11話 バカだからで許してくれるのは、相手が優しいからやで?(後編)
「それで、どうなんや? 相変わらず、変なことしとる奴、おるん?」
「なんで、お前みたいな化けぎつ……狐? きゅ、九尾様……!?」
子分らしき小鬼の方は、最初に噛みつかなければ気が済まないのか、白亜の事を勢いよく指さしては、徐々に表情を歪めていった。
「え、えぇぇえ!? ま、まさか、人間……美人局……!?」
「せめて、妖婦か、魔性の女にせえよ……」
「どっちも違うし、ひどいからね……? 怒るよ。白亜」
「なんで、僕だけ? 元はといえば、そっちの小鬼やん」
「そうだぞ! 怒られるんだぞー!」
いつものように、興味無さげな飄々とした態度をしていた白亜だったが、あまりにテキトウ過ぎる相槌を打つ小鬼に、一瞬表情が固まる。
「お身内が愉快な人ばかりやと、他の人と話す時に、苦労しそうやねぇ」
「兄者は最高におもしろいからな! それに比べれば、他の人間なんて、ちんけなもんよ!」
「アカンわ……煽りも通じんほどのバカやと、もう直接バカって言うしかなくなるわ」
「白亜? 白亜さん? どうどう……」
普段、伝わりにくい嫌味を息をするように吐き出す白亜が、微笑みすらなく、直接的な言葉を口にする様子に、瑞希が慌てて、抑えるように手を動かす。
半分冗談ではあるのだろうが、半分だとしても、この小鬼たちにとっては、脅威に違いない。
その証拠に、先程から、兄者と呼ばれる小鬼の方が、何も発言をしていない。
黒天の時ですら、ひとまず話していた小鬼がだ。
「というか、君もだよ!? 九尾様って言ってたのに、なんで白亜の事、煽るの!?」
「煽る? 煽ってないぞ? 何言ってるんだ? 人間」
「……」
「やめとき。その手のタイプに、会話しても無駄やて」
ため息交じりに白亜が答えれば、その指を小鬼に向けると、その指に沿って、小鬼が宙に浮かび上がる。
「ワワワッ……!!」
「ノ、ノジャクゥ……!!」
慌てたように声を上げるノジャクと、必死に手を伸ばしては、一緒に宙に浮かぶ兄者。
「性悪狐! 玉藻前! だっ――むぎゅっ」
「もうやめとけ! 九尾様をこれ以上怒らせるな!」
「愉快愉快」
慌ててノジャクの口を塞ぐ兄者に、白亜もカラカラと嗤っていた。
白亜が嗤いながら、指を動かすたび、小鬼たちは宙を舞っては、悲鳴を上げている。
黒天とはまた違う意味で、ひどい状況だ。
「もーー!! ストップ!!」
瑞希は、頬を引きつらせながらも、その小鬼たちを抱きしめるように捕まえると、白亜の方へ向き直る。
「なんや。まだまだ序の口やん。瑞希も好きやったろ? ちっこい時、これすると喜んでたやん」
「私の時より、だいぶ悪意あるけど!?」
「美人局……すげぇ……」
「……」
腕の中から聞こえてきたノジャクの声に、そっと視線を落とせば、兄者が必死に首を横に振っては、謝るように頭を下げていた。
「――あぁ、神社に黒天がいなかったんだ。それでこっちに」
どうやら、裏山から神社への道を間違えたわけではなく、本当に別の場所に向かっていたらしい。
さすがに小鬼とはいえ、そこまで頭が悪いというわけではないらしく、瑞希も静かに安心するように表情を緩めていた。
「なんか、向こうのトンネルで、騒いでる奴らがいるとかでな。オレらも、そっちに行けって言われてるんだ」
「あぁ……ちょこちょこ事故が起きとるとこか」
白亜が言うには、ここ最近、夜の山で迷子になったり、猪に襲われたり、滑落したりと、何かと事故が起きているらしく、警察からも見回りの手伝いを頼まれているらしい。
警察も、見回りを強化しているが、夜の山の中となると、安全対策の規定が厳しく、その辺りの規定が存在しない、人間ではない使い魔たちに声が掛かることがある。
理由を聞けば、彼らもイヤな顔をするが、夜の山の見回りそのものは、嫌がる使い魔たちは少ない。
「でも、あそこって、昔のお墓がいくつかあるだけだよね?」
「せやね。今は、お参りに行く人も減って、雰囲気あるなぁ」
”雰囲気がある”という白亜の言葉に、瑞希も、白亜の言いたいことの意味が分かり、苦笑いを零してしまう。
「肝試し的なアレ」
『正解』とばかりに、こちらを指さす白亜に、瑞希もついため息が漏れてしまう。
「そもそも、夜の山に入ろうってよく思えるよね」
「しかも慣れてへんくせにな。そら、迷って、落ちるわ。懐中電灯一本で、どうにかなるわけないやん」
その山に慣れている人だって、好んで夜の山には入らないし、どうしても入らないといけない事情ができたとしても、やはり、慣れた獣道から外れるようなことはしない。
だというのに、慣れていない人ほど、怖いもの知らずで、突き進んでいくことが多いこと。
「下手に都会が近いでせいで、ノリと勢いで来る奴も多いんやろ。サンダルに短パンとかもおるしな」
「それって、携帯失くしたって騒いでた人?」
「アイツだけやないけどな」
うすら寒さを感じる白亜の雰囲気に、小鬼たちが全身を震わせ、瑞希の裾を掴んでいる。
黒天だけではなく、白亜を含めた使い魔たちは、本当に、他人の迷惑を考えないオカルトブームや肝試しをする人たちを、相当嫌っている。
以前、黒天から聞いた、白亜の迷惑をかけてきた人にした、何かについて問い詰めようとして、吽野へ頼んだ時ですら、やんわりと断られた。
あの吽野が黙認しようとする辺り、相当腹立たしいのだろう。
彼らにばかり、そのようなことをさせるのは申し訳なく、瑞希や紬希が、手伝おうと申し出たことがあった。
だが、ものすごい勢いで拒否された。それはもう、笑顔の圧がすごかった。
「ま、今のところ、黒天がどうにかやっとるみたいやし、僕の方まで話は来ないやろ」
「え、ひとりは大変でしょ。白亜、ちゃんと手伝いなよ。黒天になるよ」
「僕の鼻の高さは上品やろ。一緒にせんといて」
拗ねるように耳を立てている白亜に、瑞希も白亜を窘めるように、視線を向けるが、ふと感じる裾が引っ張られる感覚に、小鬼たちへ視線を落とす。
「姉者! 烏天狗様には、オレらがついてるから、心配するな!」
「アイツら、オレ様の声にビビって逃げる連中だからな! 心配いらねェ!!」
「心強い子らもおるし、僕の微々たる助力なんていらへんやろ。なぁ?」
「心強い……!」
「九尾様が、オレ様たちを、心強いって……!」
「ん~~? なに言うてるん? ちゃぁんと任せた仕事できとる子らを、バカにするほど僕は心狭ないで」
胡散臭い白亜の笑みに、目を輝かせて喜んでいる小鬼たちに、瑞希はただ一人、ひどいものを見る目で、白亜を見つめる。
だが、少しだけ向けられた視線は、「何か問題でも?」と全く気にも留めていないというものだった。
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そんな話をした翌日の事。
「肝試し行こー!!」
目森から差し出されたスマホの画面に写っていたのは、小鬼たちから聞いたトンネルのある山だった。




