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恋心はプールの底に

作者: 衣白帽紫

アイツはよく私をいじめた。私はいつも悔しかった。何故なら、私は……。


中学1年生の夏、私は両親と兄と弟と県外のプールに出かけた。私達が訪れたプール施設は、人工的に波を作り出すプールが目玉だ。私は兄と弟と一緒に真っ先に波の出るプールに向かった。プールは、本物の浜辺と海のようだった。海水浴に行ったことのない私達は波の立つプールに大興奮だった。プールは既に家族連れで混んでいた。私達は、最初は浅い場所で波の心地を楽しんだが、その内、波の発生源まで行くことになった。私は浮き輪を弟に渡し、私と兄は、弟を真ん中に挟んで波の発生源を目指した。このプールは波の発生源に近づくほど深くなる。次第に身体が水に浸かり、とうとう足が着かなくなった。もう戻ろう。私は提案したが、兄達に反対された。私は仕方なく、波の発生源を目指した。大きな波が来た。兄と弟は、はしゃいでいたが、私は不安だった。手を離したら溺れてしまうかもしれない。しかし、二度目の波が来た時、私は手を滑らせ、浮き輪から手を離してしまった。プールの底に足を着くと私は頭の先まで水に浸かる。何とかジャンプして顔を水面上に出すが、呼吸は波に邪魔された。溺れる。と、誰かが私を引き上げた。私を助けたのは可愛い女の子だ。背中に金色の羽が生えている。

「わたしはあなた達のキューピットよ」

ありがとう、と私は言った。

「まだ助かってないわ。ほら、見て」

彼女が指差す方を見ると、私達の真下に溺れかけている私がいた。

「何やってんだ!」

懐かしい声がした。

「来たわ」

女の子が言うと、私は水の中に戻っていた。何かが私の腕を力強く引っ張っていく。私はあっという間に岸にたどり着いていた。私の目の前にアイツが立っていた。ありがとう、と私は言った。

「まぁね」

アイツは耳まで赤くなっている。ありがとう、もう一度私は言った。私はにっこり笑った。アイツは、びっくりした顔をしてから微笑み返した。小学四年生の当時の姿のままだった。


ああ、やっと。


アイツの姿は、集まってきた大人達に紛れて消えていた。私の腕には子供の手形が赤く残っていた。あれから十数年、あのプールは、幽霊騒ぎが原因で潰れてしまったそうだ。

さて、確かにキューピットは、その名に相応しい働きをした。そして、私の恋心は、今なおあのプールの底に沈んでいる。私は腕に残る痣に口付けた。

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