21話 情報が溢れるこの社会では、すぐに上塗りされるようです。(後編)
瑞希は、白亜の尻尾を枕にしながら、SNSを眺めていた。
ここ数日、毎日のように検索している、先週の妖怪騒ぎの件だ。
「最近、減ってきた?」
以前に比べて、明らかに投稿されている量が減っている。
「まぁ、ネットの流行なんて一瞬やからなぁ……一発ネタなんで、一週間持てばええほうやし」
「時代が速すぎてついていけないよ」
「ティーンが何言うとんねん」
白亜が、新しい尻尾を現すと、スマホと瑞希の顔の間に、尻尾を差し込む。
「むにゃ……! 顔じゃなくて、お腹にかけてよ」
「そんなことしたら、寝るやろ」
「寝ないし」
不貞腐れたように、顔にかかった尻尾を掴むと、自分の腹の辺りに乗せて、そのままスマホの画面に視線を戻す。
「そういえば、ウエハース、いっぱいもらってきていい?」
「ウエハース? なんでぇ……?」
「陽がコラボで大量に買ってるんだけど、消費しきれないらしくて、クラスで配っててさ」
「あの子か……イベントにグッズに、何回か投げ銭してきとったはずやけど、懐、温か過ぎひん?」
瑞希と同じ高校生のはずだが、随分と金遣いが荒い。
白亜の配信にも、何回か投げ銭をしていた覚えがある。
高校生らしい、少額ではあるが、無料で見れるし、コメントもつけられるのだから、わざわざ金銭をつける必要はないのだが、つけずにはいられない性格なのだろう。
しかし、考えれば考えるほど、お小遣いだけでは、到底賄いきれない気がする。
「バイト戦士だからねぇ。マッハの黒服だって」
「そら、すごいなぁ」
瑞希の学校が、学費が払えない学生以外、バイト禁止だったはずだが、白亜も口にはしなかった。
「こういうコラボが多いんだってさ」
「んー……あぁ、よく見るなぁ」
昼休みに食べた、Vactorのコラボのウエハースのサイトを見せれば、白亜もページをスクロールしながら、呆れるような声を漏らした。
「これ、第3弾まで決定しとるやん……コンプセットなし……単価が低いとはいえ、スパンも短いし……陽ちゃんは、誰狙いなん?」
「箱推しだから、コンプ狙いだって」
「ご愁傷様」
「諦めないであげて。まぁ、クラスで配ってたけどさ」
そんなにひどいのかと、改めてホームページを眺める。
瑞希も見たことがある人も入っているが、知らない人も入っている。
「白亜は好きな人とかいないのー?」
「僕、あんま見ぃひんよ?」
「配信してるくせに」
配信者やVactorに憧れて始めた、というわけでないのはわかってはいたが、確かに、熱心に何かを見ているのを見かけたことはない。
本当に配信を見かけて、おもしろそうというだけで始めたのだろう。
「仕事にするなら、そういう成功しとる人を研究するってのも大事やろうけど、僕は暇つぶしやし。まぁ、瑞希よりは知っとると思うで?」
「私と比べたって、この東雲朱音とか、真ん中に写ってる人くらいしか知らないんだけど」
「嘘やん。カード一覧の一番上の4人くらい、見たことあらへんの? その辺は、コラボで企画配信とかしとるやん」
確かに、見たことがあるかと言われれば、見たことはある。
ショート動画とかで流れてくるシーンもあるし、おもしろそうだからと、動画も見た覚えもある。
「まぁ、この東雲朱音って人、企業コラボのが多いしな。パッケージでもよぉ見るわ」
「そうなの? 配信とかあんまりしてないんだ」
「あー……んー……配信もしとるんやけど、なんていうか、たぶん、これ、中身が別に有名な人」
「そんなのわかるの?」
「勘やけど」
その勘が、どのくらい正しいかはわからないが、商売繁盛で有名な神社に仕えていた白亜のことだから、大きく外しているとも思えない。
すでに有名なのに、顔と名前を隠して、ネットで配信をする。
