13話 肝試し配信って人気だよね(後編)
「マジ、ありえないんだけど……昼休みくらい、返してくれてよくない?」
弁当をつつきながら、不貞腐れている目森に、真桐も苦笑いしか返せなかった。
そもそも、スマホを使っていい授業以外では、スマホの使用が禁止されているのだから、昼休みに返してもらえるはずがない。
「でもさぁ……もっと、見せたい動画あったのに」
「あの人の後に肝試し来た人の?」
「そうそう。なんか、妙に大きな鳥がいたり、突然声が聞こえたりとかしてる動画があって」
「大きな鳥に声? 普通に、鳥と誰かいたんじゃないの?」
「だから、見た方が分かりやすいって!」
「じゃあ、私ので見る?」
瑞希がスマホを差し出せば、真桐が少しだけ珍しそうに瑞希へ目をやる。
家が神社ということもあってか、肝試しなどのことに関して、瑞希は関わりたがらない。
ただの噂だったとしても、本当だったとしても、いいことがないからだ。
「……いいの?」
「一応、見ておこうかなって」
こっそり瑞希に確認する真桐に、瑞希も小さく頷く。
小鬼たちや黒天の話もあるし、もし、本当に何かあるなら、黒天にも知らせる必要がある。
そのためにも、一度、動画は見ておきたかった。
瑞希と真桐が見つめる中、目森が再生した動画の内容は、おおむね、似たような内容だった。
いや、下手すると、最初の配信が、一番状況がわかるかもしれない。
「怒鳴り声が聞こえてきて、すぐに配信が終わるのはなくない?」
「んーこれは、マジでないけど、この人のが一番はっきり聞こえてるんだよ。この謎の声。それっぽい報告も結構あるんだけど、音声は取れてないのも多くて」
「あと、この影? 普通に、木の枝と合わさって、大きく見えてるだけじゃない?」
「いやいや! この辺も翼だって! これ、明るくした加工画像!」
「画質粗……」
見せられた配信の切り取りの画像は、無理矢理明るくしたからか、画質が粗い。
だが、枝の先に鳥の翼が重なったにしては、翼の根本あたりに、鳥の体がないことだけはわかる。
「ね! ね! だから、いこうよ!」
「なおさら、ダメじゃない? 危ないって」
「そうだよ……変なのに取り憑かれちゃったら、どうするの……」
「瑞希の神社にいくね」
「そもそも、そういう危ないところに行かないでほしいんだけど?」
聞く耳を持っていない目森に、瑞希は大きくため息をつくしかない。
白亜たちが腹を立てている理由は、きっとこういうことなのだろう。いや、きっとこれよりひどいのだろう。
友達ですら、これだけの疲労感があるのだから、見ず知らずの人で、遠慮もなく騒がれたら、嫌にもなる。
「わかったよ……ひとりで行くって」
「だから、行くなって言ってるの!」
本当に、聞く耳を持ってないと、瑞希がつい声を荒げてしまうが、目森は不貞腐れたように、頬を膨らませている。
「でも、めっちゃ気になるしぃ。バイト先の近くだから、帰りにちょろっと寄るだけだしぃ」
「だっ……!! だか、だァ……!! もうわかったよ! 一緒に行くよ!」
「え? マジ?」
「瑞希!?」
瑞希の言葉に、目を輝かせる目森と、驚いたように目を丸くする真桐に、瑞希も一瞬、バツの悪そうに視線を逸らしたが、覚悟を決めたように目森をまっすぐ見つめる。
「日曜日のお昼! それまでは絶対に近づかない! それを約束してくれるなら、いいよ」
「ホント? マジで!? オッケー! 約束するする!」
それはもう嬉しそうに頷く目森とは正反対に、真桐は困惑したように瑞希の事を見つめていた。
「い、いいの? 本当に? 怒られない?」
「でも、陽になにかあってもイヤだし……誰か一緒に来てくれるか、聞いてみるよ……」
小言を言われるのは仕方ないが、友達の身に何かある方が、もっとイヤだ。
「誰か一緒に来るの?」
「あぁ、うん。うちの使い魔の誰か、来てくれそうな人に頼んでみるね」
「使い、魔……? なにそれ、めっちゃ巫女じゃん!! ウッハー!! そっちも楽しみィ!!」
興奮した様子の目森に、瑞希は何とも微妙な表情をしてしまう。
目森に教えてもらった動画にはなかったが、山で迷子になったり、滑落したりという話があるなら、ひとりで行かせる方が危ない。
それは理解しているが、なんとも気の重い話には、違いなかった。
「――というわけで、吽野。ついてきてくれない?」
家に帰って早々、吽野と白亜に事情を説明すれば、ふたりとも、表情は優れなかった。
「頭はええ子やないとは思うとったけど……アホやったんやな」
白亜の珍しく直接的な物言いに、瑞希も呻いてしまう。
「まぁまぁ。その陽ちゃんって子が、ひとりで行くくらいなら、良かったんじゃないかい? ボクでいいなら、ついていくし」
不機嫌そうな白亜を抑えるように、フォローしてくれる吽野に、瑞希も安心したように、表情を緩めれば、白亜の吊り目が、より吊り上がる。
「てか、なんで、吽野やねん。僕でもええやん」
白亜の言う通り、吽野は、鎹杜神社に古くから仕えている使い魔で、その実力は折り紙付きだ。
しかし、最近は、実務的な仕事はほとんど、白亜に任せていて、本人曰く、半隠居生活みたいなものを楽しんでいるらしい。
もちろん、瑞希もそのことは知っているし、いつもなら、文句を言いながらも付き合ってくれる白亜にお願いすることが多い。
だが、今回は、白亜ではダメなのだ。
「黒天と喧嘩するからじゃない?」
「別に、喧嘩しとらんし。瑞希の友達おる前で、そんな大人げないことせぇへんわ」
「…………」
するでしょ。と、無言の笑みを向ける吽野に、白亜は少しだけ顔を逸らす。
「てか、暇なんやし、ふたりで行けばええやん」
「それは、まぁ、確かに。そこまで必要とは思えないけどね」
既に、黒天が調査しているし、追加で使い魔がふたりいるほどの緊急事態とは思えないが、別の大きな事件が起きてないことも事実。
吽野と白亜のふたりが、護衛として、瑞希たちについていっても、問題はない。
めんどくさいことわかっていながらも、なんだかんだ付き合ってくれるふたりに、瑞希は、少しだけ良心を痛めながら、声をあげる。
「え゛ー……あのー……」
言わなければいけない。
本当に、本当に、申し訳ないとは思っているが、言わなければ。
「いや、その、えっと……そのぉ……」
ふたりの不思議そうな視線に、本当に良心がチクチクと痛む。
「白亜のファンの子、なんです」
どうにか絞り出した言葉の後、瑞希はしばらく、気まず過ぎて、顔をあげられなかった。




