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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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兆候

「皆さんが事件の解決に貢献したことは承知しています。ただ、私たちはこの件について、まだ把握できていない部分が多いのも事実です。よろしければ、事件についてのお話を聞かせてもらえませんか?」


 五幡は、結城たち一人ひとりに真剣な眼差しを向けた。その言葉に、結城は少し躊躇しながらも口を開いた。


「俺は……自分でもよくわからないんです。ただ、危険な目に遭いそうになったり、困った状況になると、なぜか上手くいくというか……」


 結城の言葉を聞き終えた呉羽が、五幡の前に進み出た。


「彼の能力について、僕から説明させてもらっても?」


 呉羽は、左手でメガネをクイッと押し上げると、冷静な口調で語り始めた。


「結城の持つ能力は、理法解離と名付けました。特定の物理法則を一時的に無効化する力だと推測しています。ワタツミとの戦いでは、教主が作り出した空間そのものを歪める結界を一時的に解除したり、アビスの攻撃を無効化しました。」


 五幡は、高校生である呉羽が、行政の調査がようやく見つけ始めた「物理法則の歪み」という現象の本質に、独自にたどり着いたことに驚きを隠せない様子だった。


「……ん。私も、話す」


 神楽が静かに言った。


「はい、お願いします。」


 五幡に促され、神楽は自身の残影観測能力について語り始めた。


「…場所や人の過去の残滓が…視える。出来事が、頭の中に…流れ込んでくる」


 その言葉に、五幡と井口は息をのんだ。五幡は冷静な顔を保ちながらも、その瞳には驚きが宿っていた。井口は素直に感嘆の声を漏らす。


「マジっすか、それ…超能力っすよね!?」


 井口は興奮した様子で質問する。五幡は、そんな井口を制するように、静かに問いかけた。


「それは、いつでも視えるのですか?それとも、特定の場所や状況でのみ発動するのでしょうか?」


 神楽は、首を横に振った。


「…分からない」


 五幡は短く息をつき、視線を伏せた。井口も口を開きかけてはやめ、沈黙が場を包んだ。


「ふーん、五幡さんって、すっごくクールビューティーって感じですね。」


 沈黙を破ったのは、唐突に話題を変えた桜だった。五幡は少し困惑した表情を浮かべる。


「あ、ありがとうございます……」


 桜はさらに身を乗り出して、五幡に尋ねた。


「五幡さんって、休みの日は何をしているんですか?お酒とか飲まれるんですか?」


「そうですね……休日は、たまに友人と美術館に行ったり、家で読書をしたりしています。」


 五幡がそう答えると、呉羽のタブレットが光り、アイドル風の衣装に身を包んだ、愛らしい少女のホログラムが飛び出した。


「うわっ!?何これ!?」


 井口は驚いて声を上げる。五幡も一瞬目を見開き、ホログラムを凝視した。


「すごいっすね…、呉羽さんのですか?ていうか、めっちゃ可愛いっすぅ!」


 呉羽は左手でメガネをクイッと押し上げると、誇らしげに口を開いた。


「ええ、彼女の名前は凛。僕が独自に教育・カスタマイズしたサポートAIです。彼女は最新の科学論文や未公開のネットワーク情報だけでなく、あらゆるデータを電光石火の速さで解析・検索できるんです。時には僕が気づかないような微細なデータ異常まで検出して、新しい仮説を提示してくれる…まさに唯一無二の相棒、いやまさに最高・最強のアイドルですよ。僕は愛情を込めて“りんたん”と呼んでいます!」


 呉羽の熱弁に、結城、桜、そして神楽は、思わず顔を見合わせていた。三人は、特対課の調査官を前にして、突如として始まった呉羽の「推し」語りに、どう反応していいか分からず、ただ静かに引きつった笑みを浮かべるしかなかった。五幡は、冷静さを保ちながらも、その様子を面白そうに見ていた。


 その沈黙の中、凛は五幡をじっと見つめると、唐突に口を開いた。


「いつもの病気が発動したマスターは放っておくですぅ!それよりも気になることがあるんですぅ!もしかして、彼氏とかいるんですぅ?」


 凛の問いかけに、桜が楽しげに笑う。


「ねー、五幡さん。彼氏いるんですか?」


 井口も調子に乗って、五幡に身を乗り出す。


「そうっすよ!先輩、お酒とか飲んだりします?彼氏さんとかと一緒に行ったりするんすか?」


 神楽は、恥ずかしそうに顔を伏せながら、もじもじと呟いた。


「…五幡さん…彼氏、いる?」


「ふふ、それは秘密です」


 五幡は、公的な立場とプライベートの間のバランスを保とうとしながら、困った表情を浮かべた。その視線は、隣の井口に鋭く向けられる。


「井口、あなたは少し、羽目を外しすぎですね。少し注意が必要です。」


 五幡の低い声に、井口は慌てて背筋を伸ばし、額に手を当てた。


「す、すみません、先輩っ!つい…つい、その場の雰囲気に流されたというかなんとか…反省してるっす」


 五幡たちとの面会を終え、晴明神社の鳥居を出た結城たちは、蝉の鳴き声が響く参道を歩いていた。


「五幡さん、意外と可愛らしい人だったね」


 と桜が呟いた。


「そうだね。僕たちが知らない、別の世界で生きている人たちだと感じたよ。」


 と呉羽が応える。


 そのとき、隣を歩いていた神楽がふらりとよろめいた。


「神楽、大丈夫か?」


 結城が慌てて声をかける。


 神楽は顔色を悪くし、額に手を当てた。


「…ん…少し、頭が痛い…」


 彼女の表情は苦痛に歪んでおり、その手は微かに震えていた。

お付き合いいただきありがとうございました!

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次回もまた、港町でお会いしましょう。

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