第11話 絶対、やり遂げてみせる
ドアがノックされ、ゆっくり開いた。
久美が顔をのぞかせ、その後ろにはエリカ先生――そして、外国人の男女が立っていた。
ロッティは目を見開いた。
「……Mom!? Dad!?」
「Oh, Lottie! Thank God! 」
《ロッティ! 無事でよかった!》
エリザベスが駆け寄り、そのまま力いっぱい抱きしめる。
父・マイケルも心配そうにそばへ来た。
「Lottie! We were so worried! You just disappeared! 」
《心配したんだぞ。いきなり姿を消すなんて》
ロッティは混乱しながらも問い返す。
「How did you even find me? 」
《どうしてここがわかったの?》
「Dr. Yamamura called us. He said something seemed wrong. 」
《山村博士が連絡をくれたの。あなたの様子がおかしいってね》
エリザベスの言葉は優しいが、責めるような色もあった。
「Running away from home? Oh, Lottie… what were you thinking? 」
《家出だなんて……ロッティ、一体どうしたの》
「Running away…!?」
エリカが思わず声を上げ、
ひかりたちも顔を見合わせてざわつく。
ロッティは肩を落とし、小さく震える声で答えた。
「I just… wanted to get to the project. 」
《私はただ……プロジェクトに行きたくて》
マイケルは娘の両肩に手を置き、ゆっくりと言った。
「Come on, Lottie. Let's go home together, alright? 」
《さあ、一緒に帰ろう。もう大丈夫だ》
その言葉が、部屋の空気を静かに揺らした。
「帰らない」――ロッティの決意
そう言ってしまった自分に驚いた。
ひかりが息を呑み、小さな声でつぶやく。
「ロッティ……帰っちゃうの?」
沙羅も心配そうに続けた。
「Don't go home… we’re friends. 」
《帰らないでよ……私たち友達でしょ》
陽太が言った。
「せっかく仲良くなれたのに」
友達の声が重なり、ロッティの胸の奥が熱くなる。
そして、彼女は深く息を吸い――はっきりと言った。
「No! I’m not going back!」
《帰らない!》
両親が驚いて瞬きをする。
ロッティはさらに踏み込んだ。
「I'll stay here… until Dr. Yamamura’s project begins! 」
《博士のプロジェクトが始まるまでは、ここにいる!》
言い切った瞬間、胸の奥がじんと痛んだ。
マイケルが困ったように言う。
「The project won't start until next year, sweetheart. 」
《プロジェクトは一年後だよ》
「There's no need to wait here. 」
《今ここで待つ必要はないんだ》
ロッティは唇を噛みしめた。
「But if I go home now… then everything I did will be for nothing! 」
《でも帰ったら……今までの全部が無駄になる!》
声が震えながらも、目だけはまっすぐだった。
***
エリザベスはしばらく娘を見つめ、ゆっくりしゃがんで目線を合わせた。
「Lottie… are you serious? 」
《ロッティ……本気なのね》
「Yes. I'm serious. 」
《うん。本気だよ》
母は静かに息を吐き、決心したように言った。
「All right… then listen carefully. 」
《わかったわ……でもよく聞きなさい》
「Stay here for one year — see it through to the end. 」
《ここで一年間過ごして、最後までやり遂げなさい》
「Live among people, and learn how they feel. 」
《人の中で暮らし、人の気持ちを学ぶのよ》
ロッティは目を丸くした。
「Really…?」
《ほんとに……いいの?》
「Yes. But that's my condition. 」
《ええ。でも、それが条件よ》
その瞬間、ロッティの顔にぱっと笑顔が広がった。
「Thank you, Mom! I promise! 」
《ありがとう、ママ! 約束する!》
ひかりたちが思わず拍手し、部屋の空気が一気に明るくなる。
***
「よかったな、ロッティ!」
「Welcome to Mizumori again! 」
陽太と沙羅が笑い、翔は照れくさそうにそっぽを向いた。
マイケルはまだ心配そうだったが、エリザベスは小さく首を振った。
「Michael, what she needs now isn't a gifted program — it's people. 」
《マイケル、あの子に今必要なのはギフテッド教育じゃなく“人”よ》
「Maybe… she can find that here. 」
《ここなら、それが見つかるかもしれない》
久美が深く頭を下げる。
「大切にお預かりします」
エリザベスはロッティを抱きしめ、耳元でそっと言った。
「Take care of yourself. I'm looking forward to a year from now. 」
《体に気を付けてね。一年後を楽しみにしているわ》
ロッティも抱き返し、しっかりと答えた。
「Yes… I’ll definitely do it.」
《うん。絶対、やり遂げてみせる》
翌日、両親は帰国していった。
空港で久美の隣に立つロッティの目は、どこか凛としていた。
――こうして、ロッティ・グレイス・ハートの本当の“山村留学”が始まった。




