縁日
提灯の柔らかい光が夜の帳を照らし、屋台の香ばしい匂いが夜風に乗って漂う。金魚すくいの賑やかな声、そして浴衣姿の人々の楽しげな話し声が、祭りの熱気を物語っていた。
結城と並んで歩く神楽は、人混みに流されないようにと、彼の袖をそっと掴んだ。普段は冷静で感情を表に出さない彼女だが、その手にはかすかな緊張がこもっている。華やかな浴衣に身を包んだ神楽の横顔は、祭りの光を浴びて、どこか幻想的に映っていた。
「人が多い……」
神楽が静かに呟く。その声には、少しの緊張と、隠しきれない高揚感が滲んでいた。
「だろ?祭りってのは、これぐらいじゃないと」
結城は満面の笑みで答える。
騒動以来、彼らが共有する時間は、ただの「日常」へと変わった。しかし、結城は知っている。この平穏が、どれほど脆い奇跡の上に成り立っているかを。この夜が、二人にとって特別なものだと感じていた。
二人が賑わう通りを進んでいると、結城がソフトクリームの屋台を見つけた。
「お、ソフトクリームだ。神楽、食うか?」
「…ん」
結城は巨大なソフトクリームを買い、嬉しそうに一口食べた。そのとき、前を歩いていた小さな子供が急に振り返り、結城とぶつかりそうになる。
結城が咄嗟に避けたとき、ソフトクリームの一塊が浴衣に落ちてくる。
ソフトクリームの塊は宙で一瞬止まり、ふわりと揺れながら崩れて霧散し、浴衣を汚すことはなかった。
結城は不思議そうに首を傾げ、にこりと笑う。
「今日はついてるな」
神楽は、言葉を発することなく、ただ静かに、ジト目でその光景を眺めていた。
(…結城、…相変わらず…天然で鈍感…)
彼女はそっと結城の袖を掴む手に力を込めた。この奇妙な出来事も、彼と過ごす日常の一部。彼が笑っていられるなら、それだけでいい。
提灯の光に照らされた二人は、何事もなかったかのように、人混みの中へと溶けていった。




