残響
凪と教主が去った後、広間には信者たちの動揺した声だけが響いていた。結城は、その隙を見逃さず、呉羽と神楽に視線で合図を送った。三人は、信者たちの間を縫うようにして駆け抜け、地下から地上へと続く階段を駆け上がった。
呉羽の部屋へと戻った彼らは、息を整える間もなく、事態の整理を始めた。
「結城、神楽、君たちの能力は僕が考えていたより遥かに強力だ。今回の作戦が成功したのは、僕の波動を打ち込む隙を君たちが作ったからだ。僕の波動は、あの巨石の霊的波動を完全に消滅させた」
呉羽はそう言うと、タブレットを操作し、結城と神楽を真っ直ぐに見つめた。
「…フッ、この劇的な展開、この絶望的な状況を打破した僕らの力……。これを完璧に定義せずにいられるか! 僕の魂が、僕の知識が、それを求めている!」
呉羽はそう叫ぶと、タブレットにそれぞれの能力名を映し出した。
「結城の能力は、霊的な力を受けた瞬間、君の肉体はまるで次元の異なる法則に則っているかのように、その干渉そのものを無効化していた。それは、この世界の『理』から現象を『解』き放ち、無に還す力……。故に、『理法解離』と名付けよう!」
結城は、あまりにも壮大な名前に少し引き気味で、困惑したような顔で答えた。
「お、おう……ありがとう……?」
「そして、神楽の能力は、霊的な残滓を観測する力だ。これはサイコメトリーにも近い。ただ触れただけで、その場所に刻まれた記憶や感情を読み取る第六感のようなものだ。故に、『残影観測』と名付けよう!」
呉羽の言葉に、神楽は静かに頷いた。それまで二人の会話を黙って聞いていた結城は、ふと、教主の声に感じた違和感を思い出していた。どこかで聞いたことがあるような、しかし、全く思い出せない。
「…呉羽。教主の声、解析できないか?」
結城の問いに、呉羽は首を振る。
「教主の声は、特定の周波数帯を意図的に歪ませている。解析を試みたが、データが断片的で、特定には至らなかった」
謎は深まるばかりだった。
「…教主の声、海の底から響いてくるような、大きな音だった」
神楽が静かに口を開く。
呉羽はタブレットの解析画面を見つめる。儀式は阻止したが、「もうすぐ成就する」という教主の言葉が引っかかっていた。
「おかしいな。儀式は機能停止したはずなのに……いや、待て」
呉羽はハッと顔を上げ、別の解析画面を呼び出した。
「街の波動を観測していたデータだ。儀式が止まったにもかかわらず、特定の場所で波動の急上昇が観測されている。この急上昇している波動…以前に『影』の出現と同時に観測された波形と酷似している。これは、儀式の目的が達成されたことの兆候だ…!」
呉羽は、タブレットを操作し、波動が急上昇している場所の地図を画面に映し出す。
「この場所は…アーク・プラザだ。…『影』の出現と同時に観測された波動が最も強く観測されている場所だ…!」
結城は息をのんだ。
結城たちの胸に、拭いきれない疑念と、聞き覚えのある声への不気味な感覚が残る。それは、彼らの戦いが、まだ何も終わっていないことを告げていた。




