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第二話 ──山を越えて
山道を走る車のエンジン音だけが、沈黙の山に響いていた。
カーナビの地図は途中で灰色になり、現在地の表示が途切れている。
「……ここから先、圏外か」
紗夜は舌打ちし、ハンドルを軽く叩いた。
カーブを抜けた先に、古びた案内板が立っていた。
〈夜鳴村 →〉
文字の一部が風化して消えかかっている。
村に近づくにつれ、空気が重くなるのを感じた。
木々の隙間から見える陽光は薄く、風の音がまるで“声”のように聞こえる。
「……人の気配が、ない」
車を停め、窓を開ける。
遠くで、何かが“鳴いて”いた。
鳥ではない。動物でもない。
どこかで、誰かが低く祈るような声――。
紗夜は無意識に胸ポケットのライターを握りしめた。
あの夜の記憶が、ほんの一瞬だけ蘇る。
雨の音。血の匂い。
そして、誰かの叫び声。
「……落ち着け、九条紗夜」
自分に言い聞かせるように呟き、アクセルを踏み込む。
山を越えた先に、霧に包まれた村の影が見えた。
それが、“夜鳴村”との最初の出会いだった。