白亜のように暇つぶし目的なら、そういうこともあるのかもしれないが、もはや仕事になっている配信者で、ネームバリューというのは、大切なのではないのだろうか。
もしかしたら、中身が有名だからこそ、中身を知っている企業からは、『案件』と呼ばれる公式の企画をしているのかもしれないが。
しかし、知らない人の事をいくら考えたところで、答えが出るはずもなく、瑞希は考えるのをやめると、ふと目の合った逆さまの吽野。
「?」
「ウエハースって明日もらえたりする?」
「え? たぶん……LIMEしたら、明日持ってきてくれると思うよ?」
「じゃあ、お願いしていいかい?」
「うん。わかった」
LIME画面を開いて、目森にウエハースの許可貰ったことを連絡しておく。
いつもならすぐに既読がつくが、今日はバイトだと言っていたから、夜まで連絡が来ないだろう。
「何かに使うの?」
「ティラミスに使おうと思って。ほら、子睦たちも帰ってくるし」
人手の足りていない神社の手伝いのため、出張をしている両親と、それについている使い魔である子睦が、帰ってくる日。
珍しいわけではないけど、その日は必ず、吽野がデザートを作ってくれる。
明後日の夕飯が既に楽しみなりながら、ふと頭に過ったことに、白亜の方に目をやってしまう。
「白亜。配信の事、ちゃんとお母さんたちに言うんだよ」
「もう言っとるやん。まぁ、もう一度伝えるけど……」
別に、白亜の配信が発覚してからも、両親は変なことをしていない限り、放置してていいと言っているが、戻ってくるなら改めて伝えるべきだ。
瑞希が、腹に乗せた尻尾を軽く叩きながら白亜に伝えれば、やり返すように尻尾も瑞希の事を叩き返してきた。
「ついでに、瑞希の配信のコメントも、どれか伝えといたるから」
「だぁぁああ!! それは言わなくていい! 余計なことは言わないの!」
「アダッ!!」
叩き返してくる尻尾を握り返せば、尻尾が逃げるように暴れる。
「引っ張んな! アホ! 抜けたらどうすんねん!」
「偽物の尻尾でしょ!」
「ちょっとは本物やわ! 手触りでわかるやろ!」
「わかるかぁ!!」
「はぁ~~品のない……ほんなら、これなら嫌でもわかるやろ」
突然、大量の尻尾に包まれ、慌てて手足を動かすが、何の手応えもない。
「うわぁぁ……狐につままれる~~吽野、お助けぇ」
「はいはい。じゃあ、ウエハースお願いねー」
白亜の尻尾の中でもがいている瑞希を見捨てて、吽野は戻っていってしまうのだった。
*****
二日後の昼休み。
「――処理に困ったウエハース渡したら、激うまティラミスになって返ってきた」
目森は、瑞希が持ってきたティラミスを口に運んでいた。
吽野が、お礼だと、三人分を別に持たせてくれたのだ。
「申し訳ない気持ちと、月見さんお手製じゃんっていう気持ちと、普通においしい気持ち……どうしよ」
「えーっと、吽野は気にしてないから……喜んでたって伝えておくね」
「うん。よろし――きつねさんのところにDMすれば届く? あ、いや、さすがにそれはリアルと混ざり過ぎか……じゃあ、よろしく。免疫できたら、ちゃんと伝えに行くから」
ところどころ、よくわからない言葉が出てきてたが、きっとわからなくていいことだと、瑞希もあえて触れなかった。
「それにしてもさー普通に羨ましくね? モフモフな上に、激うま料理まで作れる……これは本格的に、ズッ友探しの旅に出る必要が」
「気持ちはすごくわかる」
「波奈まで……」
「まぁ、アタシには、ラグ様がいるんだけどさぁ」
「「ラグ様?」」
不思議そうに首を傾げる瑞希と真桐に、目森は不思議そうな顔をした後に、スマホの画像をひとつ見せてきた。
「うちで飼ってる猫」
そこには、おそらく目森のベッドであろう場所を、我が物顔で寝転んでいる、大型の猫が映っていた。




