年末のトントン
昨年は、本当にろくでもない一年だった。
日々積み重なるストレスに、
ぐしゃぐしゃにされた心。
もうどうでもいい、というよりも
「どうにでもなってくれ」と思う日々の連続だった。
仕事も人間関係も、
なにからなにまで上手くいかなくて、
年末には大きな諍いごとも起きた。
心の底から叫びたくなる。
――あーもう!やだやだっ!!
気づけば、自分の人生に“穏やか”なんて季節はあっただろうかと思う。
思い出そうとしても、見つからない。
そんな、年末。
その夜も、不眠気味で、なかなか眠れなかった。
悔しさ、悲しさ、情けなさ……
自分の中に溜まった感情が、胸の中で膨れ上がっていた。
そんな時だった。
――トン、トン。
優しく、肩のあたりを叩くような感触がした。
やさしい[トントン]。
まるで、子どものころ――
いや、記憶にあるかどうかも曖昧なほど、遠い遠い昔に
誰かにしてもらったような……そんな[トントン]だった。
最初は空耳かと思った。
でも、確かにそこには、温もりに近い、存在のようなものがあった。
その[トントン]に、泣きたくなるほど安心した。
だけど、同時に頭のどこかで警鐘が鳴っていた。
――眠っちゃダメ。
心は穏やかになっていくのに、
脳だけが冴えていく感覚。
これは誰だ?
いつもの“あの人”なのか?
それとも、違う“誰か”なのか?
優しくて、怖い。
あたたかくて、正体不明。
気づけばその夜、私は一睡もできなかった。
でも、なぜだか「ありがとう」と呟きたくなった。
年末の、やさしい[トントン]。
それが、私を支えてくれたのか。
あるいは、連れていこうとしていたのか。
……その答えは、まだわからない。