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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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特対課 II

 結城から道順を聞いた五幡と井口は、御食津の松原に到着した。真夏の太陽が照りつける広大な松林は、海水浴客や観光客でごった返していた。色とりどりのパラソルが並び、潮の香りと屋台の香ばしい匂いが混じり合う。笑い声と波の音が響く中、二人はその賑わいから少し離れた場所で足を止めた。井口は手に持っていたノートパソコンのような解析機器を操作する。


「先輩、スキャン開始するっす」


 井口は機器を松原全体に向けて現象の痕跡をスキャンする。ワタツミとアビスの事件後に残された痕跡を検出するためだ。しかし、画面に映し出されるのは、不自然なほどに何もない、平坦な波形だけだった。


「おかしいっすね。結構大きな事件の後なのに、何も残ってないなんて…」


 井口は眉をひそめ、何度もスキャンを繰り返す。わずかな痕跡を検出するものの、それは解析できるほどの質ではなかった。五幡は、その報告を聞きながらも無言で首を振った。彼女は、静かに周囲を観察する。賑わう海水浴場のざわめき、子供たちの歓声、そして時折響く屋台の威勢のいい声。それらは、事件の痕跡を覆い隠す、あまりにも完璧な日常の喧騒だった。


「……先輩?」


 井口が再度、五幡に声をかける。


「御食津の松原での調査は、一旦これで終了です。次へ向かいましょう」


 五幡は井口の報告を待つことなく、淡々と次の行動を指示する。


 松原の調査を終えた二人は、隣接する恋ヶ崎緑地へと移動した。ここは、地元の人々が憩いの場として利用する、広々とした芝生と遊歩道が広がる公園だ。


「さて、次は緑地っすね。ここも何かしらの痕跡が検出されるはずなんすけど…」


 井口が再び解析機器を操作しようとすると、五幡が彼を制した。彼女が視線を向けた先、ベンチに座っている二人の少年が見えた。そのうちの一人、メガネを掛けた長髪の少年がタブレットを操作している。その隣には、大人しそうな少女が静かに座っている。


 井口は解析機器を片手に、人懐っこい笑顔で話しかけた。


「こんにちは〜!君たちってこの辺の子っすか?ちょっとアーク・プラザへの道を教えてもらってもいいっすか?」


 突然話しかけられた少年は顔を上げ、少し不審そうな表情を見せる。しかし、次の瞬間、彼の視線は井口の持つ機器に向けられ、その瞳は好奇心に満ちた輝きを放っていた。


「…アーク・プラザなら、この道をまっすぐ行って、大きな交差点で左に曲がると見えます」


 少年は、視線を井口の持つ機器から外さずに答える。


 五幡は、井口と少年のやり取りを冷静に観察している。


 少年は不審がりながらも、目の前の珍しい機器に興奮している。


「…その機器、なんだか珍しい形をしていますね」


 井口は満面の笑みで答えた。


「これは自作ノートパソコンっす。外見はちょっと変わってるっすけどね」


 五幡が静かに口を開く。


「井口、今日はもう帰りましょう」


 五幡は井口に視線を送り、撤収を促す。二人に会釈をしてその場を後にする。


 彼らが去った後、少女は口を開き、少年に告げた。


「呉羽、あの二人の残滓を見た…。…国に所属する…調査官…」


 少女の言葉に、少年は大きく目を見開いた。調査官という事実に、彼の知的好奇心は俄然と湧き上がってきたのだった。


 少年のタブレットから青い光がふわりと浮かび上がる。画面の中の少女が呆れたように独りごちた。


「またマスターの悪い癖が発動したですぅ…」

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