残照
アーク・プラザの吹き抜けの中心。結城の能力【理法解離】が発動し、教主と凪の異能の根源たる法則性を融解させていく。
凪が新たな水の刃を生成しようと腕を振り上げるが、その手には何も生まれない。虚空を掴む感触に、凪の顔に初めて明確な焦りが浮かんだ。
「何なのだ!お前の…その力…!」
彼の叫び声が響く。同時に、教主が張り巡らせた強固な結界も力を失い、静かに霧散していった。
教主もまた、自らの力が揺らぐ現実に瞠目し、動きを止めた。異能の法則性そのものを揺るがす結城の力は、教主にとって想定外であり、その存在を根底から覆される事実に動揺を隠せない。
呉羽が叫んだ。
「りんたん!ワタツミの波動の解析、どうなってる!?」
「はい、マスター!波動が急激に減衰しているようです!結城さんの理法解離の影響だと思われます!」
凛の声は、いつもの元気な調子を取り戻していた。
神楽は、自身の能力を通して、人々の意識が回復していく光景を目にしていた。
「…意識を失っていた人たちが、徐々に…回復してる…」
彼女の言葉に、結城は自身の力が単なる破壊ではないことを確信した。彼は戸惑いながらも桜へと視線を送った。その意図を察した桜もまた、強く頷きを返した。
桜は、一歩も躊躇することなく、アーク・プラザの中心に立つ神器へと駆け出した。教主は、異変を察知して桜に手を伸ばそうとするが、異能の法則性を解離させられた教主はその場から動くことはできなかった。
神器を護る最後の漆黒の結界は、結城の理法解離の影響で消え失せ、神器を露わにした。
結界が消えたその瞬間、桜は祈るように両手を伸ばし、神器を胸に抱きしめた。
神器が桜の手に戻ると、アーク・プラザ全体を覆っていたワタツミの力が、制御を失って暴走を始めた。渦を巻く負のエネルギーが嵐となり、教主と凪を飲み込もうと迫る。教主は絶望し、苦悶の表情でその場に膝をついた。
「母なる海に!」
教主は憎悪に満ちた目で結城を睨みつけ、凪の手を取り、漆黒の渦の中へと姿を消した。
ワタツミの騒動が収束し、街には元の平穏が戻る。アーク・プラザで、結城、桜、神楽、呉羽は、駆けつけてきた宮司と再会を果たす。宮司は安堵に満ちた顔で彼らを迎えた。
「桜!結城くん!」
桜は神器を抱きしめたまま、父の元に駆け寄った。
「お父さん!」
「無事だったか…よかった…!」
宮司は、娘を抱きしめ、安堵の涙を流した。
「結城くん、本当にありがとう。君がいなければ、どうなっていたことか…」
宮司は結城に深く頭を下げた。
「いえ、俺は何も…。みんなで力を合わせた結果です」
結城はそう言って、呉羽と神楽に目を向けた。
その後、御凪遥が学校に戻ることは二度となかった。
多くの犠牲と謎を残したまま。
ただ、教室には彼女の席だけが残されていた。




