事故
翌朝、結城が教室に入ると、そこはいつもより少しだけざわついた雰囲気に包まれていた。
誰もが声を潜めながらも、その言葉にはどこか興奮が混じっており、漏れ聞こえてくる単語から特定の話題で持ちきりになっているようだ。
結城は隣の席に座る桜に声をかけた。
「朝からずいぶん騒がしいな。なにかあったのか?」
「あ、結城くん。おはよう!なんかね御凪さんがさ、アクプラで事故に遭ったんだって」
「御凪?」
御凪 遥はクラスでもあまり目立たない生徒だ。
いつも大人しく読書をしている印象で、結城もまともに話した記憶がほとんどない。
「うん。それが、昨日の夕方、アクプラのビルで変な事故があったらしくて…なんか、御凪さん、意識が戻らないみたいで…」
「誰もいないはずの場所で?」
結城はアクプラと聞いて『影の画像』のことを思い出した。
放課後、結城が教室を出ようとすると、ちょうど廊下の向こうから呉羽がこちらに向かってくるのが見えた。
「おお、結城! ちょうどいいところで会えた。少し、聞きたいことがあるんだが」
呉羽はそう言うと、いつものようにトレードマークのメガネをクイッと指で押し上げた。
「先日君と話した『影の画像』だが、僕とりんたんで周辺の監視カメラを解析したことによって新たなデータが見つかってね。どうやら、アクプラ周辺で特に集中的に『影』が確認されていることが分かったんだ」
「監視カメラを解析って、それ、違ほ『みなまで言うな、結城氏よ!』」
結城が言いかけるのを遮るように、呉羽はにやりと笑った。
「それはそれとして、なにやら君のクラスの誰かが事故にあったとか、その件について詳しく!」
結城は、朝のクラスの騒ぎが呉羽の耳にも入っていたことに驚きつつ、御凪遥がアクプラで不可解な事故に遭った経緯を簡潔に説明した。
「なるほどね…御凪さんがアクプラで事故に遭ったとは、しかも誰もいないはずの場所で、さらに意識不明となると、これは非常に興味深い状況だね。単なる事故ではなさそうだ。また同じような事故が起こるとも限らんし、僕が事故当日の情報を解析して原因を特定できるよう努めてみるとしよう」
「お、おう。頼りにしてる。それにしても、呉羽は昔から興奮するとめちゃくちゃ早口になるよな…」
呉羽はタブレットを取り出し、アクプラ周辺の地図を表示した。そこに、過去に「影の画像」が撮影されたとされる地点がいくつもマークされている。御凪 遥が倒れていたとされる場所も、そのマークのすぐ近くにあった。