静寂
怪異が消滅し、松原に静寂が戻ると、あたりに潮騒の音が響き渡った。夜空には星々が瞬き、まるで何もなかったかのように穏やかな時間が流れている。しかし、荒れ果てた砂浜に、先ほどの激戦の痕跡がくっきりと残されていた。
結城は一人、その場に立ち尽くしていた。彼の胸は、まだ微かに高鳴っている。命の危険に晒された恐怖と、怪異を打ち破った高揚感が混ざり合い、彼の感情を揺さぶっていた。
「結城……大丈夫か?」
最初に声をかけたのは呉羽だった。彼はタブレットを懐にしまい、神楽に肩を貸しながら、結城の元へ歩み寄る。神楽は、恐怖と疲労からまだ顔が青ざめていたが、その表情には安堵の色が浮かんでいた。
「ああ、俺は平気だ……」
結城はそう答えると、自分の手を見つめる。先ほど怪異に触れたはずの拳には、特別な感覚は残っていなかった。しかし、たしかに怪異を捉えた、あの確かな手応えだけが、手のひらにまだ残っているような気がした。
「君の能力は、本当に僕の想像を超えていたよ」
呉羽が感嘆の声を漏らす。その口調には、いつもの冷静な分析だけではない、純粋な驚きが混ざっていた。
「君は、怪異の攻撃を無効化することで、僕たちの反撃の糸口を作った。僕の観測ユニットからの逆相の波動が怪異を弱体化させた、その一瞬の隙を、君が突いたんだ」
呉羽の言葉に、結城は首を傾げる。
「俺はただ……みんなを守りたくて……」
結城が言葉に詰まると、神楽が静かに口を開いた。
「……私を、守ってくれた」
神楽の言葉は、結城の心に深く響いた。彼が怪異に立ち向かう原動力は、恐怖でも、好奇心でもない。ただ、目の前で怯える神楽と、作戦の指示を出す呉羽を守りたいという、純粋な思いだった。
「僕も同意見だよ、神楽」
呉羽はタブレットを再び取り出し、結城の周囲のデータを解析し始める。ホログラムには、結城が怪異に立ち向かった瞬間の波動のデータが映し出されていた。
「マスター、演算結果が出ましたですぅ!」
ホログラムに映る凛が、いつもの愛らしい声で報告する。
「結城さんの波動と、怪異の波動。その位相が最も安定しているのは、結城さんが『守る』という意志を抱いた瞬間ですぅ! その時、観測ユニットから放たれた波動が、不安定化した怪異を完全に消滅させましたですぅ!」
呉羽は、二人の顔を見つめる。
「つまり、君の能力の真髄は、怪異からの攻撃を無効化し、その存在を不安定化させること。それが、僕たちが反撃するチャンスとなるということだ」
呉羽は、二人の顔を見つめる。
「これが、僕が導き出した結論だ。僕のガジェットと、そして結城の能力。僕たちの連携が、怪異を倒す唯一の鍵なんだ」
彼の言葉に、結城と神楽は静かに頷いた。
その静寂を破るように、深く重い海鳴りのような音が響いた。




