24話 異文化交流って大変!(前編)
鼻歌混じりに、ゴミ袋を裏口に持っていけば、何やらゴミ袋を漁る音。
飲食店のゴミ袋なんて、カラスの格好の的だが、対策のために、蓋のあるケースに保管されている。
もし漁られているとしたら、誰かが蓋を閉め忘れたのだろう。
「もぉ~~……萎える……」
目森は、嫌になりながらもゴミ袋を構えて、ケースのある角を曲がった時だ。
そこには、ケースの蓋に挟まっているタヌキがいた。
「タヌキィ!?」
タヌキの目撃情報がないわけではない。
庭で犬を飼っていれば、犬の餌を平気な顔をして食べているという話があるくらいには、タヌキはポピュラーな存在だ。
だが、ゴミ箱のケースに挟まって、必死に足を動かしているタヌキは、聞いたこともない。
「息子よぉ……どうだぁ?」
「パパの言った通りだよォ。おいしいよォ」
「そうかそうか。パパもすぐ行くからなぁ」
しかも、話している。
「…………」
目森は、じたばたと見事に挟まったままもがくタヌキに近づくと、おもむろに蓋を開けたのだった。
「わっ」
すると、見事にケースの中に落ちて行ったタヌキ。
「おぉ~~よかったよかった。入れたぞぉ」
「パパ、パパ。ここだよ。ここにあるよ」
「おぉ……! これだこれ。赤くて、黄色いお山が書かれた場所には、このうんまいのがあるんだぁ」
ケースの中で、ゴミ袋を破いて、残飯であるハンバーガーやポテトを漁っているタヌキたちに、目森は、一度ケースの蓋を閉じた。
「…………」
これは、おそらく保健所か、何かに連絡する案件だ。
「パパ? なんか、暗くない?」
「蓋が閉まったんだな」
「大丈夫なの?」
「大丈夫さぁ。下から持ち上げると、すぐに開くからなぁ。心配いらない」
「そっか」
ケースの中から、くぐもってはいるが、明らかに目森にも理解できる言語が聞こえている。
いくら何でも、長年、ペットを飼ってきたから、動物の鳴き声が理解できるようになったわけではないはずだ。
うん。さすがにそれはない。
いくら頭が良くなくても、それがありえないことだけは理解できる。
「…………えーっと、もしもーし?」
なら、このタヌキは、妖怪だろうか。
以前、襲ってきた毛むくじゃらとは、雰囲気は違うし、白亜や吽野とも違う。
だが、悪い雰囲気は感じない。
目森は、いつでもケースの扉を閉められるように、少しだけ開けて、中に声をかければ、不思議そうな顔をするタヌキ2匹と目が合った。
「あ、どうも、お邪魔してます」
「お邪魔してまーす」
「あ、はい。えっと、とりあえず、袋、食い破らないでもらえます?」
何から聞くべきかと悩んだ末、どうにか出てきたのは、その言葉だった。
「――実は、タヌキも、これは好物でして」
一先ず、ゴミ箱から出てきてもらえば、相変わらず残飯を齧りながら、パパタヌキの方に答えられてしまう。
「いや、好物とかじゃなくて、ゴミ袋を食い破られると、困るからやめてほしいって話で」
「おいしかったよ!」
「ありがとう! 人のゴミ箱漁らなければ、もっとうれしいかな! 散らかったゴミを、掃除する身にもなって!」
「なるほど……そういうことでしたか。でしたら、食べ物を別にしておいていただければ、破かずに済みますので」
「そういうことじゃなくてね!」
この辺りに置いといていただけると。と、まるで迷惑をかけている自覚なく、話を続けているタヌキに、目森も頭痛がしてくる。
「それは、別のお客さんがお金を払って買ったもので、勝手に食べちゃダメなの。そもそも、食べかけだし」
「あ、タヌキはそういったこと気にしませんので。お構いなく」
「そっちの話はしてないって。こっちの話」
時々、会話のできないクレーマーの対応をすることもあるが、それと似た空気を感じる。
タヌキなだけ、まだマシだけど。
見た目って大事。本当に大事。
「とにかく、もし、ハンバーガーとかポテトが食べたいなら、お金払って」
自分で言いながら、目の前にいるのが、タヌキであることを思い出して、言葉をつけ足す。
「そしたら、ここまで、デリバリーぐらいするし」
むしろ、店内にタヌキが平然と入ってきた方が、他の客に迷惑が掛かる。
裏に、ハンバーガーを置いてたら、びっくりされる気はするけど、その辺は、あとで店長に相談しよう。
人の言葉を話せるタヌキって言っても、頭おかしくなったと言われそうだけど、一度見れば納得してくれるだろう。
「お金?」
「ハンバーガーの料金だよ。セットなら500円」
「ははぁ……なるほど。交換の品というわけですか……タラの芽でいかがでしょう?」
「ダメに決まってるでしょ」
吽野や白亜は、普通に話が通じていたが、もしかして、妖怪というものは、このタヌキたちに近いのだろうか。
話が通じない。
「お金は、お金。こういうの、見たことない?」
試しに、小銭を見せてみれば、二匹とも声を上げた。
「時々、落ちてるやつ!」
「食べられはしませんが、冷たくて、夏にこれを敷き詰めると、気持ちいいんですよ」
「敷き詰めてるなら、それを持ってきてくれれば、少しは何か買えるかもしれないけど」
「今は別にいらないですし」
「あ、うん。ないのね。理解」
話が早いかと思ったら、残念なことに、今はないらしい。
「じゃあ、売れないよ」
「でも、捨ててるじゃないですか」
「捨ててるのは、買われたもので……またループしてる……」
とにかく、ハンバーガー代が必要なことを伝えて、ゴミも漁るなともう一度伝えれば、タヌキの親子は、やはり理解できないようで、首を傾げていた。




