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夜鳴村  作者: ゆらら
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第三話 ──祈る村

山を抜けると、霧の向こうに村が見えた。

茅葺き屋根の家がぽつぽつと並び、川沿いには古びた鳥居がひとつ。

まるで時間が止まったように、すべてが静止している。


紗夜は車を降り、深く息を吸った。

土の匂い。湿った風。

どこかで水車の回る音がする。


「……人、いないのか?」


そう呟いたとき、背後から声がした。


「よそ者は、珍しいですねぇ」


振り返ると、杖をついた老女が立っていた。

背は低く、背中が大きく曲がっている。

だが、その目だけは異様に澄んでいて、笑っているのか見つめているのか判別できなかった。


「村に何か御用で?」

「少し、人を探していて。夜鳴村に来たって話を聞きまして」

「……ああ、そうですか」


老女は微笑んだ。その笑顔は穏やかだが、どこか“作られた”ように感じた。


「この村はね、みんな祈って生きてるんですよ」

「祈る?」

「ええ、夜になるとね。村の神様に。……“声”を、捧げるの」


紗夜は眉をひそめたが、老女はそれ以上話そうとせず、ゆっくりと去っていった。


その背中を見送りながら、紗夜の胸の奥に冷たいものが沈んでいく。


村の中心に向かって歩くと、木造の大きな家が見えた。

軒先には古びた紙灯籠が吊られ、朱色の紐が風に揺れている。


「九条紗夜さんですね?」


声をかけてきたのは五十代ほどの男。和装に羽織を着ており、どこか格式を感じさせた。

「村長の宮原です。遠いところをようこそ」


「こちらの方に、一週間ほど前に女性が滞在していたはずなんですが」

紗夜がそう切り出すと、宮原は一瞬だけ目を細めた。


「……さあ、村にそんな人が来たという話は聞いておりませんが」


その言葉は、妙に間があった。

紗夜はそれを聞き逃さなかった。


「そうですか。何か思い出したら教えてください」

「ええ、もちろん」


宮原は笑みを浮かべた。その笑顔は丁寧だが、冷たかった。


紗夜はそのまま宿屋に案内され、簡素な部屋に通された。

障子の隙間から、夕暮れの赤が差し込む。

遠くで太鼓の音がした。


どん、どん、どん……


同じ間隔で繰り返される音。

村の誰かが儀式の準備でもしているのか――。


「まさか……本当に“祈り”の儀式なんてあるのか?」


紗夜は窓の外を見つめた。

霧の中で、村の人々が列をなし、鳥居の方へと歩いていく。


手には蝋燭。

口は動かない。


ただ、全員が――“同じ方角”を見ていた。

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