共鳴
神社の鳥居をくぐり、結城と神楽はそれぞれの家路を辿っていた。神楽は、あの場で感じた言い知れぬ寒気と、一瞬だけ見えた残像を心に留めながら、無言で歩く。結城もまた、神楽の様子が気になりながらも、口を開けずにいた。
結城が自宅に戻り、自分の部屋で今日の出来事を整理していると、スマートフォンに着信があった。画面には「呉羽」の名前。
「もしもし、呉羽?」
『ああ、結城か。連絡が遅れてすまない。気になるデータを見つけたから、神楽さんと一緒に僕の秘密基地に来てくれ。』
呉羽の真剣な声色に、緊張感が高まる。
「わかった。すぐに行くよ」
結城はすぐに神楽に連絡を取り、合流して呉羽の秘密基地へと向かった。複数のモニターに膨大なデータが表示されている。凛は忙しなく情報を解析しているようだ。
「呉羽、何か分かったのか?」
結城の問いに、呉羽は眼鏡をくいっと上げ、真剣な眼差しで二人を見た。
「ああ。これを見てくれ」
呉羽はメインモニターに、角鹿市の地図と、そこに点滅する複数の赤いマーカーを表示した。
「神社の件以降、事件、もとい怪異に関する報告件数が急増している。特に異常な波動を検出したのが、この『御食津の松原』と『恋ヶ崎緑地』だ」
凛が可愛らしい声で補足する。
「どちらも街に古くから伝わる怪異や、近年起きた奇妙な事件の記録が残っていますですぅ!」
神楽は、松原のマーカーに視線を向けた途端、視線を外し俯いた。
結城はそれに気づき、神楽の顔を覗き込む。
「神楽、大丈夫か?」
「…ん。大丈夫。ただ…少し、寒気がしただけ」
神楽はそう答えたが、その瞳には不安が宿っていた。
「松原に伝わる言い伝えでは、『深海に眠る神が目覚めし時、海は怒り、大地を飲み込む』というものがある。そして、晴明神社の記録には、『封印されし存在』に関する記述が残されていた。恐らくこれが、今回の事件の背後にある『ワタツミ』のことだろう」
呉羽の言葉は、ただの伝承を越えた、現実的な脅威を示唆していた。結城は、眠り続ける桜の顔と、宮司の悔しげな表情を思い出す。
「結城、一つ気になるデータがある。今回の事件で観測された、不可解な波動についてだ。僕の解析では、この波動が『影』を具現化させるトリガーになっているようだ」
呉羽の言葉に、結城と神楽の表情が険しくなる。怪異の存在が、ただの偶然ではないと確信させられたからだ。
「解析したデータによると、意識不明になった被害者が倒れた直前に、この波動が異常なまでに観測されている。この波動は、特定の地域で集中的に発生しているわけではない。まるで、どこかから意図的に放たれているように見える」
「意図的に…? それは、一体どういうことだ?」
結城の問いに、呉羽は腕を組み、深刻な表情で続けた。
「まだ推測の域を出ないが…僕が独自に構築した非公開のセンサーネットワークで、街中のある特定の波動を常時観測しているんだ。そして、その波動の発生源の一つが晴明神社だった。だけど、昨夜の事件以降、その波動の数値が急激に減少している。これは、晴明神社を中心とした力場が弱体化していることを示している。この力場の弱体化と、宮司さんから聞いた神社の神器が奪われたタイミングからみて、関連性がある可能性が高い。そして、力場の弱体化と波動の異常な観測、さらに怪異の頻発…これらすべての事象が、何らかの意図をもって引き起こされている、と考えるのが最も合理的だ」
呉羽の言葉に、結城は漠然とした不安が、複数の事象が関連しているという疑念へと変わるのを感じていた。
「まずは御食津の松原へ行こう。何かしらの情報を得られるかもしれない」
結城がそう言うと、神楽は震える手を握りしめ、力強く頷いた。呉羽もまた、凛が収められたデバイスを手にし、立ち上がる。
3人は夜の闇が迫る御食津の松原へと向かった。




