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 呆然とする神楽と呉羽をよそに、結城は自分の体に何が起きたのか、ただ不思議に思うばかりだった。

「なんだ……今、俺に何が……?」


 結城が呟いたその瞬間、目の前の異形が再び動き出す。霧散したはずの触手が、再び結城たちへと迫ってきた。

 その速さは先ほどを上回り、結城は避ける暇もない。咄嗟に身を固くする。


 刹那、怪異の触手から放たれた波動が結城の胸を直撃する。しかし、結城は吹き飛ばされることなく、その場に留まった。波動は、結城に触れた途端に消滅し、周囲の木々を揺らすこともなかった。


「結城……」


 神楽が震える声で彼の名を呼ぶ。呉羽は言葉を失い、タブレットの画面を食い入るように見つめていた。彼の端末には、信じられないようなデータが表示されていた。


「マスター……信じられませんですぅ……波動のデータが、結城さんの体から完全に消失していますですぅ……」

 ホログラムに投影された凛の声には、いつもの明るさはなく、戸惑いが含まれていた。


「波動の消失……」


 呉羽が問いかけるが、結城は答えることができない。彼はただ、自分の体に何が起きたのか、戸惑いながら、胸に手を当てていた。

 その隙を突くように、怪異は再び触手を伸ばす。しかし、今度は結城の目が触手の動きを捉えていた。彼は無意識のうちに一歩踏み出し、神楽を背中に庇う。


 怪異の触手は、結城に触れた瞬間、再び力なく霧散した。

 その光景を目の当たりにし、結城は確信する。

 自分の体には、何かが起きている。


 怪異は、自分たちの攻撃が全く通じないことに苛立ち、松原の木々を薙ぎ倒し始める。その動きは、先ほどまでとは比べ物にならないほど荒々しく、破壊的だった。


「りんたん、このままじゃ……!」

「マスター、怪異の波動が急激に上昇していますですぅ! このままでは、近辺一体が危険ですぅ!」


 凛の声に、呉羽は冷静さを取り戻す。

「結城、その能力はどうやって発動させるか分かるのか?」


「わからない……どうやって……」


 結城が焦燥感を募らせる中、怪異の触手が神楽へと襲いかかる。


「神楽、危ない!」


 結城は咄嗟に神楽を庇うように、彼女の前に立つ。


 その瞬間、怪異の触手が結城の体に触れた。しかし、結城は衝撃を受けることなく、ただそこに立っている。触手は結城にぶつかった途端、霧散して消えた。


 呉羽は、その光景を見て確信した。

 結城の能力は、彼の意思とは関係なく、彼自身や大切な存在に危険が迫った時に、無意識下で発動するものなのだと。


「結城……! 僕の仮説が正しければ、君の能力は……君が守りたいと思ったものを、怪異から守るための……盾だ!」


 呉羽の言葉に、結城は神楽の顔を見つめる。彼女は、恐怖で顔を青ざめさせていたが、彼の腕の中では、不思議と安心しているようだった。


「……そうか、俺のこの力は……」


 結城は、怪異へと視線を戻す。

 彼の表情は、先ほどの戸惑いから一変し、強い決意を秘めたものに変わっていた。


「俺は、お前を倒せないかもしれない。でも、絶対に、お前を神楽にも呉羽にも触れさせはしない!」


 結城の言葉に呼応するように、怪異の動きが再び鈍くなる。

 その隙を逃さず、呉羽はタブレットに表示された凛のホログラムに向かって、早口で指示を出す。


「りんたん! 怪異の波動と、結城の能力が作用した時の周波数を同期させろ! 無効化されたはずの波動を、逆相で怪異にぶつける!」


「承知しましたですぅ! 計算開始しますですぅ!」


 凛は、即座に膨大な計算を開始する。タブレットの画面に、複雑な数式が目まぐるしく表示された。


「結城! 波動を無効化する瞬間を狙って、怪異に突っ込め!」


 呉羽の声に、結城は怪異へと駆け出した。

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