19話 Vだと思ってた推しが、現実として目の前にいる件。しかも、友達の使い魔でした(後編)
その数分前のこと。
山の奥で、ふらつくように、しかし木々に体を叩きつけるように暴れる毛むくじゃらの妖怪がいた。
その様子は、苦しんでいるようで、震えた呻き声を絶えず、上げている。
「ようやく見つけたと思ったら、終わってるじゃないか」
揺れる木の上に、足をかけ、その妖怪を見下ろした黒天は、心底疲れたようにため息をついた。
黒天が見守る中、妖怪の体を、青い炎が覆い尽くした。
黒天は、何もしていない。
あの青い炎は、別の場所から、あの妖怪の魂を辿って放たれたものだ。
「ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛――ッッ!!」
大方、呪いなどの術が得意な性悪狐の前に、大きな忘れ物でもしてきてしまったのだろう。
苦し気な悲鳴を上げながら、青い炎に身を焼かれる妖怪は、徐々に黒い塊に変わっていく。
あそこまで内部から焼かれれば、助からない。
「…………」
その様子をつまらなさそうに、膝に肘をついたまま眺めていた黒天だったが、ふと聞こえた騒がしい声に、先程以上にめんどくさそうな表情で、上を見上げた。
「ノジャクー! そうだ! そのままゆっくり足を下して――」
「兄者! 手、離さないで――あ」
木の上に引っかかっていたらしい小鬼たちが、黒天の視界いっぱいに広がってくる。
「……」
小鬼たちが黒天の顔面に落ちてくる前に、黒天は、そのふたりを叩き落とせば、そのまま地面にまで落ちて行った。
「大丈夫かァ!? ノジャクゥ!」
「だ、大丈夫に決まって……あ! 烏天狗様!」
関わりたくねェ……
黒天の心は、完全にそう思っていたが、全身を使って手を振っている小鬼たちに、黒天はひとつ息を吐き出すと、ふたりの前に下りるのだった。
「さっき、美人局の姉者がいて!」
「美人局? 誰――」
誰の事だと言いかけて、すぐに『美人局→詐欺→性悪狐→巻き込まれ娘』の流れが浮かんでしまった。
「あ゛ーー……」
「イタッ」
軽く黒天が、ノジャクに手刀を落とす。
「美人局って言われて喜ぶのは、狐連中くらいだ。やめろ」
「うぅ……」
「だ、だから言ってるだろ……九尾様にもまた怒られるぞ」
叩かれた頭を撫でながら、頷くノジャクに、黒天も何度目かのため息を吐くのだった。
*****
「Vだと思ってた推しが、現実として目の前にいる件。しかも、友達の使い魔でした……ふふ……なんか、ラノベのタイトルっぽくね?」
「元気出てきたなら、早く帰ろうよ」
自分で言ったことで笑っている目森に、辛辣すぎる真桐の言葉が突き刺さる。
「待って待って! まだ隣歩くとか無理だから! 3m! 3mくらい、距離いる!」
「だって。白亜、離れて歩いてあげてよ」
「そういう問題やないやろ……」
しかし、時間的にも、そろそろ山を下り始めたいのは事実だ。
瑞希たちも、暇つぶしに食べていたおかしをしまうと、立ち上がる。
「でも、つまりだよ? 瑞希、身内を推してたってこと?」
「だから、推してないって……配信は見てたけど」
「あんなに顔がいいのに!? 推してないの!?」
「小さい時からいるんだから、顔が良いも何もないって!」
騒がしく話しながら、前を歩いている目森と瑞希に、真桐は困った様子で、後ろを歩く白亜と吽野の様子を伺う。
先程から、目森にバレたところで、気にした様子はなかったが、今も変わらず、いつもと変わらない表情のままだ。
「でもさ! 耳とか、尻尾とか! モフモフ祭りじゃん!? モフモフ祭りじゃん!? モフりたいとかないの!?」
「モフりたいと、それって関係あるの……?」
「関係あるでしょ!! 顔も良くて、モフもある。つまり最強」
「うん。全然わかんない」
「いけずやねぇ。僕の事、毎夜あないにモフっておいて、そないな言い方……」
「ダメダメダメダメ!! ものすごい誤解を招く発言!!」
着物の裾で、目元を隠しながら、見るもの誰もが騙されない、完璧な嘘泣きを披露する白亜に、瑞希が頬を引きつらせる。
てっきり、空気を読んで、目森との会話には入ってこないと思ったが、あの顔は完全に遊ぶつもりだ。
「わかっとるよ……僕の毛並みがあまりにも魅惑的やから、不可抗力やんな……」
「うん。それは不可抗力。わかるよ。大丈夫」
「ん゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
悪意を持って話題を転がす白亜に、悪意なく妙な方向へ話題を転がす目森に、瑞希はあの毛むくじゃらの妖怪に負けず劣らずの、呻き声を上げるのだった。




