15話 節度を持った面食いです。(後編)
「はぁ…………超、満足……」
「ご満足頂いたついでに、このまま、今日は神社でお茶するってのもありじゃないかな?」
「えぇっとぉぉ……どうしよう……迷う……迷う、けど……くゅぅぅぅ……!!」
「水羊羹もあるし……あぁ、そうだ。ボクの他にも、使い魔がいるよ」
「う゛ぉ゛ばぁ゛……ぅ゛、ぐぅ゛……」
尻尾を揺らしながら、目森に問いかける吽野に、もう奇声以外発していない目森に、瑞希と真桐は、とても遠い目をしていた。
「陽って、普段からテンション高いなーって思ってたんだけどさ、アレでも、相当抑えてたんだね」
「みたいだね。吽野さん、サラッと流してるけど、すごくない?」
「うん。すごい。いや、本当にすごい」
どれだけ長く生きれば、あの興奮した様子の目森の対応を、平然とこなせるのか。
少なくとも、瑞希にはあと数十年生きた程度では、できそうにない。
その興奮している目森はといえば、とても迷うような仕草で、目を閉じると、ゆっくりと首を横に振った。
「今日、は! 瑞希と波奈と、青空日中肝試しの約束、だし……!! 女に、二言は、ねェ……!!」
「あってもいいよー」
「全然予定変更でもいいよー」
「肝試しピクニックの約束したじゃん!! 楽しみにしてたのぉ!!」
ダメか。と、真桐と瑞希は、苦笑いになりながら、吽野へ目をやれば、少しばかり残念そうだったが、小さく頷かれた。
「あれ? 吽野さん、草履? 運動靴じゃなくて平気です? アタシ、ZYXのクーポンありますけど、使います?」
これから行く場所は、車の通ることのできる道こそあるが、アスファルトで舗装されているわけではない山道だ。
目森が、吽野の足元が、草履であることに気が付くと、心配そうにスマホを見せるが、吽野は首を横に振った。
「平気だよ。気遣ってくれてありがとうね。昔から、これでね。これが一番、歩き慣れてるのよ」
「そうなんですねぇ……わか――くは無さそうですけど、何歳なんです?」
「ひみつーま、実際、長く生きてて、歳わからないんだけどねぇ。ミステリアスでいいでしょ?」
「すごくいいと思います」
先程の酷い興奮状態ではなく、少なくとも学校で見かける程度の興奮状態には、落ち着いたのかと、瑞希たちも安心しながら、山道を歩く。
昼間ということもあるからか、動画のような不気味さはない。
「神社には、使い魔がいる……リアル、V……リアル神じゃん……推さねば……」
前を歩く、目森の影響も多大にありそうだが。
「どこにでも、使い魔がいるわけじゃないけどね……」
神社の跡取りそのものがいなければ、使い魔たちを管理できる人がいないのだから、自然と使い魔はいなくなる。
実際のところ、その神社を管理している、別の神社の使い魔がいたり、正式な使い魔として登録されていない、長年仕えていた使い魔が残っていたりすることはある。
ただ、後者の場合は、正式な扱いとしては、ただの神社を住処にしている、妖怪ということになる。
「そうなのー? おっきいところとかだけ?」
「大きいところは、いることが多いかな。表に出てこないこともあるけど」
「えーなんで? これこそ、崇め奉るべきでは?」
「陽みたいなのがいるからでしょ」
「ちゃんとルールは守るよ!! 写真撮影も触るのも、ちゃんと仲良くなって、許可取ってからでしょ! 大丈夫! 通う! 文通もする! スパチャは賽銭!?」
「本当に熱意がすごい……」
Vactorを推すために、バイトをしては、ライブやイベントがあれば、参加している目森の行動力には、本当に目を見張るものがある。
「うちのパパ、御朱印集め趣味なんだけど、これはもう、相乗りするっきゃないなっ……!」
「ほどほどにね」
悪意があるわけではないし、先程のような、傍目に見て引いてしまうような興奮状態にさえならなければ、使い魔たちもきっと気にしないだろう。
伊達に、長生きしているわけではない。短気に、参拝に来た人に、怒るようなことはしないはずだ。
「そういえば、吽野さんみたいな使い魔がいるってことは、本当に幽霊がいてもおかしくなくね? ってことは、ガチスポットの可能性ある?」
ふと、目森が口にした言葉に、吽野を含めた全員が、眉を下げながら笑みを作った。
「だから、吽野についてきてもらったんだよ……?」
「あっ、理解」
確かに、最近は、使い魔の存在を知ってる人は少なくなってきた。
使い魔のいる神社に足しげく通うような人であれば、その存在は当たり前のように知っているが、基本的に、メディアにも積極的に公開しないため、その存在は有名ではない。
そのため、幽霊や妖怪と同じように、存在しないものとして扱われることも多い。
「まぁ、この辺は人通りも少なってるからねぇ。妖怪たちも、ずいぶん増えてそうだし、ヤンチャなのも増えてるかもねぇ」
色々事件があってからは、黒天が見て回っているようだが、相変わらず尻尾は掴めないらしい。
「じゃあ、ガチかもしれないんだ……」
ようやく、以前まで自分が言っていた言葉の危険さを理解したのか、目森が小さく納得したような声を漏らしているが、すぐに怪訝そうな表情に変わる。
「あ、でも、妖怪とか幽霊って、昼間にも行動するんですか?」
「するねぇ。ボクもそうだし」
「吽野さんは、使い魔なんじゃ……」
「使い魔ってのは、妖怪が『この人に仕えてます』って国に書類を提出してるだけだから、種族的には”妖怪”だよ」
その吽野の言葉に、目森は目を丸くしたまま、瑞希の方へ顔を向ける。
その目は、本当かと、言葉なく問いかけていた。
「あ、うん。役所に届け出を出してるね」
「つまり、アタシも、妖怪のお友達ができたら、ズッ友に、できる……?」
「うん。まぁ、一応、ね……?」
「危ないから、ひとりで妖怪には会わないようにしてね?」という、瑞希の切実な願いは、半分ほど聞こえていなさそうだった。




