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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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旧試験型動力炉研究所 IV

 凄まじい轟音が響き渡り、管制室全体が激しく揺れ始めた。天井のパネルが剥がれ落ち、火花を散らしながら、砕け散ったホログラムディスプレイの破片が降り注ぐ。それは、まるで世界がその完璧な姿を保てなくなり、崩壊していくかのようだった。研究員たちは悲鳴を上げ、我先にと非常口へと殺到する。


 御厨は、その場に立ち尽くしていた。彼の視界は歪み、激しい耳鳴りが響いている。しかし、誰かの悲鳴が、何かを叫ぶ声が聞こえる。それは、時任黎明の声だった。


 御厨は、その声に導かれるように、崩れゆく床を踏みしめ、時任のいる中央コンソールへと向かった。時任は、全身に血を滲ませながら、必死にコンソールを操作しようとしていた。その指は、すでに感覚を失っているかのように震えている。


「黎明くん!やめるんだ!もう手遅れだ!」


 御厨の叫びに、時任は初めて御厨のほうを向いた。彼の瞳は、もはや正常な理性を失っていた。そこにあるのは、自らの完璧な理論が否定されたことへの絶望と、それでもなおそれを証明しようとする狂気だけだった。


「違う…!こんなはずは…!まだやれる…!少しの調整で、すべては元に戻る…!」


「無理だ!コアは臨界点を突破した!磁場の歪みは空間そのものを歪ませている!もう誰にも止められないんだ!」


 御厨は、時任の腕を掴もうとした。しかし、時任はそれを振り払う。


「これは…!この現象は、私の理論が…!すべてを証明する…!」


 時任の言葉に、御厨は全身の血の気が引くのを感じた。時任は、完璧な理論を崩壊させたこの現象を、まだ理解しようと足掻いている。しかし、御厨にはわかっていた。これは、理論の不備ではない。これは、破滅そのものだ。


 その時、管制室の壁が崩れ落ち、外から激しい光が差し込んだ。それは、量子コアの暴走が、研究所内部だけでなく、外の世界にも影響を及ぼし始めていることを示唆していた。


「黎明くん…君の『ノイズ』は、この街を…」


 御厨の言葉は、途中で途切れた。時任の背後にある量子コアが、まるでブラックホールのように光を吸い込み始め、空間そのものがねじ曲がり、引き裂かれていく。御厨の身体が、不可視の力に吸い寄せられるように、時任から引き離された。


 御厨は、引き裂かれる空間の中で、時任が、絶望に満ちた目で、何かを叫んでいるのが見えた。彼の顔は、この世の誰よりも孤独な、哀れな天才の顔だった。時任の体は、引き裂かれる空間の青く美しく輝く光の中に飲み込まれていく。


 御厨は、意識が途絶える直前、自身の体が、不可視の力によってまるで紙のようにねじ曲げられ、放り出されるのを感じた。彼の意識は、激しい衝撃とともに闇に塗りつぶされていった。






 どれほどの時間が経ったのだろうか。


 時任黎明は、瓦礫の山の中に倒れていた。全身は血と煤にまみれ、白衣は無残に引き裂かれている。だが、彼は生きている。


 彼はゆっくりと目を開いた。彼の視界に映るのは、崩壊した研究所の瓦礫だけだった。管制室は跡形もなく消え失せ、かつて量子コアが鎮座していた場所には、光を放つ巨大な、そして不気味な「歪み」の渦だけが残されていた。その渦からは、時折、過去の光景や、あり得ない未来の残滓が、幻影のようにチラついては消えていく。


 時任は、その光景を、ただ茫然と見つめていた。彼の完璧な理論は、すべて間違っていた。彼は、信じていたすべてを失ったのだ。


「…御厨さん…」


 彼は、御厨の名を呟いた。しかし、返事はない。周囲には、すでに誰の気配もなかった。彼は、この惨劇の生き残りとなった。


「馬鹿な…ありえない…」


 時任の口から、掠れた声が漏れた。彼の目に映る歪みの渦は、彼の計算のどこにも存在しなかった。それは、彼の完璧な理論を根底から否定するものだった。


 彼は、瓦礫の上を這い、その歪みの渦に手を伸ばした。それは、熱も冷たさもなく、ただ虚無がそこにあるだけだった。彼は、その虚無の中に、自らの絶望と、人類の不確かな未来を見た。


 この日、若き天才科学者は、すべてを失った。

お付き合いいただきありがとうございました!


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次回もまた、港町でお会いしましょう。

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