覚醒
結城は、教主をまっすぐに見据えた。
「神器は、あなたたちのものではない。返してもらいます」
その言葉を告げると同時に、結城は教主へ向かって一歩、強く踏み出した。その動きを察知した凪が、教主を守るように二人の間に割って入る。
「お前の相手は、俺だ」
凪が両手を広げると、ワタツミの水の塊から無数の水の触手が伸び、鋭利な水の刃となって結城を襲った。結城は凪の圧倒的な速度と体術に翻弄され、防戦一方に追い込まれた。水の刃を紙一重でかわすが、反撃の隙を与えられない。
その間にも、教主はアーク・プラザに集まった人々に向けて、言葉を響かせる。
「このワタツミの力こそ、真の『調和』だ。文明という虚構を捨て、根源へと回帰するための」
教主の言葉には、人々の心に巣食う負の感情を増幅させるような、おぞましい波動が含まれていた。人々は苦悶の表情でその場に膝をつく。
教主の言葉を聞いた桜は、その独善的な思想に激しく反発し、声を荒げた。
「そんな考え、間違ってる!人々の心を勝手に支配して、それが調和だなんて、絶対に認めない!」
桜の強い言葉に、教主は静かにフードの奥で首を傾げた。その仕草には、微かな苛立ちが感じられる。
「愚かな…」
教主がそう呟くと、自身の能力によって生み出された「増殖する影」が、蠢く群れとなって結城たちに迫り来る。
「呉羽、頼む!」
結城の叫びに、呉羽は即座に反応した。彼はタブレットを操作し、凛のホログラムを呼び出す。
「りんたん!逆相の波動を最大限で出力!」
「はい!マスター! 観測ユニットの出力、最大にしますですぅ!」
凛の声と同時に、呉羽の観測ユニットから青白い波動が発せられた。それは、教主が放った負の感情を増幅させる波動とは真逆の性質を持つ「逆相の波動」であり、蠢く影の群れに直撃する。影は悲鳴を上げて霧散し、その場から消滅した。
「桜さん!教主を!」
呉羽の指示に、桜は即座に頷いた。彼女は護符を掲げ、手印を結ぶ。
「符術展開っ!」
桜の放った無数の護符は渦を巻きながら教主を包み込むように展開された。刹那、護符は無数の矢へと姿を変え、教主に向かって放たれる。
教主は動じることなく、その身の周りに漆黒の結界を張る。矢は結界に阻まれ、砕け散った。同時にワタツミの水の塊から漆黒の触手を伸ばし、反撃してきた。
「五行相剋!」
桜も結界を展開し、触手の攻撃を無効化する。すぐに手印を結び式神を使役し教主へ攻撃するが、教主の能力は桜を上回っており、徐々に追い詰められていくこととなる。
激しい戦闘の最中、教主が放った強力な呪術と、桜の術がぶつかり合った。衝撃で巻き起こった風が、教主のフードを大きく捲り上げ、その素顔が露わになった。
「…嘘…御凪さん…!?」
桜は、教主がクラスメイトの御凪 遥であるという事実に硬直した。その一瞬の隙を、教主は見逃さなかった。教主は桜の動揺を突き、さらに強力な精神攻撃を仕掛ける。桜は苦悶の表情で膝をついた。
「桜っ!」
結城は凪を振り切り、桜のもとへ駆けつけようとした。
「もう、誰も傷つけさせない!」
結城の身体を中心に空気が歪んだように見えた。ワタツミの根源の法則性が一時的に揺らぎ、教主と凪の異能も不安定化していく。水の刃はまるで幻のように霧散し、桜を苦しめていた幻惑能力も弱まっていく。教主は、結城の能力に目を見開いた。
結城の能力によって、戦況は一変した。




