一件”って出てる!」


「なにそれーっ!」


周りからもくすくす笑いが漏れる。


「ちょっと、静かにして」


美央の鋭い声が飛ぶ。

ロッティとひかりは慌てて頭を下げた。


真田教頭が咳払いし、沙羅も急いで席に戻る。

教室に再び静けさが落ちた。




***




定期テストの前日。


ロッティの部屋の灯りは、夜遅くまで消えなかった。

机の上には、ひかりとまとめた社会のノートと、半分だけ残ったクッキー。


「“殖産興業政策”… production… industry… ええと……」


翻訳アプリを見つめ、眉間にしわを寄せる。

訳しても、頭の中はすぐに白くなる。


「Just memorizing isn't fun at all...」

《覚えるだけなんて、全然楽しくない……》


ぽつりと漏れた言葉が、静かな部屋に溶けた。


――Understanding and liking are different things.

  《わかることと、好きになることは違う》


美央の言葉が、初めて胸の中で意味を持ち始めていた。


ペンを持つ手が次第に重くなり、

やがてロッティはページに頬をつけたまま眠りに落ちた。




***




「……ロッティ?」


美和の声がして、ロッティはゆっくり目を覚ました。


「大丈夫? うなされてたみたいよ。Are you OK?」


「I had a strange dream.」

《変な夢を見ました》


「もう二時よ。明かりがついてたから心配でね。

It's already two o'clock.」


ロッティはスマホを見て、目を丸くする。


「明日テストでしょ? こんなところで寝たら風邪ひくわよ。

ほら、お布団行って」


「ゴメンナサイ、美和さん。すぐ寝ます」


美和は微笑み、そっとロッティの頭を撫でた。

ロッティは少し恥ずかしそうに頬を赤くする。


クッキーを片づけ、布団に潜り込むと、すぐに深い眠りに落ちていった。




***




期末テスト初日。


教室には、いつもとは違う緊張が満ちていた。

ロッティには、その空気が細い“張力”のように感じられた。


ホワイトボードには「期末試験 一日目」。

シャープペンのノック音さえ、控えめだ。


ひかりがロッティの顔をのぞき込む。


「眠そう……昨日、遅くまで起きてたでしょ?」


ロッティは半分あくびをこらえながら言った。


「スゴク勉強しました」


「もしかして徹夜?」


「違います。変な夢を見て……」


「どんな夢?」


「はい。真田先生が“Yes Yes One, Yes Yes One”と言って追いかけてくる夢です」


「……“廃藩置県”の!?」


ひかりが吹き出す。

ロッティは真顔で肩をすくめる。


「Very scary…!」


そのやり取りのあとろで、美央が小さく咳払い。

二人は慌てて黙り込んだ。


ちょうどそのとき、教室のドアが開く。

水沢エリカ先生がテスト用紙を抱えて入ってきた。


「はい、静かに。これから期末テストを始めます」


ざわつきがすっと消え、紙の音だけが残る。


ロッティは深呼吸をし、テスト用紙を開いた。

氏名欄に “Charlotte Grace Hart” と書き、

その下に、日本語で小さく――


「テスト、がんばる」


そして、ペン先が静かに動き始めた。

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