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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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少女

 呉羽から共有された情報をもとに、四人は商店街の探索を続けた。路地裏、廃れた喫茶店の前、そして裏手の公園。どの場所も、一見するとただの日常に溶け込んだ風景だ。しかし、彼らの目には、この街に潜む見えない「歪み」が映っていた。


 神楽は目を閉じ、意識を集中させた。彼女の能力【残影観測】は、過去に起きた出来事の痕跡を視る力。しかし、今回の歪みから観測される残滓は、あまりにも鮮明で、生々しいものだった。それは、旧試験型動力炉研究所で起きた悲惨な事故の光景。警報が鳴り響き、人々が悲鳴を上げる、そんな一瞬の断片が次々と神楽の視界に流れ込んでくる。


「…やめて、もう…!」


 神楽が苦しげに顔を歪ませ、その場にうずくまる。結城と桜が心配して駆け寄ろうとした、その瞬間だった。


 突如として、人影が彼らの前に現れた。それは、まるで空気の揺らぎが収束したかのように、ゆっくりと現実の景色に姿を現す。現れたのは、セーラー服の少女だった。その瞳には、強い意志と同時に、深い悲しみが宿っていた。


 少女は、結城の能力に引き寄せられたように、真っ直ぐ彼を見つめた。その視線に、結城は言葉を失う。


「…君は、いったい?」


 結城の問いに、少女は自身の名を告げた。


「私は、野神のがみ 若葉わかば。旧試験型動力炉研究所の事故に巻き込まれ、時間が止まってしまった人間よ。」


 若葉の言葉に、結城たちは驚きを隠せない。彼女は、自身がこのループに巻き込まれていること、そして時間が巻き戻る感覚を覚えていると告げた。若葉は、結城の能力【理法解離】が、彼女の止まった時間にも干渉していることを、直感的に理解していた。


「この現象…。私の時間が止まったあの日から、ずっとこの歪みの中にいたの。でも、あなたが現れてから、この歪みが揺らいでいるのを感じる。あなたの力が、私の時間を、そしてこのループを、一時的に動かせる…そう感じたわ。」


 若葉の言葉は、これまで結城たちを悩ませてきた「歪み」の正体と、自分の能力の役割を結びつける、新たな可能性を示唆するものだった。呉羽はすぐさまタブレットの数値を分析し始めた。


 結城は、呉羽と若葉の言葉を頭の中で整理する。呉羽は、凛が特定した特異地点のデータと、結城の能力から発せられる微細な波動データを重ね合わせ、凛が膨大な情報と照合していく。すると、ある仮説が導き出された。


「結城、君の能力は、このループの『理法』に干渉している。そして若葉さんの時間もまた、その歪みの中に閉じ込められている。つまり、君の能力が放つ波動を、ループの『特異点』へと向けることで、一時的にループを融解させる可能性がある。」


 呉羽の言葉と若葉の証言が、結城の脳内で一つの結論へと収束していく。自分の能力が、このループを構築する「理法」そのものを一時的に解離させる鍵だと理解する。


 結城は、深く息を吸い込む。

 彼は両の拳を固く握りしめ、自分を取り巻く歪んだ空気に、真っ直ぐに意識を向けた。


「私を止まった時から開放して、あなた達なら…きっと……」


 若葉の切なる願いのような言葉が、歪んだ空間に静かに響き渡る。その言葉に応えるように、結城の内に秘めた『想い』が、彼自身の力と共鳴した瞬間、周囲の風景が再び歪み始める。しかし、今回は違った。風景は溶けていき、再構築されることなく、そのまま消えていったのだ。


 結城は、一時的にではあるが、ループを破ることに成功した。彼の心には、大きな戸惑いが広がっていた。


「俺の能力は……一体、何なんだ……。」


 それは、初めて自分の能力の力を、その本質の一端を垣間見た瞬間だった。だが、同時にそれは、自分の力に対する恐怖を覚えた瞬間でもあった。

お付き合いいただきありがとうございました!


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次回もまた、港町でお会いしましょう。

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