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港町異聞録 ―幼馴染と怪異に振り回される日々―  作者: あったくん
第三章 『繰り返される日々』
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熱気

 容赦なく照りつける太陽の下、夏の盛りの角鹿市にはセミの声が降り注いでいた。数週間前、この街を襲った「ワタツミ」と「アビス」の騒動は、人々の記憶から急速に薄れつつあった。街は熱気に包まれながらも、少しずつ、ゆっくりと日常を取り戻している。


 結城たち面々は、そのかけがえのない日常を、当たり前のように享受していた。真夏の光がきらめく海辺で、ラムネのひんやり感を指先に感じながら、笑い声を波音に溶かす。そして、いつものアイドル衣装から水着に着替えた凛もまた夏の海を満喫しているようだった。


「やっぱ、平和な夏が一番だよな」


 そう言って、結城は太陽に照らされた海を眺めた。彼の言葉に、桜がふわりと微笑んで頷く。


「うん、そうだね。本当に色々なことがあったから」


 この夏、彼らは「アビス」に巻き込まれ、非日常の戦いを経験した。結城は、自分の力と向き合い、大切な人たちを守るために戦うことになった。その記憶は、彼の心に深く刻まれている。しかし、彼はその戦いの「理」を、まだ完全に理解できていない。


 不意に呉羽が結城に声をかけた。


「おい、結城。お前、なんか妙なこととかないか?この数週間で」


 結城は少し首を傾げた。


「妙なこと?いや、特にはないな。でも、そういえばこの間、街中でふと見上げたら、飛んできた石が俺に当たる直前で、なぜか軌道が逸れたことがあった。あと、人混みを歩いてたら、俺の周りだけ一瞬動きが止まって、すいすい通り抜けられたりもして…気のせいかもしれないけど」


 そう言って笑う結城に、呉羽は鋭い視線を向けた。彼は知っている。結城が「気のせい」だと思っている出来事が、彼が無意識に発動させている【理法解離】の作用であるということを。それは単なる偶然ではなく、物理法則を一時的に書き換える現象なのだ。結城の能力は、彼の周りで起こる異常性を、本人が「日常レベル」にまで引き下げて認識させてしまう。そのため、結城はどれほど危険な状況に直面しても、それを「大したことなかったな」と流してしまうのだ。


「マスター……その『気のせい』ってやつ、ちょっと心配ですぅ…」


 凛のホログラムが心配そうな顔で揺れる。その飄々とした態度を見て、桜と神楽は心配そうな眼差しを交わす。結城の鈍感さが、彼の危機を遠ざけているのか、それとも、いずれ来る大いなる危険の予兆なのか。


 一方、神楽は強い頭痛に襲われていた。まるで、誰かが彼女の頭の中に、ノイズを送り込んでいるかのようだ。この感覚は、以前にも経験したことがある。彼女の能力【残影観測】が、何かを捉えようとしている。


「神楽ちゃん、大丈夫?」


 桜が心配して声をかけると、神楽は首を振って答えた。


「大丈夫…。ちょっと、頭が重いだけ…」


 その時、彼女の視界に一瞬だけ、夏の陽炎かげろうに揺れる古びた看板が映り込んだ。


『旧試験型動力炉研究所』


 しかし、それはすぐに消え、元の何もない風景に戻った。神楽は、それが現実に存在しないものだと直感的に悟る。それは、過去の「残滓」。そして、その残滓が、以前よりも鮮明に、そして近くに感じられることに、彼女は内心で戸惑いを覚えていた。

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