始動
結城は、宮司から聞いた不穏な言葉に心を囚われていた。桜の意識不明、神社の襲撃、そして「最後のピース」という不気味な響き。それらがただの偶然ではないのではないか、という疑念が、結城の心を激しく揺さぶっていた。
その日の午後、結城はまず親友の呉羽に電話をかけた。
「結城か。どうした、そんなに焦った声で。さっきの話、何か進展でもあったのか?」
呉羽は、結城が話す事件の詳細を冷静に、しかし真剣に聞いてくれた。結城は、宮司から聞いたことを全て話した。
「なるほどな。『ワタツミの目覚め』、か。聞いたことがない言葉だ。それに、神器が奪われたという話も、警察は『不審者による器物損壊』として扱っているだろう。非科学的な話は、表に出てこないのが常だからな」
「やっぱりそうか……。どうすればいい、呉羽。俺は、ただ見ているだけじゃ嫌なんだ」
結城の焦燥感を察した呉羽は、一拍置いてから言った。
「落ち着け、結城。俺たちにできることをやろう。宮司から聞いたキーワードを頼りに、まずは情報収集だ。図書館の古文書や、ネットの非公開サイト、何でもいい。使えるものは全部使って、手がかりを探してみる。手分けしてやれば、きっと何かわかるはずだ」
呉羽の冷静な判断に、結城は少し落ち着きを取り戻した。
「ありがとう、呉羽。助かる」
電話を切った後、結城が次に向かったのは、幼馴染の神楽の家だった。いつものように無表情な顔で玄関に出てきた神楽に、結城は思い切って桜と神社のことを話した。すると、神楽の表情に、微かだが動揺の色が浮かんだ。彼女は感情を表に出すのが苦手だが、幼馴染である桜のことは心から心配しているのだと、結城は知っていた。
「…信じられない話。でも、桜が…」
その言葉は途切れ、神楽は一瞬、迷うように目を伏せた。
「…ん。私も、手伝う」
結城は、その短い言葉に、彼女の決意を感じ取った。呉羽と神楽という、異なるタイプの仲間ができたことで、結城は独りではないことを改めて感じた。
「ありがとう、神楽。助けてくれ」
「…ん」
翌日、結城は神楽と共に、事件現場である神社の鳥居をくぐった。早朝のひっそりとした空気の中、二人は昨日、激しい争いが起こった場所へと足を踏み入れた。
その瞬間、神楽の視界に、一瞬だが何者かが激しく争う残像が映り込み、全身に悪寒が走る。それはまるで、昨夜の出来事を追体験しているかのような、鮮明で、しかし実体のない光景だった。
「…っ!」
神楽は、思わず胸を押さえてその場にうずくまる。
「どうした、神楽?」
結城が心配して声をかけるが、神楽は首を横に振った。
「…何でもない。ちょっと…気分が悪くなっただけ」
神楽は、自分の身に何が起こったのか理解できなかった。しかし、確実にわかったことが一つだけあった。この場所に、そしてこの事件に、決して無視できない「何か」が隠されているということだ。




