7話 推し活のお手伝い(後編)
雑談をしながら、うちわを作り続ければ、糊を乾かしている大量の推しのうちわが、並べられていく。
数が多いが、本当に、全て持っていくのだろうかと、疑問になってくる。
「配信中に、ちょっとしたダンスとかした瞬間に、バズりそうじゃない? よくあるじゃん。そういうショート」
「あるある! てか、前に撮ったじゃん」
「撮った撮った!」
数ヶ月前に流行っていた、ダンス動画の振り付けをしているふたりに、瑞希も遠い目でそれを眺めてしまう。
黒天もダンス動画を上げていないかと言っていたが、ダンス動画を上げるのは、目森たちのような、かわいくて明るいタイプの人がやることで、自分のようなタイプとは、程遠い存在だ。
「瑞希も、今度一緒に撮る?」
「え゛っ!? いや、私はいいよ! そういうのは、本当に!」
目森が振り返ったと思えば、突然誘われるダンスに、瑞希はすぐさま首を横に振り、否定する。
白亜じゃないんだ。ネットに動画を上げるなんて、恥ずかしくてできない。
「でも、ダンスはしてるんでしょ?」
「してないよ!?」
自分の事なのに初耳だと驚けば、目森は不思議そうに首を傾げる。
「神社のお祭りで踊ってるって聞いたんだけどなぁ……」
「神楽の事!?」
確かに、鎹杜神社の祭りなどの時に、神楽を舞うことはある。
それこそ、巫女としての修行と共に、神楽も練習をしている。
しかし、まさか、ダンスと同じ扱いにされていたことには、驚いた。
だが、傍から見れば、音楽に合わせて舞う姿は、ダンスに似ているのかもしれない。実際に、神楽を元にしたダンスなども存在しており、全部が全部、間違っているわけではない。
「そうそう! パパが神社とか寺とか好きでさ、写真とか撮ってるんだけど、瑞希が映ってたからさ」
「あ」
目森の言葉に、先輩のひとりが声をあげると、全員の視線が、その人に集まる。
「あぁ、ごめんごめん。御園生さんって、鎹杜神社の人かと思って」
「え、あぁ、はい。そうです」
地元とはいえ、高校にもなれば、学生の通学地域は広くなる。
そのため、小学生の時ほど、鎹杜神社の子供と言われることは少なくなったが、それでも神社と結び付けられることがないわけではない。
「え!? じゃあ、あれって、習い事の発表とかじゃなくて、ガチな感じ? ガチの巫女さんってこと?」
「一応、そうだね」
『ガチの巫女さん』と言われると、まだ一人前ではない瑞希は、少し肯定しにくいところはある。
しかし、巫女であることに違いはない。
瑞希が目森に頷き返せば、目森の元々大きな目が、なおさら大きくなる。
「じゃあじゃあ! 毎年、踊る感じ!?」
「まぁ……そうだね」
両親から許可が出てからは、必ず祭りで、神楽を舞っている。
今年も体調を崩さない限りは、舞う予定だ。
「今年のお祭り、いつ!?」
「9月の第一週の日曜の予定だよ」
瑞希が答えれば、すぐに何かをスマホに打ち込んでいる目森。
「陽ちゃん?」
「よしっカレンダーに入れた」
「え?」
「バイト先にも、この日は絶対NGで伝えないといけないし」
「えっと、えと……」
これは、絶対に見に来るということだろうか。
どう考えても、そういうことだろう。
「友達のハレ舞台とか、見に行かないわけないじゃん」
「9月の第一週かぁ……遠すぎて、予定が分からん……でも、お祭りは楽しそうだし、私も行こうかな……」
「じゃあ、一緒に回ろー」
「おけおけー」
「えぇ……!?」
スマホに予定を入れているらしい部員たちに、瑞希も困惑したように、キョロキョロと見渡すことしかできなかった。
途中、目の合った先輩たちも、お互いに目を合わせると、久々に行こうかなんて話をしている。
「…………いや、来てくれることは、うれしいんですけどね!?」
大きな有名な神社でもなければ、普段は閑散としている。
混み合うのは、祭りや初詣など、何かのイベントがある時くらいだ。
その時ばかりは、参拝者も増えて、周辺の店も含め、盛り上がる。
それが収益に繋がることもあるし、単純に祭りに来てくれることは嬉しい。
ただ、自分がきっかけということは、少し恥ずかしい部分はあるが。
「ちゃんと練習しないとなぁ……」
普段も手を抜いているわけではないが、知り合いが来るとなると、失敗は絶対に避けなければならない。
幼馴染の真桐が見に来るのとは、また違う緊張感だ。
「撮影は任せて!」
瑞希の複雑な感情など気づいていないのか、目森は、今から楽しみにしているのか、スマホとうちわを構えている。
テンションが、完全に推し活と同じだ。
「……ネットには上げないでね?」
「え゛、ダメ?」
「ダメ」
「はぁい……」
上げるつもりだったのか。と悲しげな表情をしている目森に、瑞希もそっと息を漏らす。
目森に、悪気というものは一切感じない。
純粋に、瑞希を応援しようとした結果なのだろう。
これと似たようなことに、巻き込まれている有名な使い魔たちの事を考えれば、認識阻害の術が新たに研究される意味も、理解できた瑞希だった。




