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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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特対課 III

 翌日、五幡と井口は、恋ヶ崎緑地へと戻っていた。前日の御食津の松原での調査では、わずかな痕跡しか見つからず、緑地での調査に関しては五幡は早々に切り上げていた。

 井口は、その結論に納得していなかった。


「先輩…昨日は、なぜ急に調査を切り上げたんですか?」


 緑地の入り口で井口は五幡に問いかける。


「あの少年、僕らが持ってた解析機器にやたらと食いついてきましたよね。ああいうのは初めてっす。それが理由っすか?」


「あのときは、これ以上の調査は不要なリスクを伴うと判断しただけです。だから、今日改めて調査に来たのです」


 五幡の簡潔な返答に、井口はそれ以上何も言えなくなった。五幡が改めて調査を指示する。


「了解っす!」


 井口は気合を入れ直し、スキャンを開始した。機器の感度を最大まで上げ、微細な痕跡を逐一データ化していく。すると画面には、これまでの観測データとは異なる、複雑で不規則な波形が映し出された。


「…先輩、これ…! この場所で観測された波形は、これまで観測してきたどの現象の波形とも異なる、二つの異なる法則性が混在してるっす。これは…どう解析すればいいか…」


 井口は戸惑いを隠せない。五幡は、井口の言葉を静かに受け止めた。彼女もまた、この異常なデータが何を意味するのか、まだ理解できていなかった。


 しかし、緑地でのスキャンを続けても、それ以上の痕跡は得られなかった。


「先輩、これ以上は無理っす。この場所では、痕跡そのものが希薄すぎて…」


 井口が諦めかけたその時、五幡は冷静に次の指示を出す。


「井口、痕跡は十分です。この場所での調査はこれにて終了します。次は、アーク・プラザへ向かいましょう」


 五幡は、井口の困惑をよそに、ためらわず歩き出した。この場所での調査は十分だと判断し、彼女は次の調査地点であるアーク・プラザへ向かうことを決めたのだ。


 アーク・プラザの敷地をゆっくりと歩きながら、五幡は淡々と周囲の様子を観察し、井口に声をかける。


「井口、この一帯から始めましょう。アーク・プラザの中心部までの痕跡の変化を詳細に記録しなさい」


「了解っす、先輩」


 井口は手に持った解析機器を操作し、敷地の端からスキャンを開始した。御食津の松原での調査とは違い、画面には微かながらも反応が映し出される。井口は検出した痕跡を逐一データ化し、慎重に記録へと残していった。


 南口から館内を抜け、やがて中心部へと、五幡と井口は淡々と移動を続けた。その間、井口の機器は一貫して微弱な反応を捉え続けた。

 そして、アーク・プラザの中心部、吹き抜けの下に到達。


「先輩、この場所が一番反応が強いっす」


 井口は機器の画面を五幡に見せる。波形はこれまでのどの痕跡よりも複雑で、不規則に乱れていた。彼の口調には戸惑いが滲む。


 五幡は周囲を見渡す。吹き抜けの下では、買い物客のざわめきが広がっていた。その何気ない光景の中に、異常な痕跡だけが静かに紛れ込んでいるように思えた。


「井口、これまでの観測地点のデータと照合しながら、さらに詳細に解析を進めてください」


「はいっす、先輩!」


 井口は気合を入れ直す。五幡も機器の波形を確認し、周囲を慎重に観察した。日常の中に潜む異常を見逃さないよう、視線は緩むことがない。


 こうして二人の調査は、さらなる段階へと踏み出したのだった。

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