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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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異相交錯 III

 呉羽たちが裏口の鉄扉を潜り、さらに奥の鉄製階段を降りると、異様な圧力が満ち、空気は電気的な唸り音で満たされていた。


 階段の先は、旧研究所の残滓が混入した影響で、通路の幅や高さ、材質が不規則に変化する、歪んだ空間だった。神楽は桜に強くしがみつき、通路を進むたびに苦痛に顔を歪ませる。


(くそ、神楽の様子が限界だ。これ以上は持たない。一刻も早く、装置の中枢を隔離しなければ、全員が危ない)


 呉羽は奥歯を噛み締め、神楽の背を支える桜に無言で頷くと、曲がり角に差し掛かった。その瞬間、通路の壁の質感全体が、一瞬で古いコンクリートから、異様な光沢を持つ黒い金属へと変化した。


「これは……! 残滓の影響では収まらない。法則の具現化か!」


 呉羽が驚愕する間もなく、彼のタブレットのエネルギー波形表示が、ゼロになった。


『マスター!解析不能ですぅ!装置が中枢領域で広範囲の法則を書き換えていますぅ!』


「何だと!?――ぐっ!」


 呉羽の身体が突如、強い重力に押し付けられたかのように地面に伏せられた。ここは、常識的な物理法則が通用しない、中枢領域だった。


 結城は、呉羽たちが地下へと続く通路を発見した後、内部で空間の歪みに抗いながら、階段を探していた。


(ヤバい、身体が重い……くそっ!)


 結城の能力【理法解離】は、ビル全体で拡大する異常な歪みを相殺しようと、無制限に展開し続けていた。限界は近い。彼は激痛に顔を歪ませた。


 その時、彼が立っていた通路の床が、結城の能力による抑止力が一瞬緩んだ隙を突くように、まるで水面のように揺らぎ始めた。


「な、なんだ……?」


 結城の足元の空間の歪みが激しく波打ち、そこから青白い光が溢れ出す。光が収束し、セーラー服姿の少女、野神 若葉が姿を現した。


「……若葉、なのか?」


 結城は驚きと戸惑いを隠せない。彼女の瞳には、以前のような悲しみに加えて、緊迫した意志が宿っていた。


「結城……もう、限界よ。あなたの力が、歪みに引きずり込まれそうになっている。このままでは、皆を無事にしたいというあなたの願いさえ、歪みの力に利用されてしまう」


 若葉は静かに、しかし焦りを含んだ声で告げた。彼女の体は、結城の能力が展開する抑止力に影響されているのか、微かに揺らめいている。


 結城は、能力を能動的に操作できない自分に焦燥感を覚える。


「どうすればいい!?俺には、力を止めることも、調節することもできない!」


「できるわ!あなたは、ただ、この状況を終わらせたいと強く願い、皆を無事にしたいと力を信じるだけ!」


 若葉は一歩、結城へと踏み出した。


「あなたの力を、核が発する『最大の歪み』に一瞬だけ集中させるの。……力を合わせて、核を叩く!」


 結城は、戸惑いを捨て、目の前の少女と仲間を救うことに意識を集中させた。身体に奔る激痛さえも、全てを終わらせるためのエネルギーに変えようとする。


(この歪みを終わらせる……!呉羽も、桜も、神楽も、若葉も……無事でいてくれ!)


 結城の内に秘めた『強い願い』が極限に達した瞬間、彼の無意識の能力【理法解離】が、ビル全体を覆い尽くすほどの最大展開を見せた。


 位相が軋むような大音響と共に、若葉の【位相共鳴】が、その瞬間的な「相殺」の作用を捉え、地下深くの装置の核へ向けて一点集中させる。


 ビル全体を覆っていた空間の唸り音と、歪みの波形が、一瞬で静寂に包まれた。


 能力を連動させた反動で、結城は激しい疲労と痛みに襲われ、その場に崩れ落ちた。若葉は、結城の身体が床に倒れる前に、その肩に手を添える。


「ありがとう、結城。これで少しだけ、時間ができたわ」


 若葉の瞳が悲しみに揺らぐ。


「私の力でも、この歪みの核を永遠には封じ込められない。すぐに空間の異常が再発するわ。あなたたちは……今すぐ、ここから離れて」


 若葉はそう告げると、結城の身体をそっと支え、彼の意識が途切れる直前に、通路の陰へと彼の身体を押し込んだ。そして、彼女自身は光となって、空間の歪みの中へ消えていったのだ。


「結城!」


 その直後、歪みが静まった通路を、呉羽と桜が駆け上がってきた。彼らは、倒れ込んでいる結城を発見する。


「なんてことだ、結城、大丈夫か!?」


 呉羽はすぐさま結城に駆け寄り状態を確認した。桜は神楽を背負ったまま、結城の無事を確かめる。


「呉羽……若葉が……核を止めた……撤退だ」


 結城は掠れた声で離脱を促した。呉羽も、神楽の限界と結城の消耗を見て、即座に撤退を決断する。


「桜さん、神楽を頼みます。結城、肩を貸すぞ」


 呉羽は即座に決断し、結城の肩を支え、桜を伴いビル正面へ急いだ。


 ビル正面へ出ると、道路脇に停車していた黒い調査車両から、五幡 泉が降りてくる。


「呉羽くん。すぐに乗ってください!」

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