違和感
縁日の賑わいから数日。夏の盛りは続き、湿った空気が熱を帯びていた。
アスファルトからはゆらゆらと陽炎が立ち昇り、街全体が巨大なサウナになったかのようだ。
結城は、用事もなく一人で駅前の商店街を歩いていた。冷房の効いたカフェや古書店の前を通り過ぎるたび、ひんやりとした空気が肌を撫でる。その小さな安堵を繰り返しながら、彼はふと喉の渇きを覚え、コンビニの自動ドアをくぐった。
レジの奥、女子高生の店員は気だるげに雑誌をめくっている。退屈そうに髪を耳にかけ直すその仕草は、いかにも夏休み中のアルバイトという感じだった。
「いらっしゃいませー」
飲み物を手に取り、レジへ向かう。店員が抑揚のない声で告げる。
「110円です」
ポケットから小銭を探す手が少しもたつく。その瞬間、結城の胸に得も言われぬ違和感がよぎった。それは、既視感とも違う、もっと明確な「ずれ」のような感覚だった。
(あれ……?)
目の前の光景が、一瞬だけ、焼き付いた写真のように静止したように感じる。
「いらっしゃいませー」
店員の目には結城の姿が初めて映ったかのように、わずかに光が宿る。
「110円です」
同じ抑揚、同じ表情。再び手をポケットに差し入れる、その感覚さえもまた。
(…気のせいか…?)
困惑しながらも、今度はスムーズに百円玉と十円玉を出す。店員は機械的に受け取り、おつりを渡した。
「ありがとうございましたー」
店を出ると、夏の熱気に包まれながらも、背筋に冷たい違和感が残っていた。
頭の中では、二度目の「いらっしゃいませー」が、壊れたレコードのように、何度も鮮明に繰り返されている。
小さな恐怖が胸をよぎるが、やがて暑気に覆われ、遠く霞むように薄れていった。




