18話 Vだと思ってた推しが、現実として目の前にいる件。しかも、友達の使い魔でした(前編)
瑞希と目森は、吽野の言う通り、崖から離れた場所でふたりのことを待っていた。
墓地周辺には、吽野が結界を張ってくれているようだから、下手に移動するより安全だ。
「あの、さ……ごめんね。こんなことになると思ってなくて」
待っている間、ポツリと目森が溢した言葉に、瑞希は少しだけ言葉に迷った後、頷いた。
「本当にね。心霊スポットって言われてる場所は、こういうことあるんだからね」
「う、うん……今度から、気を付けます……!」
「気を付けるっていうか、行っちゃダメだからね!?」
今回は、吽野がいたから、事なきを得たが、もし、目森だけで来てたらと、想像しては、首を横に振った。
「瑞希は、こういうの慣れてるの?」
「慣れてないよ。うちは、こういう危ない仕事はほとんど受けてないし、するにしても、使い魔だけのことも多いから」
巫女が同行するにしても、瑞希は成人していないからという理由で、紬希から禁止されている。
黒天に、強制的に連行されることは別にして、だ。
「でも、まぁ……初めてではないかな。だから、昔から口酸っぱく言われてることはあるよ」
不思議そうに瑞希を見つめる目森に、瑞希は鼻高々にそれを口にした。
「使い魔の言うことをちゃんと聞く!」
「…………フハッなにそれ、わかりやすー!」
「でしょー」
ようやく少し安心してきたのか、いつもの調子に戻ってきた目森に安心していれば、ふと聞こえた粘着質な音。
それは、目森にも聞こえたのか、ふたりは同時に同じ方向を見て、お互いの腕を掴む。
そこには、先程、吽野たちと共に崖の下に消えたはずの、毛むくじゃらの妖怪が、じっとこちらを見つめていた。
「や、ヤバくない……? 逃げた方が……!」
「大丈夫。ここ、吽野が結界張ってくれてるから。下手に動く方が危ない」
「そ、そうなの……?」
言われてみれば、あの妖怪も、墓地の向こう側から、こちらに近づいてくる様子はない。
瑞希の言う通り、近づけないのかもしれない。
「吽野も動くなって言ってたでしょ」
瑞希の言葉に、目森が何度も頷くと、瑞希もゆっくりと妖怪の方に向き直る。
何かできるわけではないが、恨めしそうに呻いている妖怪から目を逸らしている方が、恐ろしい。
だが、そんな瑞希の態度が気にいらなかったのか、興奮したように両腕を上げ、大きく口を開き、先程以上の嘶きを上げ始める妖怪に、瑞希も目森も小さく肩を震わせる。
「ぅ、うるさいっ! うるさいっっ!! 声のデカさなら、アタシだって負けてないわ!!」
瑞希の手を掴みながら、妖怪と同じくらいの大声で張り合う目森に、瑞希が動揺していれば、また妖怪がその長い毛を大きく震えさせる。
その様子に、瑞希が前のめりになっている目森の肩を掴んだ瞬間だ。
その妖怪の体が、吹き飛び、地面に転がった。
「いくら山やからて、にぎやか過ぎるわ。アホ」
ゴロゴロと転がっていく妖怪に目をやる瑞希と目森は、不思議そうな顔で、先程まで妖怪がいた場所に視線を戻す。
そこには、呆れた様子で、ゆっくりと妖怪を蹴り飛ばした足を下している白亜の姿。
「ぇ?」
「あ゛」
「『あ゛』やないわ! この状況で、文句言うたら、張っ倒すからな」
「あ、ハイ」
吽野の結界があるとはいえ、吽野と逸れ、妖怪に襲われている状況で、助けに来てくれた白亜に、文句が言えるはずがない。
苛立った様子の白亜から顔を逸らす瑞希に、白亜も露骨にため息をつくと、妖怪の方へ視線を戻した。
四つん這いになりながら、敵意剥き出しと言った様子で、白亜たちを睨んでいた。
「おやまぁ……ややこがかわいらしなぁ」
白亜が一歩近づけば、妖怪は腰を低く落とし、睨み上げる。
「大方、瑞希の匂いに釣られたんやろ。大きな目されはっとるのに、えろう鼻がええんやね」
微笑みこそ携えたまま、その切れ長の目は、静かにその妖怪を見下していた。
「瑞希ィーそのお友達の目、塞いどいたり。JKには刺激が強いさかい、セルフレイティングや」
刀を取り出した白亜に、瑞希はすぐに呆けている目森の目を塞ぐ。
直後、妖怪の首は飛んだ。
「――正直、予想はしてた」
戻ってきた真桐が、瑞希と共にいた白亜を見て、ついそう言葉を溢してしまった。
後ろで、青い炎となって燃えているのは、先程の妖怪だろう。
自分たちを襲った後に、先に戻ってきては、瑞希たちを襲おうとしたところ、白亜が止めた。そんなところだろうか。
「えーっと、それで、陽は?」
妙に静かな目森に目をやれば、顔を覆ったまま、ピクリともしていない。
「それが、さっきからこんな様子で……」
「あらま……ボクの時は、もっといい反応してたのに。白亜より、ボクの方がよかった?」
「そ゛、じゃな゛、て……!!」
「あ、反応した」
吽野の言葉に、絞り出した言葉を上げながら、顔を上げる目森だが、白亜と目が合うと、すぐに目を口を閉じては、また両手で顔を覆った。
「~~~~~~っ!!!!」
もはや、声になっていない声を上げながら、すぐに瑞希の方へ顔を向けては、顔を背け、真桐の元に駆け寄ると、その腕を掴む。
「え、私?」
驚く真桐に頷くと、目森は少し離れたところに、真桐の腕を引いて連れて行くと、三人に向かって、手で『T』を作ると、三人に背を向けるのだった。
そんな様子を楽し気に見つめる吽野と、めんどくさそうに耳を垂れさせている白亜。
「限界オタクかいな……」
「だから、白亜来ないでって言ったのに……」
「状況的にしゃぁなかったやろ」
「そうかい? あのレベルの妖怪が破れる結界じゃなかったんだけどなぁ」
「…………」
ニヤニヤと白亜に目をやる吽野に、白亜は静かに視線を逸らした。
「……そっちも、一体逃がしたやろ」
「白亜が一緒に燃やしたんだから、いいじゃない」
「待って待って。さらっと何言ってるの。もう一体いたの?」
頭上で静かに交わされる言葉に、瑞希は慌てたように会話に入れば、頭に乗せられる白亜の手。
「もう一体というより、半身や。時々いるやろ、分裂するやつ。それやそれ」
稀に、自分の体を分けることのできる妖怪がいる。
単純に増えたり、分身として操るためだったりと、分裂にも種類はあるが、今回は単純に体と魂を分けるタイプだった。
「魂なんて、手垢や髪どころの騒ぎやないからなぁ」
何でも無さそうに、瑞希の頭を軽く叩く白亜に、呆れるような、安心したような、何とも複雑な表情をする瑞希だった。




