9話 絶対に刀は使いません!(後編)
アーカイブは残しているし、学生も見ているため、どこかで瑞希に配信のことがバレる可能性は考えていたが、思っていた以上に早かった。
人並みに、動画を見ている瑞希ではあるが、白亜程度の配信者はたくさんいる。
それこそ、時間帯の事を含めれば、相当、配信が好きな人でなければ、見つけにくいだろうし、バレるとしたら、白亜のリアルな知り合いからのリークだと思っていた。
「同じクラスの陽って子が、白亜さんのファンで、最近、お昼に一緒に見てます」
「なぁるほどなぁ~~どうりで、最近、瑞希からのコメントが来るわけや」
近頃、昼休みにかかる配信の時に、瑞希からコメントが飛んでくることがあった。
瑞希は、白亜の配信を確認しなければならないが、学校でわざわざ見ているのかと疑問ではあった。
だが、友人の視聴に付き合っているなら、理解はできる。
「しっかし、瑞希がコメントしてくるのは、結構意外なんよね。あんましないタイプやん?」
「あー……それ、アレですよ。瑞希、白亜さんのファンって勘違いされてて、推し活レクチャーされてます」
「なんやそれ。詳しく」
おもしろいものを見つけたとばかりに、耳と尻尾を立てる白亜に、真桐は先日の昼休みの事を思い出す。
「配信を盛り上げるためにも、コメントはした方がいいって! きつねさん、コメントとのやり取りする系配信だし!」
「え゛、いや、私はいいよ……」
「最後の”おつー”とかだけでもいいからさ!」
傍から見れば、好きなVactorのことを話しているだけなのだが、白亜の事を知っている真桐からすれば、中々おもしろい光景であった。
「瑞希は、認知されたい系? されたくない系? ちなみに、自分の名前の発音に近い音を組み合わせると、自分が呼ばれてる気になる疑似体験もできるよ。母音合わせると、結構いける」
「されたく、ないかな……」
それが身内なら、なおさらそうだろう。
何とも気まずそうな瑞希の表情に、真桐も小さく微笑みながら、その様子を眺めていた。
「じゃあ、名前は食べ物がオススメ。きつねさんのリスナーって、そばとか、うどんの名前使うことが多いから、その辺使ったら、認知されにくいけど、時々拾ってくれるよ」
「いや、拾われなくていいんだけど……」
「じゃあ、『赤いきつね』とかにしたら? ほら、いっぱいいるよ」
冗談交じりに真桐が指さすコメント欄には、『赤いきつね』と『緑のたぬき』という名前が大量に流れている。
他にも、山菜やかきあげといったものや、有名なうどんやそばのチェーン店の名前などが使われている。
瑞希も、そのコメント欄を見てから、目森へ目をやれば、その期待する眼差しに、諦めたようにため息をついた。
「じゃあ、赤いきつねにしようかな……」
そうして選んだ名前でやっていることといえば、配信の最後に、その他大勢と同じように『乙』と書き込むだけだったが。
別に、他と見分けはつかないような内容だったはずだが、どうやら白亜にはバレていたらしい。
「実際、瑞希のコメントってわかったら、読むんですか?」
「おもろければな。そこは贔屓せぇへんよ」
そこまでのコメントを、瑞希がしてくるとは思えないが。
「でもま、瑞希の僕に、本気で読ませようとしてくる、コメントっちゅーもんも気になるけどな」
「家で、普通に聞いた方が早いじゃないですか」
「ネットだからってこともあるやん? 友達の話なんやけどーーって恋バナされるのと同じやって」
明らかに自分の話なのに、誤魔化せていると思って話しているのをおちょくるのは、ついつい尻尾を隠すのを忘れてしまうほどの楽しい。
「アカン。想像しただけで、おもろくなってきた」
始めこそ、どうしてコメントをしてきていたのかと疑問だったが、他人の振りをしながら、つい読みたくなるようなコメントを考える瑞希を想像しては、笑いそうになる。
きっと、一生懸命に考えて、これだ! と打ち込んでくるのだろう。想像がつく。
「いやいや、しないって。絶対」
つい、真桐も白亜と同じ想像をしてしまうが、そもそも瑞希がそんなに必死に、白亜の配信へコメントを考えるはずがない。
「アカンわ。そんな弱気じゃ、てっぺんは取れへんぞ!」
「何のてっぺんを取らせようとしてるんです?」
悪ノリを始めてしまったと、真桐がため息をついていれば、塀の向こうから、白亜を探す声が聞こえてくる。
どうやら、枝切鋏が見つかったらしい。
「――って、波奈もいたんだ」
「うん。それが、枝切鋏?」
「あ、うん……錆びてて、正直、切れるかわかんないけど……」
瑞希が持ってきた随分と錆びて、動かすたびに音の鳴る枝切鋏を確認しながら、白亜も微妙な顔をしていた。
辛うじて使える、といったところか。
「白亜の刀で切った方が、早い気がするけど」
「ほら、瑞希ちゃんもそう言ってるぞ」
「うっさいわ。僕の刀は爺さんらと違うて、繊細なんや。文句言うなら、枝叩き折るで」
そう言いながらも、何度か枝切鋏を動かすと、白亜はまた枝の方に向かい、枝を切り落とし始めた。
最終的に、切れなかった枝は、白亜が素手で折ってから、剪定鋏で整えられる光景は、全員が白亜の事をもの言いたげに見つめていた。
「いやー助かったよ。三人共」
「いいえ。また何か困ったことがあったら、言ってください」
「はい。これ、お駄賃」
「ありがとうございます」
袋に入れられたお菓子たちを受け取ると、空になった自転車のかごに入れる。
「あれ……どっかに行くところだった?」
真桐の自転車に、瑞希も少し焦るような声を出すが、真桐は、白亜が持っている大量のお菓子と一緒に収められたぬいぐるみの方へ目をやると、微笑んだ。
「ううん。帰るとこ」
「そう? 付き合わせてゴメンね」
「全然。私も暇だったし」
じゃあね。と、自転車に跨れば、何やら慌ただしく近づいてくる足音。
「あぁ、瑞希ちゃん。よかった。まだいた。納戸の鍵、どこに置いたか覚えてない? 見つからなくって」
「えぇ……玄関に置いてなかったです?」
「あれ、ポケットじゃなくて、玄関だっけ?」
「玄関。えーっと、あの、蓮の葉っぱ置物の――」
爺さんに続くように、また建物に戻る瑞希は、一度足を止め、真桐に振り返ると、手を振った。
その様子に、真桐も眉を下げながら、手を振り返した。
相変わらず、面倒見がいい。
白亜もまた、めんどくさそうに頭に手をやっていたが、瑞希を追いかけるように、ゆっくりと歩き出し、ふと足を止めた。
「――せや。波奈」
「はい?」
「人形の処分なら、僕がしたるから、気にせんで、欲しかったら買うてええで」
まだ真桐も瑞希も幼い時のことだ。
真桐がうさぎのぬいぐるみをもらって、瑞希が参加賞のようなお菓子詰め合わせをもらっていた。
そのかわいらしいうさぎのぬいぐるみに、最初こそすごく喜んでいた。だが、ふと、処分の事が頭に過ってしまった。
その表情が曇った真桐の事を気にしてか、瑞希が、景品の交換を提案してきて、交換したことがあった。
「――あの時のことは、秘密って約束だったんだけどなぁ」
「瑞希。隠し事、苦手やから、堪忍したって」
しぃーっと口元に人差し指を当てる白亜に、真桐はほんの数瞬瞬きを忘れて、微笑むと、白亜と同じように、口元に人差し指を当てた。




