25話 異文化交流って大変!(後編)
これはもう、瑞希に連絡して、妖怪的常識を聞いた方が早いかもしれない。
目森が諦めて、携帯を取り出した時だ。
「ふぅむ……つまり、そのお金が必要ということですよね?」
「え、あ、うん。そうだよ?」
どうやら、パパタヌキの方には、少しは意味が伝わったのか、目森も、瑞希に連絡しようとしていた手を止めて頷く。
「では、そのお金とやらは、どこかでもらえますか? 落ちているのを拾ったことはありますが、どこかで拾えるなら、それに越したことはありません」
「拾えるっていうか、稼ぐっていうか……」
金をどこでもらえるかと言われると、店でバイトをしたり、親の手伝いをしてお小遣いをもらったりというのが浮かぶが、そのどちらも目の前のタヌキたちには、難しい。
そもそも、人間じゃない動物が稼ぐ方法なんてあるのだろうか。
バイトだって、履歴書が必要な場合は多い。日雇いバイトをアプリで探す時は、必要ない時もあるが、それも色々とアプリの方に入力している。
「……あ、そうじゃん、タヌキじゃん」
「はい。タヌキです」
「変化とかできないの? ほら、よく人を騙すていうじゃん」
昔話にも、茶釜に化けたり、人に化けたりして、人を騙している話はある。
妖怪の中でも、キツネとタヌキと言えば、葉っぱを頭に乗せて、色々なものに化ける印象がある。
このタヌキの親子も、妖怪だしできるのではないかと、半ば期待しながら問いかければ、親子はカラカラと笑った。
「できませんよぉ」
「できないんかい!!」
まるで、できるとでも言ってくれる雰囲気かと思っていたが、軽く否定されたことに、つい目森も声を荒げてしまう。
「できませんよぉ? そもそも、術が使える妖怪なんて、本当に少ないんですから……その辺に歩いてるタヌキが、できるわけないじゃないですか」
あっはっはっと無邪気に笑っているタヌキ親子に、目森も自然と頭に手をやっていた。
以前に、瑞希が似たようなポーズを取っていたような気がするが、もしかしたら、妖怪と関わると、いつもこんな感じなのかもしれない。
しかし、これでは問題が解決しない。
タヌキたちにゴミは漁ってほしくないが、金を稼げず買えないなら、たぶんこのタヌキたちは、変わらずゴミを漁る。
もちろん、客の食べ残しを別にするのもなし。
「…………」
妖怪のことだし、瑞希に相談する。
これが一番かと思ったけど、以前の首が無くなって燃えていた妖怪が頭に過る。
妖怪的解決方法に詳しくはないが、アレが一般的な可能性はある。
「うーん……」
別に、目の前でちょこんと、地面に座って、自分を見上げているタヌキ親子に悪気はない。
金を稼げるなら、ゴミを漁らずに買ってくれそうだし、問題は金だ。金。
目森自身も、金銭の余裕は、もちろんない。
あったら、もっと推したちのグッズを買い漁っているし、コラボだって追いかけている。
「人間さん? タヌキたちは、今まで通りで構いませんので、本当にお気になさらず」
「それが一番、困るんだねェ!?」
やっぱり、全く伝わっていない。
目森が、LIMEの画面を開きながら、瑞希に何とメッセージを打ち込むか考えていたところ、ふと思い至ったそれ。
「投げ銭に、インプ……!」
妖怪である白亜も『たぬきつチャンネル』というチャンネルで配信して、多少の収入を得ている。
自分も、何度か少額の投げ銭はしたことがあるし、アレなら、妖怪だろうが稼げる。
「投げ銭? 神社でやってる人間の願掛けの事でしょうか? アレは、近づくと怖い妖怪がいますので、食べ物があるわけでもないですし、近づきたくないのですが……」
神社で池や岩の上などに、大量に小銭が乗っているのは、目森も見たことがある。
どうやら、あの小銭を取ってくると勘違いしているようだ。さすがに、アレを取るのは、罰当たりだ。
ただ、親子揃って、青い顔をして、首を横に振っているのは、以前やったことがあるのだろう。
「違くて、ネットで人気が出ると、お布施をくれる人とがいて、それを投げ銭って言うんだけど……」
「ネット?」
「だよねぇ……」
インターネットや配信が、伝わらないとは思っていたが、やはり、わからないようで首を傾げている。
見せた方が早いだろうかと、配信サイトの動画を見せれば、わかっているのわかっていないのか、よくわからない声を上げている。
「こういうので、踊ったり、歌ったりすると、お金をくれる人がいて……」
これなら、履歴書もいらない。
名案だと思ったが、タヌキが携帯など持っているはずもなく、タヌキが携帯を契約できるはずもない。
「…………」
白亜は、ほとんど人型だし、瑞希の使い魔ということで、許可が出ているのだろう。
「アタシがポンポコアカウント作る?」
それで、目森がタヌキたちに、収入を渡す。
「それなら、なんとか……? そっちもそれでいいなら、だけど」
「お任せください! タヌキは、踊るのも歌うのも、得意なので!」
やる気満々とばかりに、タヌキたちが立ち上がると、腹で音頭を取りながら、二本足で器用にステップを踏んで、踊り出す。
「おぉ……! かわいー! これなら、バズるのでは!?」
目森も、これは人気が出そうだと、携帯を構えた時だ。
店の中から、自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「やっば……バイト中だった……ごめん! 撮影はまたあとで! 明日の放課後とか!」
「えぇ、えぇ、構いませんとも!」
「明日っ明日っ」
「明日、この場所で集合ね!」と慌てた様子で言い残し、目森はタヌキたちを残して、店内に戻っていくのだった。
*****
翌日の昼下がり、タヌキたちは、いそいそと町中で、食べ物を探していた。
「パパ、そろそろ、あの人間との約束の時間?」
「放課後だったか…………ところで、息子よ。放課後っていつだ?」
「知らないよぉ?」
お互いに、”放課後”の時間が分からず、首を傾げてしまう。
「まぁ、今日もあそこに、ご飯をもらいに行くし、その時に聞けばいいな」
「そうだねぇ」
全く理解していない中、お互いに頷き合ったタヌキ親子。
それまで、別の場所で、食べ物を探していようと顔を上げれば、ふと目に入った白い影。
「パパ。見て見て。あそこに、昨日見た狐の人がいるよぉ」
「おぉ……本当だ。でかしたぞ。息子よ。あの妖狐さんなら、”放課後”を知ってるかもしれないな」
聞いてくるから、ここで待ってなさい。と、パパタヌキがゆったりとした足取りで、その白い狐の元に歩いて行った。




